地元の名門大学、成功大学のキャンパスには、昭和天皇がまだ皇太子だった1923年に台湾を行啓し、訪問の記念に苗を植えたガジュマルが、見上げるほどに大きく枝を伸ばしている。台湾鉄道の台南駅の東口から歩いて5分ほどの場所だ。
この大学の名前の由来となったのが「台湾の英雄」と呼ばれる鄭成功(てい・せいこう、1624~62)である。中国の王朝、明が滅ぼされ、清に代わろうとする時代に、明の復活をめざして、清に抵抗した歴史上の人物だ。
拠点を台湾に移す過程で、当時、台湾を統治していたオランダ東インド会社を撃退した。いまでは、台湾を「解放」した英雄と位置づけられている。
台湾の中心的な港だった台南には、オランダが築いた「ゼーランディア城」(安平古堡)が置かれていた。台湾海峡へつながる入り江近くに立つ赤レンガ造りの砦(とりで)を、鄭成功の軍隊が攻め落とし、オランダ勢力を追い払った。現在は古跡として修復公開されている。
実は生まれ育ちは日本
鄭成功は実は日本で生まれ育った。長崎県の平戸で、中国人貿易商と日本人女性との間に生まれ、その後、中国に渡った。台南市中心街にある「鄭成功祖廟」の前には、母親の田川マツと幼い鄭成功の石像がまつられており、「鄭成功文物館」には当時の史資料が展示されている。
今年、その英雄の名前にあやかって開発された新商品がある。「成功ポテトチップ」と「成功ビール」だ。包装や缶に鄭成功の肖像画が描かれ、「一定要成功(必ず成功するぞ)」と記されている。台南の観光地の売店だけの限定販売だ。
台南市政府が企画し、今年初めにポテチを販売。試験合格を祈願するお土産として人気となった。入荷するとすぐに売れ切れてしまうため、現在はひとり2袋しか購入できない。売店の店員は、「父母や祖父母が、受験生のためにと買っていきます」と話す。
第2弾として、8月に大人向けに登場したのが「成功ビール」だ。中身は「台湾ビール」と呼ばれる地元の通常のブランドだが、仕事や事業の成功を祈る縁起の品として喜ばれている。両者とも値段は35台湾㌦(約130円)と手頃だ。発売から1カ月で、ビールは約3万本も売れたという。
私もふたつの品を合わせて買ってみた。台北に戻って封を開ける。ポテチは日本の品より少し塩味が利いて、当然だが、ビールの苦みによく合う。取材を終えて、ほっと一息。どうか、首尾よく原稿がまとまりますように。鄭成功に祈って、飲み干した。
今回の台湾メシ
台南の名物のひとつに「虱目魚(シームーユイ)」という魚がある。「サバヒー」「ミルクフィッシュ」などとも呼ばれ、鄭成功の時代に台南地域で養殖が始まったと言い伝えられている。煮ても、焼いても、スープにしても美味な大衆魚だ。
この魚の生態や養殖の歴史を伝える「虱目魚主題館」(台南市安平区光州路88号)という施設があり、料理も味わえる。私が頼んだのは、魚の身が入った名物のお粥と塩焼き(両方とも150台湾㌦、約540円)。街の食堂より値段はやや高めだが、各種の虱目魚料理を味わえる。