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タイの現在は日本の未来?(後編) 教育の機会失う外国人労働者の子どもたち

ミパドが行く!
バンコク市内スクムビット、テ―プラクサー地区のゴミ山のスラムの家とミャンマー人の子どもたち。学校には行っていない=写真は全て八木沢克昌撮影
バンコク市内スクムビット、テ―プラクサー地区のゴミ山のスラムの家とミャンマー人の子どもたち。学校には行っていない=写真は全て八木沢克昌撮影

近年、タイは日本より少子高齢化のスピードが早い。深刻な少子高齢化問題を抱え、慢性的な労働者不足に悩んでいる。国境付近の地域だけでなく、バンコク市内の移民労働者数が急増し、建設現場から日本人が使用するレストランや居酒屋、ホテル、屋台、市場、メイド等に至るまで、あちこちで移民労働者を目にする。

移民労働者を出す側である、カンボジアのタイとの国境を接する州の農村に行った時のこと。若者たちはタイへ出稼ぎに行き、残るのはお年寄りと子どもたちという村が多かった。その事情は、ミャンマーやラオスでも同じだ。農村には仕事がなく、自国の首都の建設現場で働くくらいなら、タイへ行った方が約2倍近い賃金がもらえる。

陸や川で国境を接するタイへの出稼ぎはハードルが低い。国境に住む住民は両国ともにパスポ―トがなくても、ボーダーパスと呼ぶ国境通過証で簡単に越境ができる。歴史的には国境を越えて自由に行き来していた時代もある。国境を越えて学校に通学するのは普通の光景で、大人たちも越境して通勤して働く。全ての国境線に鉄条網や壁があるわけでもない。

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タイ・メソト国境を流れるムーイ川を舟で渡るミャンマー人 ボーダーバスで手続きなしで渡る

少子高齢化による労働不足で悩むタイと、農業では食べていけず、産業も少なく雇用がないカンボジア、ミャンマー、ラオスといったタイと国境を接する国々。隣国の貧困や経済の格差が移民労働者となって相互に依存している。

国境を越えた貧困の再生産

タイ国内に住む移民労働者は、賃金や労働条件、滞在許可から医療や子どもたちの教育問題、基本的人権に関わる様々な問題を抱えている。

タイ政府は、2005年以降タイ国籍の有無に関わらずに移民労働者の子どもたちが公立学校での義務教育を受けることを可能とした。しかし、移民の子どもの入学は校長の裁量に任されている。多くの移民労働者は、こうしたことを知らない。知っていても経済的理由や言語の問題、偏見差別等の理由から行かせられない。移民労働者の子どものたちのための学校は地元のNGOや寺院やキリストの教会等が運営・支援しているが、こうした学校は、ミャンマー人の多いタイとミャンマーの国境であるメソトやバンコク近郊のマハチャイ等に限定されている。

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バンコク市内スクムビット、テ―プラクサー地区 移動図書館で本の読み聞かせに参加する子どもたち

特に深刻な問題を抱えるのは、バンコクのゴミ山のスラムのテ―プラクサー地区など、移民労働者の子どものための学校がない地域の子どもたちだ。母語でもタイ語でも教育の機会が奪われている。

ここに住むミャンマー人の子どもたちも15歳前後になると大人に混じって仕事をして、一日100バーツから150バーツを稼ぐという。大半の子どもたちは学校には行っていない。国境の町メソトなどにあるような、ミャンマー人移民労働者の子どものための学校は、ここにはない。

LPNのソンポンさんは、「将来的にタイに暮らすならば、タイの学校での正規のタイ語教育は欠かせない。タイの高校を卒業していれば安定した職に就ける。タイ語ができなければ、不安定且つ過酷な日雇い労働を続けるしかない」と語る。ミャンマーに帰るのであれば、ミャンマー語での教育を受けていないとミャンマーで安定した仕事に就くことはできない。

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タイ・ミャンマー国境街 メソトのゴミ山で働く ミャンマー人 ゴミが生きる糧

タイ国内でも幼児期からの教育の質の格差が固定化。さらに教育の格差が貧富の格差の固定化につながっている。移民労働者の子どもたちの教育の機会の欠如が、国境や民族を越えて二つの国の社会の貧困の再生産や社会不安につながることは明らかだ。

移民労働者の子どもたちの教育の問題だけをとっても、一国だけでは解決できない。私たちにできるのは、国境を越えた貧困の再生産という負のサイクルを断ち切る地道な教育の機会の向上の支援なのだ。

スラムと国境付近には、隣り合う二つの国の社会の希望と絶望が混沌としている。二つの国の今を映し出す鏡のようだ。スラムに暮らし、国境を越えて隣国の農村等を教育支援で訪れていると見える現実だ。