2005年春、ソウルの江南(カンナム)で、キム・ヒョンソク監督をはじめ、私たちは映画「クァンシクの弟クァンテ」の編集室に集まって作業をしていた。その時、俳優キム・ジュヒョクが、マネージャーも同伴せず一人でこっそりやってきた。住んでいる家から近く、編集がどういう風に進んでいるのか気になって寄ってみたという。彼が1、2時間座っている間に編集室の前に止めていた彼の車を動かしてほしいと電話がかかってきた。一緒にいた演出部や編集室のスタッフにキーを渡してもよさそうなものを、彼は直接出て行って止め直し、戻ってきた。少ししてまた電話があって、彼はまた出て行った。もう1回ぐらい、同じことがあった気がする。その時私は、キム・ジュヒョクという俳優は気さくな人だと思った。
「あの時、なんでああしたの?」と、とりとめもない質問をしようにも、彼はもうこの世にいない。先日、故人となった彼の一周忌を追悼する場があった。何人かの知人が彼を思い出し、目を赤く腫らして泣く人もいた。とはいえ、概ね淡々と、静かな雰囲気だった。
キム・ジュヒョクは、彼が演じた役の名前で呼ばれ、覚えられている俳優でもある。映画「どこかで誰かに何かあれば間違いなく現れるMr.ホン」の「Mr.ホン」や、「クァンシクの弟クァンテ」の「クァンシク」、バラエティー番組「1泊2日」の「クテンイ兄」などが、そうだ。ヒュー・グラントのようにロマンティックコメディーにぴったりの演技スタイルと外見を兼ね備えていると思っている私は、もっとたくさんの彼のラブストーリーやロマンティックコメディーが見たかったが、最近は冷酷で強烈なキャラクターの悪役を熱演していた。
「Mr.ホン」の主人公は、映画のタイトルにあるように、街のどこかで大小様々な事件があるたび、間違いなく顔を出す人物だ。ジャジャン麺の出前、コンビニや食堂のアルバイト、ライブカフェの歌手、屋根の修理工として、街で歯科を開いたばかりの女性主人公、ユン・ヘジン(オム・ジョンファ)の前に現れるMr.ホンは、定職のない暇人のようで、大事な場面で何でもできる人でもある。結局女心をつかんだMr.ホンのように、この映画はお人好しなようで、けっこうおもしろくて温かい。
「クァンシクの弟クァンテ」のクァンシクは、同じ大学の後輩に7年も片思いしている人物だ。片思いを隠そうと、同じサークルの他の後輩女性に優しくして、意図せずしてサークルの平和を維持するような人だ。「気持ちに気付いている程度では行動しない」という女性の心理を分かっていないクァンシクは、結局「オッパ(年上の親しい男性の呼称)はいい人」と言われて、7年の片思いに幕を下ろす。
正確なセリフ回し、決してオーバーでない表情、訓練された体の使い方など、卓越した才能を備えたキム・ジュヒョクが演じた二人の人物は、そうやって観客の心をつかんだ。
信じられないような事故で突然逝ってしまった彼の死は、彼が演じた映画の中の人物やバラエティーでのキャラクターと違って、人々を悲しませた。追悼の場で多くの人が「いい人、いい俳優」と言って彼の思い出を語った。キム・ジュヒョクの1周忌から数日たって、今日は彼の話を書いた。
(翻訳・成川彩)