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日本人が知らない巨大アニメサイト 「MyAnimeList」の正体

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MyAnimeListのCEO、溝口敦さん

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――英語で日本のアニメ作品名をインターネットで検索すると、目に付くところに出てくるのが「MyAnimeList(マイ・アニメ・リスト=MAL)」です。日本のアニメとマンガに特化した世界最大級のデータベースとして知られていますね。

MALは2004年、米国人のギャレット・ギスラーというアニメ好きの若者が創設した米国の法人名でもあり、同氏がネット上に立ち上げた日本アニメの英語データベースのサイト名でもあります。時期を経てマンガも扱うようになりました。

その後、この法人は米国ネットメディア会社の手に渡り、15年に日本のIT大手DeNA(東京都渋谷区)が買収。19年には私が勤める電子書籍事業大手メディアドゥホールディングス(同千代田区)が合併・買収(M&A)をして今に至ります。同ホールディングス執行役員の私が、MALの最高経営責任者を務めています。MALの本社は米サンディエゴにあり、今も米国の法律に基づき運営しています。

――アニメ好きの米国人が立ち上げた日本アニメのサイトなんですね。

大好きな日本アニメの情報をデータベース化し、ネット上で管理できるサイトがあったらいいなと思ったのがきっかけだそうです。エンジニアであったことから、自らそうしたサイトを立ち上げた。実はギスラー氏には今もMALの運営に関与してもらっています。私も毎週、彼と議論しています。

今では、過去に放送・上映されたアニメや現在公開されているアニメ、さらには近未来での放送・上映が発表されているアニメなど、1万件以上の作品がデータベース化されています。作品の基本情報だけではなく、毎回のエピソード内容、アニメキャラクターや声優、さらにマンガなどの詳細情報なども含めると、掲載されている情報は20万件を超える規模になっています。

■100万人の会員が投票

――アニメ作品をデータベース化したサイトはほかにもあります。MALの特徴はなんでしょうか。

例えば、アニメ『進撃の巨人』をMALで調べるとします。英語名の「Attack on Titan」と入れると、作品情報が出てきます。ただ、日本語名をアルファベットで「Shingeki no Kyojin」と入れても、そのまま漢字で入れても調べられます。SCORE(点数)と書かれた欄を見ると「8・13」、「122万6952ユーザー」となっている。これは122万人のMAL利用者が10点満点で評価した結果、平均が8・13点だったということです。

その横に「ランク#112」と記されていますが、MAL掲載の全作品の中で、8・13点はランキングで112番目にあたることを意味します。ちなみにランク1位は『鋼の錬金術師』で、9・24点です。

利用者による投票で評価されたアニメの総合ランキング。海外のアニメファンの好みを知る参考になる

アニメ作品の評価をユーザーが投票して得点表示しているサイトは他にもありますが、進撃の巨人だと投票者数は多くて10万人規模。MAL全体では100万人を超える投票者数があるため、信頼性が異なります。放送時期やエピソード数、シリーズ作品などの基本情報はもちろん、各キャラクターの声優名が顔写真つきで出てきます。各国語での吹き替え版がある場合、それぞれの国での声優名も出ます。

監督名、制作会社、または関連作品など、検索できる情報は他にも多くありますが、大きな特徴の一つは、見たアニメ作品をサイト上で詳しく管理できる自分専用の「Anime List」ページがあることです。作品を何話まで見終えたかを記録したり、これから見たいと思っている作品情報をまとめてリストアップしたりと、自分のための管理ページとなっています。このページがあるからこそ「MyAnimeList」というサイト名になったのです。

このサイトの名前の由来にもなったマイ・アニメをリスト化して管理するページ。筆者が即席で自分のリストを作ったため登録情報は少ないが、『機動戦士ガンダム』は43話全話を視聴済み。『魔法使いの嫁』は24話中9話まで視聴。『Re:ゼロから始める異世界生活』は視聴予定であることが分かる

――これほどの膨大な情報を収集して掲載するのは大変な作業ですね。

実は、これがMALのもう一つの特徴ですが、全てはユーザー生成のコンテンツ(UGC)となっていることです。アニメ業界の発出する英語、時には日本語でのプレスリリースを集めたり、アニメや出版各社の公式サイトを見たり、様々な方法でユーザーが常に情報を収集しています。

ユーザーの中でも特にアニメに詳しく、専門知識のある人たちが運営に携わってくれており、こうした人たちをモデレーターと呼んでいます。他のユーザーたちから寄せられる様々な情報の正確性の確認や、MALへの掲載判断などをしています。モデレーターになるためには、モデレーター内での厳格な試験が行われており、それに合格した人しか認められません。

現時点で北米や欧州、中東やアジアなど各地域にいる数十人のモデレーターによって、MALは24時間、365日の運営が保たれている。しかも、ボランティアとしての関与です。これには、自分たちが育て、守ってきたアニメのコミュニティーがMyAnimeListだという誇りがあります。まさに世界のアニメファンによって作られ、維持されているサイトであり、我々はそのプラットフォームを法人として受け継いでいる状態です。

