新戦力が躍動し、今夏の補強策の大成功を見せつける3―0の圧勝劇だった。
9月、欧州チャンピオンズリーグ(CL)の1次リーグで、バイエルン・ミュンヘン(ドイツ)を迎えたPSGはバルセロナ(スペイン)から史上最高の2億2200万ユーロ(約288億円)の移籍金で獲得したブラジル代表ネイマールがドリブルで持ち込み、ユベントス(伊)から移籍のアウベスとの連係で先制した。
2点目、3点目に絡んだのは新加入したエムバペだ。18歳のフランス代表の至宝は、国内リーグの宿敵モナコから獲得。期限付き移籍という形だが、すでに1億8000万ユーロの移籍金で買い取るというオプションがついているとされる。
欧州クラブ王者を争うCLでPSGは過去20年で8強が最高。一方のバイエルンは5度の優勝を誇る名門中の名門だ。しかもビッグクラブ間の高額な選手引き抜きとは一線を画し、堅実な経営が伝統だ。
バイエルンのルンメニゲ社長は、大金でネイマールがPSGに移籍した時に独紙にこう語った。「私たちは別な哲学を持っている。狂気じみた傾向に付き合う気はない」。それだけに金満クラブのPSGに喫した惨敗は、より屈辱的に映った。
欧州サッカー界を席巻するのは強欲な資本主義の弱肉強食の一面だ。2000年代以降、資源価格の高騰が資金の急激な流入につながった。03年、石油で財を成したロシアの富豪アブラモビッチがチェルシー(イングランド)を買収し、カネに糸目をつけない選手補強で栄冠を手にした。米国、中東、アジアの大金持ちも追随。他のクラブも無い袖を振ってでも選手補強に走り、債務超過で降格する名門、古豪も出た。
クラブ経営でも「フェアプレー」
そうした危機感から欧州サッカー連盟(UEFA)が11年に経営健全化の切り札として打ち出したのが、「ファイナンシャル・フェアプレー制度」だった。文字通り、「財政面で公平に戦おう」。クラブの収入にみあった身の丈の経営を呼びかけ、一時は抑止効果が出ていた。
しかし、オーナーたちの栄光への欲望は抑えきれない。11年からカタールの政府系ファンドが実権を握るPSGと、アラブ首長国連邦のアブダビの投資ファンドが08年に買収したマンチェスター・シティー(イングランド)は近年、移籍金の高騰をあおる2大金満クラブとして知られる。個人の富豪ではなく、事実上国家が石油などから得た無尽蔵の資金で支援にあたっていると問題視されている。
スペインリーグのテバス会長は「PSGとマンチェスター・シティーの振る舞いは欧州の競争をゆがめ、サッカー界に取り返しのつかない損害を与えるインフレの連鎖を生み出す」と非難。両クラブの財務事情を調べるよう求めている。
マンチェスターUを率いるモウリーニョ監督がこんな警鐘を鳴らす。「ネイマールには2億2200万ユーロの価値があるだろう。彼の移籍が問題なのではない。彼の移籍による影響が問題なんだ」
世界からなだれこむ巨額の資金を放任した場合、「勝ち組」と「負け組」の二極化は進む。実力差が歴然とし、勝負の行方が見える「消化試合」が欧州の各国リーグで増える恐れがある。(文中敬称略)