開催国ロシアのくじ運の良さの謎
12月1日にサッカーのワールドカップ(W杯)ロシア大会の組み合わせ抽選会が開かれて以来、私は勝手にサッカー日本代表の「偵察隊」を買って出ている。数日前には、ロンドンの自宅で香川真司が所属するドルトムントとバイエルン・ミュンヘンとのドイツのカップ戦をテレビで観戦。切れ味を取り戻しつつある香川を観察しながら、バイエルンに所属するポーランド代表レバンドフスキと、コロンビア代表のハメス・ロドリゲスの動きからも目が離せなかった。抽選会で日本と同じH組に入ったポーランドやコロンビア、セネガルというライバル国の主力の調子が、自然と気になる。
モスクワのクレムリンで行われた抽選会の取材にも出向いたが、実は、いまだに気になっていることがある。開催国ロシアの驚異的なくじ運の良さだ。
サッカーにさほど関心がない読者がいらっしゃるかもしれないので、一応説明を。抽選は出場32チームのうち、10月の世界ランキング上位7チームに開催国ロシアを加えた8チームを第1グループとし、以下、世界ラランキング順に8チームずつを、出身大陸を考慮しつつ、第4グループまで振り分ける。強豪ばかりがひしめく「死の組」をなるべく避ける狙いがある。
世界ランク65位のロシアが入ったA組の対戦相手は63位のサウジアラビア、31位エジプト、21位ウルグアイ。単純に4カ国のランクを足して4で割ると「45」。開催国特権で第1グループに入った恩恵なのだが、7位ポーランド、13位コロンビア、23位セネガルと同居する55位の日本のH組だと「24.5」。世界ランクは実力を測る目安に過ぎないが、やはりうらやましい。
開幕戦のカードはロシア―サウジアラビア。出場チームの世界ランクでは下から2番目とビリの対戦だ。ロシアがサウジアラビアと同組になる確率は8分の1。そのほか、第2グループで最強の10年大会優勝国スペインとの同居も、無事に避けられている。
「冷蔵庫から出したてのボール」の伝説
実は、W杯の抽選には「都市伝説」がある。抽選するボールの中から特定のボールを、あらかじめ冷蔵庫に入れてから抽選会直前に出す。そうすれば、抽選役の人がボールに触って温度差を感じ、狙い通りのボールを選ぶことができるからだ。あくまでうわさレベルの話だ。
今回、日本やサウジアラビアが入った第4グループの抽選役を担ったのは、06年W杯優勝メンバーの元イタリア代表、ファビオ・カンナバロさんだった。2階の記者席から肉眼で確かめるのは正直、無理だった。あとから映像で確認してみると、透明なケースの中で、カンナバロさんは手でボールをかきまぜている。そして、一番最初にサウジアラビアを引いたとき、目線がボールを見ていたかどうかは映っていなかった。なぜか、手の動きのアップだった。もちろん、温度差は確認できない。事実として8分の1の確率で、「最弱国」を引き当てた事実があるだけだ。
抽選会翌日、FIFA職員とランチに行った。聞いてみた。「ぶっちゃけたところ、細工ってあるんですか?」。イタリアンの前菜を口にしながら、彼は笑いながら言った。「それはわからないけれど、まあ、うまく引き当てたよね」。堅守イタリアの守りの要だったカンナバロさんだから、仮に細工があったとしても口を割るようなことはしないか。一緒に抽選をしたアルゼンチンの英雄ディエゴ・マラドーナさんだったら、いつか口を滑らせてくれそうな期待感もあるのだが……。
まあ、02年日韓大会のとき、日本が同居したロシア、ベルギー、チュニジアも恵まれたグループで、日本は見事、史上初の1次リーグ突破を果たした。開催国が勝ち進まないW杯は大会として盛り上がらないのは、事実なわけで。