『ONE PIECE(ワンピース)』の登場人物を担当する声優たちも顔写真つきでわかる。英語などの海外言語で吹き替え版があれば、それぞれの声優もわかるようになっている

MALが一つの巨大なアニメの国際的なコミュニティーとして機能していることが、このサイトの最大のアセットです。そのため、サイト内ではアニメ作品に対する意見交換などをするための様々なフォーラムもたくさん作られています。

法人としての我々の仕事は、システムやサーバー、プラットフォームを維持しながら、モデレーターでは解決できないことへの対応をすること。また、ユーザーが楽しめる新しい企画や取り組みなどをモデレーターと一緒に検討し、ビジネス化することです。そして何よりも重要なのが、このコミュニティーがさらに成長できるような環境を作り続けることだと考えています。

■99%のユーザーが外国人

――海外のアニメファンに取材をしたことがありますが、東欧のセルビアでも東南アジアのシンガポールでも、MALの利用者が多かった。ただ、日本ではあまり聞きません。私も初めて知りました。

ユーザーの割合は変動しますが、規模感として米国が25~30%、次に多いのがインドネシアで7%、さらにフィリピン6%、ブラジル、英国、カナダが4%、インド、ドイツ、フランスが3%など。日本は1%くらいです。ただ、サイトの月間アクティブユーザー数(MAU)が平均1200万人なので、1%でも単純計算で12万人はいることになります。全体では200を超える国・地域からのアクセスがあります。

残念ながら日本から参加しているモデレーターはいません。日本アニメのサイトなので、もっと日本人にも参加してほしいのですが、全てが英語での情報なので、少し壁が高いかもしれません。ただ、海外の人たちがどんなアニメに興味を示しているのかが分かるサイトなので、日本でアニメや漫画に関係する仕事をしている人たちには広く知られています。

ユーザーの性別の比率は男性が75%、女性が25%。年齢層は18~24歳が47%、25~34歳が43%となっており、18歳以上34歳以下の男性の利用者が多いのが特徴です。また、サイトへのアクセスはスマホからが55%、PCからが45%となっています。

人気アニメ『鬼滅の刃』のページ。34万人以上が投票して評価は10点満点中8.88。全体のランキングは20位だった(2020年2月13日現在)

――どのようにして、200カ国・地域以上のアニメファンに存在が知られるようになったのですか。

 多くはネット検索からの流入です。海外の人が、自分の好きなアニメ情報を得たい時、まずはネット上の検索エンジンで調べます。各国のネットで、どんなアニメ作品名を入力しても、検索画面のトップの方にMALによる作品情報がでてくるので、MALの存在が知られます。また、フェイスブックに専用アカウントをもっています。これを管理しているのもモデレーターですが、書き込みをするとアニメファンの間でシェアされる。こうした方法で地道に広がっているのが現状です。

――MALではアニメの実際の映像は見られるのですか。

 米国のアニメ配信サイトのクランチロールやHULU、HIDIVEの三つと提携しており、そこから供給される配信映像は、MALのサイト内で無料で見られます。ただ、配信サイトによって視聴条件に違いがあるので、全て見られるとは限りません。また、三つの配信サイトがライセンス契約していないアニメ作品も見ることはできません。特にすごいのがクランチロールで、アニメの最新話は有料ですが、それより前のエピソードは全て無料で視聴できます。

■24時間、365日のアニメ祭

――初めてMALを利用する場合の手続きを教えてください。

MALで自分のアカウントを作れば、自分の管理ページなど全ての機能が無料で利用できます。月額2・99ドル(約330円)、年額だと29・99ドルを支払えば、「MALサポーター」と呼ばれる有料会員になることができ、利用できる機能が拡張されたり、広告表示を回避したりできます。ただ、現状のビジネスとしては、ユーザーに対する広告展開が大きいので、ユーザー課金は、あくまでもMALへの支援という位置づけだと思っています。

――今後の目標はありますか。

例えばアニメエクスポなどのイベントに行くと、世界中のアニメ好きが4日間で延べ30万~35万人集まると言われている。ただ、リアルイベントはいつでもあるわけでもないし、誰でも行けるわけでもない。MALは24時間、365日、だれでもいつでも集まれるアニメ祭をウェブサイト上でやっているようなものです。

この世界観を進化させていきたい。いつでも世界中の人が盛り上がれる。ここに飛び込んだら、いつでもアニメやマンガの世界に浸れて、語り合う仲間がいる。それが世界中に広がっているというのがいい。日本のアニメやマンガを通じ、人種や性別も超えて世界中の人たちがつながり、フラットに会話ができる空間ができるというのは、とてもいいことだなと思っています。


みぞぐち・あつし 1974年生まれ、滋賀県出身。NTTドコモでiモードなどのモバイルサービス企画を担当。メディアドゥでは電子書籍事業の立ち上げなどを担った。子どものころに影響を受けたアニメは、『シティーハンター』や『未来少年コナン』など。日本と海外を行き来する毎日を送る。