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世界で急成長の日本アニメ、海外勢が猛追 輝き続けるカギは? 片渕監督の眼

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シンガポールのアニメ祭で設置された人気アニメ『鬼滅の刃』の巨大パネル。日本では一大ブームとなっているが、シンガポールでも大人気だった

【前の記事】なぜ日本アニメは世界で愛される ディスニーとは対極の「ガラパゴスの力」

■台湾で敬われる京アニの理念

昨年7月18日午前、京都アニメーション(=京アニ、京都府)のスタジオが放火され、36人が死亡するという悲しい事件が起きた。多くの寄付や追悼コメントが世界中から寄せられる中、目立っていたのは、蔡英文総統まで2度もツイートをした台湾のファンだった。

「台湾ではコアのアニメファンのみならず、一般的なファンの間でも京アニは別格、特別な存在です」

そう話すのは、台湾最大のアニメ同人イベントを運営する「開拓動漫祭ファンシーフロンティア(FF)」(台北市)執行委員長の蘇微希(50)。その理由は極めて意外だった。

「日本のアニメ制作現場は厳しい環境にあるが、京アニは社員を大切にしながら作品を丁寧に手がけてきた。そうした社風だからこそ、素晴らしい作品が多く生まれたと尊敬するファンが台湾にとても多い」

台湾最大のアニメフェスを運営する台北市の「開拓動漫祭ファンシーフロンティア」で執行委員長を務める蘇微希(右)。掲げているのは、出版する同人誌で京都アニメーションの放火事件を詳報し、京アニ支援を訴えた特集記事

京アニは、「人づくりが作品作り」との経営理念を持つ。業界でありがちな業務委託契約ではなく、正社員化を進め、労働条件の改善に取り組むなど、人材を大切にしてきた存在だ。こうした理念が丁寧な仕事ぶりにも表れており、高校生を中心に社会現象を起こした『涼宮ハルヒの憂鬱』(放送開始2006年)や『けいおん!』(09年)などの話題作を生んだと、台湾のファンは理解しているという。

FFは同人誌に放火事件を伝える特集を掲載。同人イベントでは寄付金を募り、50万円を集めて京アニに届けた。京アニ作品の関連グッズを大量購入する形で寄付をしたり、事件後初の京アニ新作映画『ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝―永遠と自動手記人形―』(19年)を支援のために何度も見るファンが出たりするなど、活動は台湾全土に広がったという。

■「飲まず、食わず」のブラック職場

「低予算、良品質」で知られる日本アニメだが制作現場は「ブラック職場」と知られて久しい。ハリウッド企業が合理化を目指し、ハイスペックのコンピューターやアプリなどでのCG制作に移行を始めたのが1990年代、今も紙と鉛筆を使った手間の掛かる手描き作業が圧倒的に多いのは日本だけだという。

手描きだからこその細かいこだわりが評価されるとも聞くが、作品によっては7000枚以上もの絵が必要となる30分番組を毎週作るのは過酷。18年に国内で制作されたアニメは13万分を超え、332作品が放送されている。

日本アニメーター・演出協会が昨年公開したアニメ制作者の実態調査には、労働環境に関する現場の深刻な声が寄せられていた。

「心も身体も時間もお金も全て余裕がない」(20代)、「現段階も3日徹夜、〆切は今日。賃金でいうなら時給50円以下の仕事で死にかけている」(40代)、「飲まず、食わず、眠れず、トイレも我慢して座り続け、時には24時間描き続けて、それでも仕事は終わらない」(50代)……。

こうした過酷な現状は、今回取材した各国のアニメファンにも広く知られていた。

■ネットが変える未来

昨年11月末、シンガポールで海外ファンの熱狂ぶりを目の当たりにした。

東南アジア最大のアニメの祭典「C3AFA」。ガンダムの巨大模型が立つ展示場に入ると、漫画やライトノベル、ゲーム由来の人気アニメ30作品以上の物販ブースが所狭しと並んでいた。

シンガポールであった東南アジア最大のアニメの祭典「C3AFA」の展示場入り口にそびえるガンダムの巨大模型。海外でもファンは多い

『Fate/stay night』(06年)や『夏目友人帳』(08年)、『ソードアート・オンライン』(12年)や『Re:ゼロから始める異世界生活』(16年)、『ゴブリンスレイヤー』(18年)などだ。購入物でふくれあがったバッグを提げるファンの多さに身動きがとれない。19歳の男性から856シンガポールドル(約7万円)を使ったと聞いてあぜんとした。

12年目となる今回、同国だけでなくマレーシアやフィリピン、米国や豪州などから3日間で過去最多の12万人が押し寄せるほど盛況だったが、この数年で参加者の顔ぶれに新しい傾向が顕著だという。

「ネットでアニメを日常的に見ているデジタル世代が劇的に増えた。自国で放送される限られたアニメ以外では海賊版に頼るしかなかった我々の世代と異なり、ネット配信でアニメの存在が当たり前となった新世代だ」。C3AFA創設者でシンガポール企業SOZO代表のショーン・チン(46)はそう話す。

