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世界の人々を魅了する 日本人のクレイジー・ラブ

マイケル・ブースの世界を食べる 更新日: 公開日:

奇妙で偏執的で、狂おしいまでの食への愛。


正直に言わせてもらう。時として日本人は、外の世界からみれば完全にご乱心である。我々外国人が今までもこれからも理解できないであろう文化的、社会的事象の多いこと多いこと。神道しかり、アンパンマンしかり。歌舞伎にしても、AKB48にしてもだ。その中にあって、困惑の極致とも言えるのが食だろう。

ヨークシャー・プディング(肉料理の付け合わせとして食べるシュークリームの皮のようなもの)が料理の最高峰とされ、他はすべてパイに包まれてしまう国出身の私だが、わが国民の奇行ぶりも、日本人の食習慣に比べればかわいらしく見えてくるというものだ。私自身、この1年でスーパーの店先に並ぶ立方体のスイカや原宿の「グルメポップコーン」に並ぶ500メートルはあるだろう行列を目撃し、日本酒味のキットカット(実際そう悪くない)や100種類のしょうゆがそろうバーも体験した。ラーメンへの狂気じみた執念や1億5500万円で落札されるマグロ、最新トレンドのふくろうカフェについては言うまでもない。

極めつきはクリスマス。何がどうなって某大手フライドチキンチェーンはこの国で、バケツいっぱいの大量生産チキンとともにキリスト生誕を祝うことを奨励したのだろうか。

何やら聞こえてくるだろう。日本の狂信的食事情に触れるたび、動揺した何千万という人々の首が、世界中でいっせいに振られている音が。

キティ柄メロンと狂気の愛

どうか気を悪くしないで頂きたい。この特異性こそが、私たちがこんなにも日本を愛し、外国人観光客数が過去最高を更新し続けている理由に他ならない。

初めて訪れた17年前、私は日本に恋をした。今まで訪れたどの国とも違っていたからだ。その思いは、今も変わらない。

これは鎖国のおかげと言えるのだろう。世界から孤立した200年余りの月日が、日本文化を特別で独特なものへと発展させたのだ。

その影響は、いまも感じ取ることができる。世界と「接近」こそすれ、ほとんど「接触」することなく、己の道をたどり続けている国。この半世紀こそ西洋の影響が色濃いと言えるが、日本人はそれを取り込んでは、自らの文化に合わせて調整してきた(少なくともアメリカ人には12月25日をフライドチキンで祝おうという野心はない)。サラダケーキ(いま話題の野菜でできたケーキ)、皮の網目がハローキティ柄の高級メロン、ウナギ味コーラといったきてれつな食品を、外国人は笑うかもしれない。だがここに、大事な論点がある。

日本人は今も、いかに世界に適応し、認知され、相互関係を築けるかという深い自己洞察のさなかにあるのだろう。グローバル化や現代式通信手段の圧倒的台頭は、人々に有無をいわさぬ変化や適合を強いる。めまぐるしい変化と外圧の中で、核となる特色を固持するには、相応の覚悟と自信が必要だ。

ではなぜ、訪日外国人は増え続け、日本文化への関心も高まる一方なのか?

それは、みなこの国の特異性に魅せられているからだ。神道、ポケモン、Jポップに相撲、懐石料理、そして日本酒味のキットカットに。外国人にはやはり理解できないかもしれない。だが、日本人の食に対する執念やクレイジーな情熱、最前線の食ネタへの無邪気な興奮—。これらこそが、世界でもっとも目が離せない、興味深い文化の生命線となっているとは言えそうだ。