テニスの4大大会のなかでも、最も古い伝統と格式を誇るウィンブルドン選手権。「テニスの聖地」とも称されるロンドン郊外のオールイングランドクラブは、荘厳な雰囲気が漂う。白いウェア着用を義務づけられたトッププロたちの躍動が緑の芝のコートに映える。
会場から道路を隔てた敷地に、めざす場所があった。センターコートから歩いても5分かからない。「ザ・ウィンブルドンクラブ」。れんが造りの2階建ての建物のバルコニーでは、紳士淑女が平日の午前中から優雅にシャンパングラスを傾け、談笑していた。
「午前11時から、あらゆるドリンクとおつまみが用意され、午前11時半からランチがスタートします。センターコートの第1試合は午後1時。早めがおすすめです」。そう説明してくれたのが、現場を仕切るマーカス・ニールだ。ランチはアラカルトで前菜、メイン、デザートが選べる。ロンドンの高級レストランに引けを取らない質の高さだ。目当ての試合の後、午後3時半からは英国伝統のアフタヌーンティー。サンドイッチやスコーン、ケーキと一緒に紅茶、コーヒーが用意されている。営業は午後7時までだから、丸一日、ゆったり過ごせる趣向だ。1日に最大160人を収容できる。
気になる料金は、男子シングルス決勝がある最終日はチケットや食事込みで4395ポンド(約62万円)で、安い日でも1000ポンド(約14万円)程度する。当日券を求めて徹夜組が出るのが日常的なウィンブルドンとはいえ、富裕層でないと手が届きにくい。
この企画を手がける英国のスポーツホスピタリティー専門会社のセールス責任者、マシュー・リークによると、民間企業が取引先の接待で活用するケースが多いという。「平日の昼間にお得意先を会議室から青空の下に連れ出し、気持ちの良い時間を過ごしてもらえる。家族も招いて、リラックスした時間を過ごせば、おそらく次の商談もはずむでしょう?」
試合会場内や隣接したスペースで飲食サービスなどを提供するスタイルが広まったのは2000年代以降で、この会社が手がけた12年のロンドン五輪では1万人以上が利用。英国で開かれた15年のラグビー・ワールドカップ(W杯)では旅行の手配を含めた顧客は25万人を超えたという。
日本も有望市場に
リークが来年以降、魅力的な市場として注目するのが、日本だ。19年にはラグビーW杯の熱戦が全国12会場で展開される。20年には東京五輪・パラリンピックが控える。「英国人で日本を訪れたことのない人は多い。ラグビーW杯は最高の起爆剤だ。日本の観光地を訪ねてもらえる。日本は歴史のある国だし、和食ブームも追い風になる」
来年のラグビーW杯は日本の旅行業者ではJTBが扱う。料金はチケットに飲食など込みで7万5000円から。ウィンブルドンの視察に来ていたJTBスポーツビジネス推進室の藤田一成は「来年のラグビーW杯が日本でスポーツホスピタリティーが根付くきっかけになればと思う。スポーツの観戦文化が豊かになれば、新しいファン層も開拓できる。この新たな文化がコンサートや演劇などエンターテインメント全般に浸透してほしい」と期待する。(文中敬称略)