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次々と新機軸を打ち出すモスクワ地下鉄

迷宮ロシアをさまよう
モスクワ地下鉄の新型車両。USB電源でスマホを充電する、いまどきロシア女子(撮影:服部倫卓、以下同様)。
モスクワ地下鉄の新型車両。USB電源でスマホを充電する、いまどきロシア女子(撮影:服部倫卓、以下同様)。

IT化への対応

前回は急成長を遂げるモスクワ地下鉄につき、その全体像を語りましたが、今回のコラムでは、最近モスクワ地下鉄が打ち出している様々な新機軸を見てみることにしましょう。

やはり目立つのは、IT化への対応です。その代表格が、前回ご紹介した交通系ICカード「トロイカ」。カードだけでなく、指輪型トロイカもあるという話は前回しましたが、実はキーホルダー型やブレスレット型もあります。ブレスレットはカラーバリエーションも豊富で、もはやちょっとしたお洒落アイテムです。

東京では、外国人観光客を意識してか、地下鉄にWiFiが導入されましたが、使い勝手が悪いので、筆者は使っていません。一方、モスクワ地下鉄では2014年から全線で無料のWiFiが利用できるようになり、こちらは簡単に接続できるので、乗客に喜ばれています。さらに、一部路線の新型車両では、車内にUSB電源が備え付けられ、乗客がスマホなどのデバイスを充電できるようになりました(冒頭の写真参照)。

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地下鉄14号線なのに地上を走る「モスクワ中央環状線」。車内には自転車を置ける場所もあり、ロシアの新たなライフスタイルを感じさせる。

近年最大のヒット、モスクワ中央環状線

これは、地下鉄の話題に含めていいかどうか、ちょっと微妙かもしれません。前回述べたように、現在モスクワの地下鉄は14路線あるのですが、それとは別に、「モスクワ地下鉄」社の傘下にある地上路線が2つあります。2004年に開通したモノレールと、2016年に登場したばかりのモスクワ中央環状線です。

モスクワ中央環状線は、「モスクワ地下鉄」社が経営する「地下鉄14号線」とされていますが、地上を走行するだけあって、運行はロシア鉄道社に委託されています。元々は貨物線として利用されていた路線を電化・改修し、新たに旅客鉄道として蘇らせたものです。モスクワ地下鉄には以前から「環状線」がありましたが、その外側にもう一つの環状線が誕生した形です。

モスクワ中央環状線は、全長54kmで、31の駅があり、1周すると84分かかるそうです。車両には、ドイツ・シーメンス社の設計した「ラストチカ号」をロシア国内で現地生産したものが使用されています。騒音や揺れが少なく、座席にも余裕があって、非常に評判が良いようです。

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完成したばかりのCSKA駅。CSKAと言えば赤・青がシンボルカラーであり、「赤だけなのはいかがなものか?」と一瞬思いましたが、良く見たら反対ホームが青になっていました(笑)。

サッカー・スタジアムの最寄り駅が続々誕生

モスクワでは、サッカー専用スタジアムに改築されたナショナルスタジアム「ルジニキ」と、新たに建設されたスパルタク・モスクワのスタジアムが、先のFIFAワールドカップ(W杯)の会場として使用されました。実は、W杯の会場からは惜しくも漏れたものの、CSKAモスクワも最近自前のスタジアムを完成させ、ディナモ・モスクワも完成目前です。昨シーズンのチャンピオンのロコモティヴ・モスクワは、いち早く2002年にホーム・スタジアムを開設しています。つまり、今やモスクワは、国立競技場に相当するルジニキに加え、4つのビッグ・クラブがそれぞれ立派なサッカー専用スタジアムを手に入れたことになります。

そして、筆者が強調したいのは、これらの5つのスタジアムには、すべて地下鉄(モスクワ中央環状線も含む)の最寄り駅が存在することです。ディナモとロコモティヴのスタジアムの隣には、最初から地下鉄駅がありましたので、アクセスの良さは保証済みです。スパルタクでは、スタジアムのこけら落としに先立って、2014年8月に最寄りの新駅が出来ました。そして、CSKAでは、新路線開設の一環として、本年2月にスタジアム最寄り駅が誕生しました。

筆者が特に素晴らしいと思うのは、ディナモ、スパルタク、CSKAと、クラブの名前がそのまま駅の名前にもなっていることです。ロコモティヴだけは、以前からチェルキーゾフスカヤ駅だったので、今もそのままですが、その代り、モスクワ中央環状線の最寄り駅がロコモティヴ駅と名付けられました。

自分の愛するクラブの、サッカー専用新スタジアムが完成し、それが駅近で、しかもクラブ名が駅名にも冠される。駅は、クラブのシンボルカラーで彩られる。そんなことが実現したら、たぶん筆者は泣くと思いますね。

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ラスカゾフカ駅の壁にびっしりと書き込まれた作家たちの名前。

度肝を抜かれた「物語駅」

筆者は8月の下旬にモスクワに滞在していたのですが、テレビのニュースで「本日、モスクワ地下鉄のソンツェフスカヤ線で、新しい駅が一気に7つも誕生」という話題が伝えられていました。翌日、偶然にもその線に乗る機会があったので、少し足を伸ばして、新しく出来た駅を見に行くことにしました。

一連の新駅は、それぞれ駅の名前にちなんだデザインが施されており、面白かったのですが、極め付けが、現時点での終点駅になっているラスカゾフカ駅でした。ロシア語で「ラスカーズ」という単語がお話、物語などを意味するので、「何かいわくありげだな」とは思っていたのですが、ラスカゾフカ駅に着いてみてビックリ。上の写真に見るとおり、駅の壁という壁に、ソ連/ロシアを代表する作家たちの名前がびっしりと書き込まれたデザインになっていたのです。しかも、ホームの柱には名だたる文豪たちとその作品名が書かれ、QRコードで電子書籍を無料ダウンロードできるようになっているではありませんか。かつてのソ連邦は「世界で最も本を読む国民」を自任していたのですが、その底力を見せつけられた思いがしました。

日本では、ロシアが日本よりも遅れた国であると、漠然と思っている人が多いかもしれません。筆者にしてもそうだったのですが、今回ラスカゾフカ駅の光景を目の当たりにして、「あれ? 実はうちらの方が周回遅れ?」と、自信がなくなってきました。

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トルストイ、ツルゲーネフ、ゴーゴリらの名作をダウンロードできる。