■仕事がないとリズムが崩れる
古賀さんが「週末うつ」に着目しはじめたのは5年以上前のこと。診察に訪れる患者に、いままであまり見られなかった症状を訴える人が少なくないことに気づいた。「一定のリズムで過ごしているうちは問題がないのに、気の毒なことに、休みが挟まるとかえって不安になったり、体調が悪くなったりするのです」。仕事を中心とした毎日の生活のリズムが崩れると、本来は楽しいはずの週末に消極的になり「引きこもり」のようになってしまうという。この人たちは、よほど仕事好きなのだろうか?
だが、症状を訴える人たちの話を聞くと、決して「仕事が大好き!」というわけではなかった。むしろ「仕事自体はつらいのに、そのつらい中にいないとかえってひどい状況になってしまう」という人たちが多い。彼らに共通していたのは、まじめできちょうめん、人つきあいに気を使うといった傾向があること。「大多数が仕事している中にいると安心するので、土日を仕事でつぶすことはさほど嫌ではなく、むしろ休日に大多数から切り離されると不安になってしまうのです」
■休みの時間を充実させよう
これが「仕事依存」の症状なのだと、古賀さんは指摘する。「依存症というのは、半ば矛盾しているもの。アルコール依存の人が、毒だと分かっていながら飲まずにはいられなくなるのと同じです」。アルコール依存の場合、お酒を飲めば陽気にふるまったりできるのと同じで、週末うつの場合も「つらい仕事の中にいるときは、むしろ人と上手にコミュニケーションをとったり、バランスを保った生活を送ったりしやすい」のだという。
こうした現象の背景には、スマートフォンの普及がある、というのが古賀さんの見方だ。だれもがスマホを持ち、SNSを操る時代。休みの日にもスマホを手に数分おきに会社からもメールが来ていないか確かめたり、SNSで知り合いの充実した近況をながめたりしてしまうが、それで充実した気持ちになることはあまりない。誰かとつながっていたいという欲求が満たされず、さらにうつうつとしてしまう、という悪循環に陥りやすいという。
治す方法はあるのだろうか。古賀さんに聞くと、こんな答えが返ってきた。「お酒の場合は、お酒を止めなければ依存からは抜けられないのですが、仕事の場合はそれが難しい。働かないようにするのではなく、週末の部分をどう充実させていくかが重要です」。引きこもっているだけでは、ストレスはとれない。必要なのは三つのR(良い睡眠、リラックス、レクリエーション)だ。まずはゆっくり眠ること。何をすればいいかわからない人は、学生時代に取り組んだことを思い出してみるのでもいい。「たいそうなことをしなくてもいい。ただ、明日は休みだから何をしようかな、と考える。週末、風船の空気が抜けたような状態になるのではなく、空気は平日で抜けきっているわけで、それを週末にピンと入れられればいいのです」
■ライフのなかにワークはある
ところで、古賀さんが「週末うつ」の症状に気づき始めたのは、ちょうどワーク・ライフ・バランスという言葉がさかんに使われるようになった時期だという。「本来なら、ワークはライフの中に包含されるものなのに、ワークとライフが対立関係になってしまっている。変な言葉だと思っていました。ワークがまずあって、別の時間にライフがあるという考え方が、ワークをしていないと充実していないという考えを生んでいるのです。本来は、ライフの中にワークがしっかり位置づけられ、それで私生活と一体となって全部充実していくべきなのだと思います」