難民もビル・ゲイツも使った人気アプリDuolingo 「語学を続けさせる秘密」は
「至急レッスンを!夜の12時までにレッスンして連続記録を更新しよう」
このところ、晩ごはんを終えてくつろいでいると、そんな通知がスマホに届く。メールを開けば、そちらにも。件名は「こんなに冷たくされるの初めて……」。本文を見ると、可愛らしい緑色のフクロウ、Duo(デュオ)が「継続が成長への鍵」と呼びかけている。やれやれ、とアプリを開く。こうして世界中で多くの人が、レッスンに向かっているのだろう。
こうした通知などの文言について、日本市場責任者の水谷翔さん(37)は「ABテスト(複数の表現を用意し、どれが最も狙ったリアクションを得られるか比較する手法)で、どういう行動をしたユーザーさんに、どういうタイミングで、どういうメッセージを送ると一番効果的なのか、何万通りものテストをしています」と明かす。少しふざけた文言なども織り交ぜることで、「怠けそうになる気持ち」をやんわりとくじいて、モチベーションの継続という語学学習における最大の難所のクリアを目指しているという。
デュオをはじめとするキャラクターも重要な役割を担う。「涙目になって、『僕たちの関係、もう終わりかな』みたいな言い方をしたり、あえて怒って、『なんでまだやらないの』と迫ったり。キャラクターとの感情的つながりが生まれると、その怒りもギャグということが通じて、『デュオが怒ってるからやらないとな』という受け止めができる」と水谷さん。
さらに、連続学習記録の表示の仕方を工夫したり、他のユーザーとの競争要素を取り込んだり、ゲーム性を高めることも強く意識しているといい、水谷さんは「デュオリンゴは教育アプリですが、究極的にはエンタメアプリを作っていると考えている」と話す。競合相手と見ているのは、他の教育アプリやサービスではなく、TikTokやインスタグラムなどのソーシャルメディア。「ソーシャルメディアを見るような体験にいかに近づけられるかに注力している」。ある種の中毒性もあるソーシャルメディアを1時間見ると「時間の浪費」と感じるが、学習に1時間使うなら「確実に身につくものがある」と感じてもらえる、と優位性を語る。
2012年からサービス提供を始めたデュオリンゴの1カ月あたりのアクティブユーザーは現在(2026年6月)、1億3500万人にのぼり、世界で最もダウンロードされている語学アプリに成長した。水谷さんによれば、アプリ開発の裏には「富の再分配」の思想があったという。
共同創業者兼CEOのルイス・フォン・アンさん(47)は中米グアテマラの出身。シングルマザーの家庭で育った。裕福ではなかったが、教育熱心な母は、学業にお金をかけてくれた。おかげでアメリカに留学でき、研究者として、さらには起業家としても成功した。
一定の富を手にしたアンさんが目指したのが、語学アプリの開発だった。スペイン語圏のグアテマラでは、貧しさから抜け出すには「英語」を身につけるのが早道だ。ただ、半数以上が1日5ドル以下で生活する貧困層と推定されている国。お金がないと学べないのでは、「負のループ」から抜け出せない。そこで、「無料で語学を学べるアプリ」を構想したという。
もちろん、完全無料ではビジネスにならない。具体的には、高所得層に有料会員になってもらい、無料で学ぶ低所得層を支えてもらう仕組みだ。
その狙いが成功したことを象徴するようなエピソードがある。2010年代半ば、デュオリンゴを使ってスウェーデン語を学ぶ人がスウェーデンで急増した。不思議に思って調べると、中東から難民として渡った人たちが現地の言葉を学んでいた。同じ頃、アンさんの知人でマイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏がデュオリンゴでフランス語を学んでいることを知った。
絵に描いたような富裕層と、困難の中にある人々が同じアプリで学んでいる事実に、アンさんは「誇りを感じる」と語ったという。
広告表示の有無やAI(人工知能)を使ったビデオ通話など、有料(年1万1400円~)と無料に差はあるが、「完全無料でも学べるようにしている。無料という点には会社立ち上げから『DNAレベル』でこだわっている」と水谷さん。日本語で英語を学ぶコースの場合、無料でも「実用的な語学力を備えた水準」になるという。
デュオリンゴの1日あたりのアクティブユーザー(DAU)は5650万人で、うち有料会員は1250万人。水谷さんは「日本など先進国に有料会員が多くいて、途上国のたくさんの人に無料提供できている」と説明する。
日本への本格参入は2020年と後発だが、DAUの国別ランキングは5位(1位はアメリカ)につけ、急速に成長している市場だ。テレビCMも放送しているが、半分以上は口コミで触れ始めるという。
外国語の学習にはスクールやオンラインレッスンなど、様々な手法があるが、水谷さんは「日本人は、人を前にすると、間違いを恐れて萎縮してしまうことが多い」と指摘する。アプリによる学習であれば、間違っても構わないという安心感が伴い、心理的なプレッシャーを感じないで進められる点がメリットになる。AIを使った会話の場合、間違いがあっても途中では指摘せずに再質問するなど、設計にも配慮しているという。
日本人は連続学習記録などでも上位につけており、「コツコツまじめに続ける国民性に合っていると思います」と水谷さんは言う。
デュオリンゴには語学だけでなく、チェスや数学、音楽などのコースもある。