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仕事は現場にあり!

世界どこでも住めば都、国連職員ニョコボク日記 更新日: 公開日:
この事業は日本の農林水産省からの拠出金で実施しています=2018年3月、リベリアのメレキにて、WFP提供

大きな問題を大きなまま解決するには
私たちは無力すぎるから。
大きな問題を粉々に砕いて、
目の前に落ちてきた小さな動く現実に
愛とエネルギーを注ぐのだ。
人の上に立たずに
人の下にいかないで
人の真ん中で。
(2010年3月11日「人の上、人の下、人の中」消化物展示場@ソマリア)

8年たっても自分の仕事に対する「向き合い方」が変わってないなぁ、と昔書いた自分のブログを見返す。2~3年毎に新しい赴任地に行って、新しいチームと"新しい"問題(これは“私”にとってというだけで、現地に住んでいる人にとっては恒久的なことなのだけれど)に直面するから、ある意味いつも新鮮な気持ちで仕事に向き合えるからかもしれないし、懸命に仕事をしてもなかなか「問題が改善した!」ところまで行かずに次の人にバトンタッチをしなければならない無力さに何回もぶちあたって厚くなったきた面の皮のせいかもしれないのだけれど。

一週間のシエラレオネ出張を終えて、今は明日の飛行機待ちでこのコラムを書いています。前回は5月の初め、昨年に終わった事業の修了式典に参加するためだったので二か月ぶりです。

今年に入ってからは5回目の出張。ほぼ1.5か月に1回の割合で、1回の出張はだいたい1週間から長いもので2週間(うちは夫がソマリアに単身赴任しているので、子どもをおいて出るのはこれが限界)。首都のオフィスで1日ミーティングに参加することもありますが、だいたい空港からそのまま現場に直行することの方が多いので、日曜日に到着して、月曜日からのワークショップや視察に備えます。

今回はWIFIのインターネットどころか電話も通じない「田舎」の村で、他の国連機関やNGOと一緒に事業の計画立案に不可欠なコミュニティーを巻き込んでのワークショップを行いました。一週間かけて村人と一緒に村のマッピングをし(一緒に村を歩いてインフラの状況や現状や問題解決の糸口をみつける)、村のリソースや、やるべき事業内容を話し合います。

村のリソースをマッピングする=2018年7月、シエラレオネ、プジュンで©Mio Nozoe/WFP

私が特に好きな「お宅訪問」、要するに聞き取り調査では、首都のオフィスにいて読むレポートでくるっと「概要」や「数字」になってしまうと見えてこないさまざまな現実に触れて、事業にとりこみたいアイデアがたくさん出てきます。

私が訪問した村は、だいたいの家族が1日に食べるのは1回(10家族中2家族だけ2回)、収穫の季節でないと野生に生える芋で1日を過ごすことも多いようで、近くの市場、クリニックまでに歩いて8キロかかるとか、村に二つあるポンプは2015年に壊れてしまってから誰も修理できず、水は近くの川から確保するとか(もう一つのポンプは設立した当初から1回も使えてない)、一つの家で3つの家族、28人も住んでいる(!)など、普通の日本の生活からは、なかなか想像がつかない村の生活がみえてきます。

国連の統計ではシエラレオネは6割が1日1.25ドル以下で生活していますが、実際、今回会った村の人はほとんど字も読めませんし、中学校まで進める子どもも多くありません。確かにそこにある貧困や生活の厳しさは否定できませんが、その貧困によって彼らが「不幸」であると全く言えないところに人間のたくましさと可能性を感じます。

発言にも力がはいる©Mio Nozoe/WFP

私たちが村に入るとみんなゾロゾロ集まってきて、歌を歌いながら一緒に村を回ります。どこでも好奇心に満ちた子どもたちが集まり、一つの家に10人も20人も住んでいて「孤独」とは無縁の生活ですし、食べ物がないのに、私にバナナやココナッツをもってきてくれたり、しまいには「昼ごはん食べていくか?」と聞いてくれたりするのです。

今回の出張の趣旨ではありませんが他の国連機関・NGOの職員たちと「シエラレオネには自殺がない」という話で盛り上がったりもしました。数字だけでは見えてこない、踏み込んでいくと、どんどんもっと奥の扉が開いてくる面白さがこの仕事にはあります。

普段、都会の事務所にいると、どうしてもコンピューターベースの仕事、会議、文書作成が多くなるので、その合間に、こうやって本来私たちが働いている「主な理由である」人たちに会いに、作業靴に履き替えて沼地を歩き、あひるやらひよこが横切る村でミーティングをし、いろいろ教えてくれる村の人たちや、エネルギーが全身から発散されている子どもたち、現地のNGOや国連のカウンターパートの人と夜遅くまで時間を過ごして「現場の空気」をしっかり充電するのです。

この現場の空気パワー、ふと目にする瞬間や、現地の人の言葉で、私がこの仕事をしようと思った「初心」に返らされたり、心に飛び込んでくる現実の重さや大きさに、「さー仕事しなくちゃ!」と奮いたつことが多いものです。

事業開始前の聞き取り調査、シエラレオネのキネマにて=2017年11月、WFP提供

村の生活は確かに「持たざる」生活です。電気もないし、水も川からだし、学校もちゃんとあるところばかりでないし、制服を買うお金も、毎日お腹いっぱいになる食料もありません。

レポートや文章で読んでわかったような気になる現場の「問題」ですが、現地に行けば、その一つ一つを構成する人達の顔が見えてきます。私の関わっている事業の目標は小規模農家の収入向上を手助けすることによる食糧の確保なんですが、村を回っていろんな話をする中でその「収入向上」をするために必要な項目がいろいろできます。それはWFPが直接関係する食料関連の支援かもしれないし、教育が絡むことならユニセフ、保健衛生に関わることならWHO、そして大小さまざまなNGOも活動していますから、そういうアクターを巻き込んで大きなシナリオを作っていくのも私たちの仕事です。そう、一人でも一機関でも限界があるから、できるだけ多くの人にプラットフォームに乗っかってもらい、そしてお金を調達して「プラン」を「戦略」に変えていかなければいけません。

SDG(国連の持続可能な開発目標)の一項目でもある2030年までに飢餓をなくす「ゼロ・ハンガー」が私の働くWFPの大目標ですが、80か国ある活動国の中の1つの、これまた3つの州の9つの地区に対象を絞って「大きな問題を細かくして」取り組んでいる最中です。昨年末から始まり5か年の予定です。まだ始まったばかりですが、しっかり「現場の空気」を充電したあとの気持ちで事務所に戻って仕事に励みたいと思います。ではまた再来週!