Review1 一青窈 評価:★★★★(4=満点は★4つ)
心動く「変わった映画」
すごく感覚を研ぎ澄ませてくれる映画。変わってるといえばその通りなのだが、想像力をいつの間にか鍛えられてしまうところが素晴らしい。
主人公が闇の中を彷徨い、かき分け入るその動作に合わせて、極端に映像が暗くなったり、対象物を捉える瞬間に光の影響で焦点がぼやけたり、霞んだり、あたかも己の肉眼で景色を覗いてるように体感できる作品だ。同時に、バーチャルに肉体を共鳴させることで主人公さながら心が動いていく自分にも気づける。これまで観てきた映画は非常に客観的なものであったと実感せざるを得ないほどだ。
視覚体験を通して、物事の全体を掴めるので、直島にあるジェームズ・タレルの作品をふと思い出した。あの時も非常に感動を覚えた。真っ暗がりの中、じっと佇んでいると光に質量があるのではと思えるほど、身体全体で光という存在をつかむことができた。この映画は五感を呼びさましてくれて、さらに想像力で鑑賞することができる。恐らく監督の意図するポイントはそこにあって、観客の持っている力で映画がはじめて完成するのだと思う。いかにも仏らしいロリータコンプレックスとも言うべき官能の世界もアーティスティックに料理されていてお見事!
Review2 クロード・ルブラン 評価:★★(2=満点は★4つ)
巨匠の影響「重し」に
あまりイメージは浮かばないかもしれないが、ベルギー映画というジャンルは確かに存在し、独創的ですてきな作品を定期的に生み出している。
今回の作品は、ジャコ・ヴァン・ドルマルが監督した1991年の『トト・ザ・ヒーロー』や96年の『八日目』に比べれば、最高の映画とまではいかないかもしれない。しかし、ドルマルの腕前を再び見ることができる。製作を担当したのはドルマル本人であり、彼の娘ジュリエットが撮影監督を務めている。
このナイーブなおとぎ話へのドルマルの影響は明らかだ。一方で、残念なのは、ハリー・クレフェン監督が、その影響力から抜け出そうと試みていないことだ。エンジェルの母親を演じたエリナ・レーヴェンソンを始め、役者たちの演技は見事だが、繊細さに欠けた演出が「重し」になってしまっている。愛を呼び起こす声がいろいろな場面で聞こえてくるのは、強くて重苦しい挿絵のようだ。
もっと力強い作品を生み出すことができたはずのテーマなのに、演出のせいで少し間の抜けた感じになってしまっている。ただ、欠点はいくつかあるにしても、ベルギー映画にとても活気があって、忘れてはいけない存在だという事実は何も変わらない。