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発明と実験、あとは寝て待つ それが野生動物カメラマン

世界報道写真展から――その瞬間、私は
Photo: Bence Máté
Photo: Bence Máté

ベンツェ・マテ

この1枚にどんな苦労があったのだろう。野生動物の写真には、いつもそう思わされる。ライフル片手に、雨風や虫の襲撃に耐え、じっと息をひそめ……。

ハンガリー人のベンツェ・マテ(33)はそんなことをする代わりに、「発明」を重ねてきた。12歳の時、自宅そばに野鳥撮影のための隠れ小屋をつくって以来、野生動物を撮るため様々な技術や手法を考案してきた。一方からしか見えないマジックミラーの隠れ小屋をつくり、ミラー越しに動物を撮影する手法は世界に広まった。「最善のアイデアは、たいてい単純なものだよ」

南アフリカの保護区にできた隠れ小屋は、室内にエアコンや上等のひじ掛け椅子を完備。「良い写真を撮るには時間が必要。快適さこそ重要なんだ」

その小屋を設置する仕事の傍らに撮ったのが、満天の星と野生動物の写真だ。カメラからの距離も、明るさも異なる二つの被写体を1枚の写真にどう収めるのか。考えたのは、手前の動物をまずフラッシュでとらえ、シャッターを30秒間ほど開けたままの状態で、ピントと絞りを動かして星空を撮る手法だ。撮影は、水飲み場に仕掛けたカメラが一定間隔で自動的に行う。焦点と絞りを自動的に動かす装置は、バネや釣り糸で自作した。

あとはホテルで寝ながら待つだけ。ところが、夜が明けてカメラをチェックすると、動物は何も写っていない。やり方を変えて、また翌朝を待つ。この連続だ。人間のにおいに敏感な象に、撮影装置を壊されたこともあった。フェイスブックで助言を募り、唐辛子の粉をまわりにまくというアイデアで解決した。結局、納得いく写真を撮るのに1カ月間を費やした。

マテは1年の大半を、こうして野外で過ごす。「僕はもともと、自然をただ眺めているのが好きなんだ。写真はそのお土産だね」

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Photo: Bence Máté
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Photo: Bence Máté
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ベンツェ・マテの監修で南アフリカに建てられた隠れ小屋は一般にも貸し出され、アマチュア写真家らに人気だ。マテはパナソニックのLUMIXアンバサダーも勤める(本人提供)

野生動物の写真

19世紀前半に写真が発明された当初は露光時間がかかり、野生動物の撮影は難しかった。「世界一の動物写真」(日経ナショナルジオグラフィック社)によると、「史上初の本物の野生動物の写真」は1870年に米国人が撮影した、コウノトリの仲間が巣に降り立つ姿。19世紀おわりに短い露光時間での撮影が可能になると、「野生動物の写真の時代」が到来した。以来、写真家たちはさまざまな技術や工夫を用いて、野生動物の姿に迫ってきた。

この分野で権威あるコンテストの英国自然史博物館「ワイルドライフ・フォトグラファー・オブ・ザ・イヤー」は1965年に創設された。55年に始まった世界報道写真コンテストでも81年に「自然(ネイチャー)」部門が登場した。