12万人が訪れる東南アジア最大のアニメ祭「C3AFA」を運営するシンガポール人のショーン・チン

『機動戦士ガンダム』(79年)の大ファンだったチンは、日本を訪問してビデオカセットを購入するなどアニメに触れるのに苦労した思い出がある。「コンテンツが豊富なアニメが日本国外に出て行かないのはもったいない」と考え、08年にこの催しを企画。3万人が集まったのを機に毎年の開催を決意し、SOZOを設立した。

アニメの海外展開をしてこなかった日本に代わり、海外のファンたちが自ら見つけて広がっていったのが世界におけるアニメだ、とチンは強調する。

米国で圧倒的な人気を誇るアニメ『僕のヒーローアカデミア』は、シンガポールでも人気が高かった

■利用者1200万人のデータベース

確かにセルビアやシンガポールで会ったファンたちは、米国サイト「MyAnimeList(MAL)」などを活用していた。

MALはアニメとマンガに特化した世界最大級のデータベースで、1万以上のアニメ作品の情報を英語で掲載。利用者は月平均で1200万人を超える。全ては世界に散らばるアニメのコアファンによって書き込まれ、新作や制作会社などについての意見交換も活発だ。

アニメの英語版データベース「MyAnimeList」のサイト。日本で放送予定の新作アニメの情報もわかる

台湾では「PLURK(プルク)」というSNSが頻繁に使われていた。YouTubeやフェイスブックなどでも海外ファンが運営する専用のアカウントが多数存在している。

動画配信サービスが広がる今、日本アニメ専門の米大手クランチロールや米動画配信大手ネットフリックスなどの拡大で、アニメ作品は世界各地で容易にアクセス可能となった。ネットフリックスは1月、スタジオジブリの21作品を約190カ国・地域で配信すると発表したばかりだ。

配信でアニメは新時代を迎えたと期待するチンだが、こうも主張した。

「グローバル化しなかったからこそ、世界にはない日本独特のコンテンツが多く生まれた。これは変えてはならない。世界に打って出て、ディズニーのようになっては日本アニメ特有の魅力が消え失せる」

ネット配信に期待するファンも多い。

米国との対立激化で緊張が続くイランのファンとは電話で話した。首都テヘランで暮らす医学生のマハターブ・フォトバット(27)は、ワンピースの大ファンだ。小学生の時に衛星放送で見て、やはり「これまでのものとは違う」と魅了された。

国内ではメディア規制が厳しかった時代、暗号化したネットワーク(VPN)経由で見ていた。自身と同じ女性の登場人物で胸を過剰に強調する表現方法に反発もあるが、毎回物語がつながっていく継続性にはまり、どのように完結するのか知りたくてたまらないという。

アニメの魅力を聞いたら、思いも寄らぬ答えが戻ってきた。

「日本人には分からないかもしれないが、外国からの侵略の歴史がない日本だからこそ、個性的な文化が純粋に受け継がれていると思う。それがアニメの独特な表現や物語性にも表れている。文化が混在する国々に住む人は、その独自性に心が反応する」

ただ、イランでは海外放送を見られる友達は少なく、アニメの話題は共有できなかった。規制が昔ほどではない今、「ネット配信でアニメが容易に見られるようになれば、その魅力はイランでも理解され、ファンは増える」と話した。

■「どれも同じ」ガラパゴスゆえの課題も

狭く深く、大人向けで多種多様。日本人が卑下する「ガラパゴス化」が、皮肉にも特殊性を際立たせ、逆に外国にはない独特な魅力を創造していた。外から見て初めて気づかされたことが多すぎて、単に「世界で人気がある」で済ましていた自身の視野の狭さが恥ずかしかった。

ただ、独自性を確立したがゆえの心配も聞こえてくる。『サザエさん』(69年)や『ドラえもん』(73年)は放送開始から約半世紀。『それいけ!アンパンマン』(88年)や『ちびまる子ちゃん』(90年)は約30年。商業的に勢いを増す大人向けのアニメ制作に偏りすぎて、国内では子ども向け作品の新規参入がなくなった。

そう指摘したのは、昨年12月に新作アニメ映画『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』を公開した監督の片渕須直(59)。最近では、芸術作品を含む広い範囲のアニメを評価する国際映画祭で、日本作品は逆に「どれも同じジャパニメーション」と見られ、賞をとれなくなっているという。大人向けに特化した中でしか存在しない多種多様な作品が、「ジャパニメーション」とひとくくりにされ始めているのだという。

インタビューに答える片渕須直監督

子どもや大人向けのみならず、高齢者向けが作られてもいいと語る監督。それでこそ真に魅力ある多様性だとする片渕の考え方は、確かに一理あるなと思った。

世界のアニメ業界も黙っていない。昨年注目を集めた米国の『スパイダーマン:スパイダーバース』(18年)。これまで実写化が普通だった『スパイダーマン』初の劇場アニメ作品で、「日本が独占するオトナアニメの領域にハリウッドが進出してきたと受け取られる」(日本のアニメ産業レポート)。また、この数年で台頭が著しい中国アニメは日本アニメにそっくりで、しかも面白い。

海外との競争が激化した時、日本の特殊性は当然薄まる。今の存在感に満足せず、先を見越した新たな「独自性」の深化を模索して、いつまでも輝き続けてほしいと思った。