フィジカルAIの「筋肉」で世界へ スタートアップW杯九州予選、「Piezo Sonic」優勝
2017年に始まったスタートアップW杯は、米シリコンバレーを拠点とするベンチャーキャピタル「ペガサス・テック・ベンチャーズ」が主催。8回目となる今回は世界130以上の国・地域で予選が開催されている。
九州予選の会場には多くの観客や投資家が詰めかけ、各社代表による熱いプレゼンテーションに視線が注がれた。また今年度は、起業家精神の育成を目指して小・中・高・高専生を対象とした「ユースピッチ」や、地元スタートアップによる1分間スピーチなども同時に開催され、会場全体が熱気に包まれた。
優勝したPiezo Sonicが展開するのは、コイルや磁石を使わない独自の「超音波モーター(ピエゾソニックモーター)」を核としたモーションテクノロジー事業だ。同社代表取締役の多田興平氏は、進化を続ける「フィジカルAI」において、現実世界で精密・滑らか・自在に動くための「筋肉」にあたる駆動装置(アクチュエーター)が不足している課題に着目。約200年前の原理に基づく従来のモーターとは一線を画し、約1000倍の超高精度(0.00001°)や電源オフ時の姿勢保持を実現するモーターシステムを開発した。
半導体製造装置や医療機器、さらにはヒューマノイドロボットなど巨大な市場に対応できる同社の技術力の高さ、そしてすでに国内外で広がる導入実績が高く評価された。
熊本県八代市に拠点を置く同社は、2026年7月28日に起こった地震の影響で一時的に電気や水道などのインフラが止まり、製造稼働が停止する大きな困難に見舞われた。しかし、協力メーカーなどの支援を受けながら乗り越え、9月に本格稼働を再開して本大会へと臨んだ。
優勝が決まった瞬間、多田氏は喜びを語るとともに、世界決勝(サンフランシスコ本戦)への強い決意を示した。
「本当にうれしいの一言です。私たちが提供している、フィジカルAIを現実世界で動かすためのモーターとロボットが評価されたことがすごくうれしいです。震災で製造が止まるなどの大変な状況もありましたが、『熊本・八代から世界へ出していくんだ』という思いで準備を進めてきました。日本の精密機械技術の強みをしっかりとアピールし、サンフランシスコの本戦でも良い結果を持ち帰りたいと思います」
スタートアップW杯2026の日本国内予選は、名古屋、東京、九州(熊本)の3地域で開催された。各予選を勝ち抜いた日本代表企業は、2026年11月に米サンフランシスコで開催される世界決勝に出場。世界中から集まる各国の代表と競い合い、見事世界王者に輝けば、優勝投資賞金100万ドル(約1億6000万円)を獲得できる。
「Piezo Sonic」多田興平代表取締役の九州予選プレゼンの主な内容は以下の通り。
私たちは、AIの判断を現実世界の動きに変えるモーションテクノロジーカンパニーです。皆さんご存じのようにAIはどんどん進化しています。最近ですとフィジカルAIというフレーズも毎日のように聞くと思います。
ただ一方で、それらを使って現実世界で動く機械やロボットは、まだあまり進化していないです。なぜでしょうか?
AIは人で言えば頭脳に相当します。現実世界で効果を得るためには、「動き」が必要です。言うなれば「筋肉」です。そこの部分がまだ十分発達していないのです。
フィジカルAIで実際に動くための筋肉に求められるのは、精密に動くこと、滑らかに動くこと、自在に動くことです。この要素を実現することは非常に難しいです。なぜならば、従来の技術で作られているモーターは、それ自身が約200年前の技術によって生まれているからです。
その問題を解決するために、私たちは全く違うロジックを取りました。コイルや磁石を使わないモーターです。これによって従来のモーターでは実現が難しい約1000倍の高精度(0.00001°)を実現することができました。また、電源を切っても姿勢を保つということを実現しています。
この技術そのものは突然できたものではなく、私が28年研究している技術をベースに生まれています。この超音波モーター(ピエゾソニックモーター)は課題もありましたが、それも独自の構造によって解決をし、特許・知財を取ることで参入障壁を築いています。
重要なのは、モーター単体だけでなく、それを使ったモーターシステムや半導体製造装置で使うステージ、屋外対応の搬送ロボットなどを製品化して展開している点です。
現在はヒューマノイドロボットに使うアクチュエーターシステムの開発にも取り組んでいます。ヒューマノイドやロボット、医療、半導体製造装置を合計すると、巨大な市場があり、そこに製品をさしていけます。
私たちのモーターはすでに世界で220以上のお客様に使っていただいており、搬送ロボットについても国内で12社に導入されています。用途の例としては、精密検査をする計測機器や医療機器、そして最近ではロボットなどへの導入が進んでいます。
私たちは、フィジカルAIを現実世界で実現するためのモーションテクノロジーを提供していきます。今後はヒューマノイドや人とインタラクションを持つような製品にも展開し、従来のモーターでは実現できない「柔軟に判断しながら自在に動く機械やロボット」が存在する新しい世界を作っていきたいと思います。ぜひ私たちの取り組みに興味を持っていただけるとありがたいです。