明けましておめでとうございます。海外と日本を比べながら様々なトピックについて書いていますが、今回は年末年始ということで、日本とドイツのこの時期の「過ごし方」にスポットを当ててみたいと思います。
家族で過ごす時間、日本では「正月」、ドイツだと「クリスマス」
お正月のこの時期、日本では実家に帰省する人も多く、一年の中でもっとも「親」や「親戚」と過ごす時期かもしれません。家族や親戚と過ごすことで、癒されることもあるでしょうが、世代間ギャップなどにより「親」「親戚」VS「自分」の価値観の違いがあらわになることもあります。
既婚者で「義実家に帰省する」場合はもとより、お正月に「自分の実家に帰省する」ことも嬉しいと感じている人ばかりではありません。それは普段は自分なりのライフスタイルが確立し、それに満足していても、帰省時には親や親戚から時に自分の生き方を否定するような言葉を投げかけられるからではないでしょうか。疑問系ではあるものの「結婚しないの?」「子供はまだなの?」という具合に。
正月とは親や親戚とともに過ごせるという貴重な時期である一方で、自分の生き方に身内から「いちゃもん」をつけられてしまう可能性が高くなる時期でもあるわけです。ただ「世代間ギャップ」だけが原因とは限らず、例えば親が地方在住で、子が都会在住の場合、一概にはいえないものの、「女性の生き方」や「男女の役割」について考え方が違うことが要因になっている場合もあるようです。
家庭によっては、女性が台所仕事をすることが期待されている場合もあり、これも女性としては頭の痛い問題だったりします。昔と違い、共働きも多い今の時代、せっかく正月に仕事から離れ休めるかと思ったら、義実家で台所仕事をすることになると、正月にリフレッシュできたとは言いがたいです。
では、ヨーロッパではどうなのかというと、ヨーロッパにはこのような「しがらみ」は無い……と言たいところですが、実はしっかり「ある」のでした。
ただし、時期に関しては「正月」ではなく「クリスマス」です。ドイツを含むヨーロッパでは、まさにクリスマスこそが「家族や親戚と過ごす」ことが重視されます。ドイツでは女性が台所仕事を手伝わされるというのはあまり聞いたことがありませんが、基本的に「親」をたてなければいけないイベントであることは確かです。日本のクリスマスのように「恋人と二人きりでデート」というようなことはドイツではほぼ不可能で、恋人を連れて実家でクリスマスを過ごす、または自分が恋人の実家でクリスマスを過ごすことになります。恋人がいない場合は、親に「どうして、恋人(パートナー)がいないの?大丈夫なの?」と聞かれることもあります。ドイツのクリスマスはイヴの12月24日から26日までの3日間、親や兄弟、親戚などの家に顔を出さなければいけないというプレッシャーがある時期で、まさに日本の「正月」を思わせる過ごし方です。
家族愛を謳う「愛の祭り・クリスマス」を嫌がる若者も
ドイツでは12月になると、「ああ、もう12月だ、今からクリスマスが来るのが憂鬱」という若者の声を聞きます。筆者の友達もかつて家族で過ごすクリスマスを嫌がっていたのですが、理由を聞くと、「クリスマスツリーの周りに家族全員が立って、クリスマス・ソングを延々と合唱させられるから」とのことでした。この合唱をボイコットすると、父親が不機嫌になるため「ツリーを囲んで家族全員で歌を大合唱」が毎年繰り返され、友達はこれが嫌だったとのことです。「その家の習わしや伝統」が全面に出るのもまた日本の正月とよく似ている気がします。
そういった意味では、ドイツのクリスマスも日本の正月も、ある意味「しがらみ」が多いといえるでしょう。ただ台所仕事に関しては、総合的に見るとやはり日本の女性のほうが負担は大きいかもしれません。ドイツのクリスマスは肉料理が中心ですが、例えば南ドイツの家庭ではヴァイスヴルスト(白いソーセージ)を食べる家庭も多いのですが、ソーセージは「茹でるだけ」ですので、簡単です。
年末年始のドイツのデパートは「商品を返品する人々」でごった返し
ところでドイツのデパートは、クリスマス連休が終わると、かなり混んでいます。これはクリスマスに家族からもらったプレゼントを返品し、他の商品に取り換えてもらう客でごった返しているからです。ドイツ語でクリスマスはFest der Liebe(「愛の祭り」)といわれており、家族間での「プレゼント交換」は不可欠なイベントですが、ここに一種の合理性も加わり、最近のドイツでは「相手へのクリスマス・プレゼントにレシートを同封する」ことが多いのです。よって、もらったプレゼントが自分の好みと合わなければ、連休明けのデパートにレシートを持参し、もらったプレゼントを別の商品と交換することも、この時期のドイツにおける「あるある」なのでした。
「家族と一緒に過ごさなければいけない」という世間からの目
日本で「正月は実家に帰省しない」というと、「仕事」という理由でもない限り、時に怪訝そうな目で見られるのと同じく、ドイツでも「クリスマスを一人で過ごす」ことは、世間から「家族に愛されていない、かわいそうな人」と同情の目で見られる傾向があります。そんな「世間の目」も手伝って、ドイツでは普段はあまり仲の良くない家族であっても、家族愛を謳うこの「愛の祭り」(クリスマスのこと)に家族や親戚一同が集まったりしますが、アルコールの影響もあり、これが家族間での暴力沙汰に発展する事件もしばしば起きており、ドイツの警察はこの時期の家族間のトラブルを警戒しています。
そんなシビアな側面もあるドイツのクリスマスですが、年が明けても「クリスマス」の雰囲気は続いており、1月6日の「公現祭」(Heilige Drei Könige)までクリスマスツリーを飾っていることも多いです。一部のカトリックの家庭では冬の終わりを告げる2月2日の「マリア光ミサ」(Maria Lichtmess)までクリスマスツリーを飾っていることも。ただし、モミの木の葉が次第にじゅうたんに落ちるため、早々とツリーを片付けてしまう場合もあり、そこは家庭によって様々です。
日本でも、正月三が日が過ぎても、「新年のゆったりした雰囲気」はしばらく続いている印象です。初詣はもちろん、私は1月の日本の「ゆったりした雰囲気」がほのぼのしていて好きです。逆にドイツでは年越しの際に、大量の花火を打ち上げ、シャンパンを飲みながら友達と騒ぐのですが、次の日になると人々は早々と「日常」に戻っています。1月1日は祝日であるものの、1月2日からは何事も無かったかのように仕事もスタートします。そんなこともあり、筆者は「ほのぼの」とした雰囲気が長く続く日本の新年を毎年楽しみにしているのですが、「ほのぼの」と同時に「家族」にまつわる様々なことを考えるのもまたこの時期なのでした。