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子どもの近視予防、秘けつは屋外活動 主導した台湾の眼科医「木陰でも効果ある」

LifeStyle 更新日: 公開日:
取材に応じる高雄長庚記念病院の眼科医、呉佩昌氏
取材に応じる高雄長庚記念病院の眼科医、呉佩昌氏=2026年4月10日、台湾南部の高雄、関根和弘撮影

近視が世界各地で深刻化している。WHO(世界保健機関)によると、2050年には人類の半分が近視になるという。そんな中、画期的な予防手法で効果を上げた眼科医が台湾にいる。高雄長庚記念病院の呉佩昌(ウー・ペイチャン)氏だ。呉医師が取り組んだのは、小学生の「屋外活動」を増やすことだった。本人に詳しく聞いた。(聞き手・関根和弘)

――近視が世界的な問題になっています。台湾も例外ではないと聞きました。

例外でないどころか、台湾は世界的にも近視の割合が高いのです。例えば高校卒業者の9割が近視で、さらにその3割は(裸眼で目の前にあるものにしかピントが合わない)強度近視です。日本の高校生では近視の割合は7割程度ですから、これと比べてもかなり高いですね。

背景には進学の重圧、つまり熾烈(しれつ)な受験戦争があります。台湾には「万般皆下品、唯有読書高」※)という古訓があるほどです。

目の近くで長時間、本を読んだり、パソコンを使ったりするなどの「近見作業」が大きく影響しています。また、近年ではスマートフォンやタブレット、小型ゲーム機の普及も大きいですね。

もちろん、眼鏡やコンタクトレンズで視力自体は矯正できるので、一般的には単なる屈折異常としか認識されませんでした。それでも台湾では、指導部が40年も前から近視の問題を深刻に受け止めていました。それも安全保障に関わる問題として。

第3代総統だった蔣経国が、軍の将校の中に強度近視のものがいることに危機感を持ったのです。眼鏡をかけたとしても、例えば作戦中に雨に降られて眼鏡自体がぬれれば、視界が制限されるかもしれない。航空機のパイロットであれば、眼鏡を落として(視界が)ぼけるかもしれない。

でも、軍の作戦にとどまらず、広く一般の人々にも深刻な影響を及ぼすことが近年分かってきたのです。

――というと?

2000年代に入ると、近視が白内障や緑内障、網膜剝離を引き起こすことが分かってきました。近視とは、眼球が前後に伸びて、網膜より手前でピントが合うようになることです。これが行き過ぎると、内部の組織が薄くなって破れやすくなり、もはや治療の手立てがなくなって失明するケースすらあります。教育部(日本の文科省に相当)と衛生福祉部(厚労省に相当)も「近視は疾患である」と言うようになるなど、危機感が増しました。

――先生も眼鏡をかけていますね。

はい。私にとっても近視は他人事ではありませんでした。近視になったのは9歳のころです。農家の家に生まれましたが、両親は私にオフィスワーカーになって欲しいと考えました。父親は教師でもあったので、そのつてで、幼いころから書道やバイオリンを習っていました。5歳で朝5時から書道の練習をするという生活でした。

あるとき、黒板の文字がはっきり見えないことに気づき、眼鏡を作りました。でも1年後にはまた視界がぼやけて、眼鏡を作り直しました。周りは「小さな博士だね」とポジティブにとらえていました。後に分かったことですが、それは間違いだったのです。

高校で視力の低下はいったん落ち着きましたが、すでに強度近視になっていました。医大に進学後、飛蚊症(ひぶんしょう=視界に蚊やゴミのような物が飛んでいるように感じる)であることも分かりましたが、それでも、ことの重大さに気づいていませんでした。実際、大学の眼科の授業でも、近視の深刻さには触れていませんでした。研修医をへて眼科医になり、ようやく分かってきたのです。

眼科医になって実際に患者を診るようになると、強度近視の方の多くが飛蚊症をへて網膜剝離を煩っていることを知りました。もし私が網膜剝離になってしまうと、眼科医を続けることができません。自分自身、検査を受けることにしました。1年目の検査では飛蚊症だけで問題はなかったのですが、2年目の検査で網膜に穴が空いていることが分かり、治療を受けることができました。もし発見していなかったら、今ごろ失明していたかもしれません。

――子どもたちの近視を防ぐためには「屋外活動」が重要だと指導部に提言しました。それがきっかけとなり、全小学校で視力保護の取り組みがスタートしました。いきさつを教えてください。

台湾の指導部は長年、人々の近視に関心を持っていました。中でも子どもたちの視力低下に関して危機感は大きく、1999年から2004年にかけて総額10台湾ドル(約50億円)を投じて視力保護のためのプロジェクトを実施しました。教室などの照明を明るくしたり、机やいすの高さの調整、目を休めたり、遠くを眺める時間を設けたりするなど、様々なことをやりました。しかし効果は上がらず、子どもたちの近視の割合は高まる一方でした。

プロジェクト終了後に開かれた教育部と衛生福祉部の合同会議に、衛生福祉部側の代表として私も出席したのですが、会議は「何をやっても無駄だ」という絶望感に包まれていました。2009年のことです。

当時、私は出席者の中では若い方でしたが、ある年配の大学教授が「机の照明を改善すべきだ」と言ったことに我慢できず、屋外活動の有効性を訴えたのです。

そのころ、私はアメリカやオーストラリアの研究で、屋外活動が近視防止に効果があるということを知っていました。例えばオーストラリアの研究は、シドニーに住む子どもたちとシンガポールの子どもたちの近視率を比較する内容で、シドニーの子どもたちの近視率は3%、シンガポールは30%でした。読書などの近見作業の時間はどちらもほぼ同じ。違いは屋外活動の時間にあったのです。シンガポールは週に3時間だったのに対し、シドニーは14時間でした。

私がそうした事例を紹介すると、会議の出席者は当初「そんな話は聞いたことがない」という反応でした。しかし、さらに詳細を説明すると納得してくれて、台湾全土の小学校で毎日2時間の屋外活動を推進しようということになりました。これが「天天戸外活動120」のきっかけです。

ちなみに、2時間という設定は、オーストラリアの研究で、シドニーの子どもたちが週14時間、屋外活動をやっていたことを参考にしました。

天天戸外活動120が現場でスタートしたのは2011年です。公立も私立も、台湾のすべての小学校が対象です。学習指導要領にも明記されました。

120分のほとんどは、休み時間を想定しています。台湾の小学校では、1日に合計約80分の休み時間があります。登下校や体育の屋外授業も合わせれば、おおむね120分になります。熱心な学校では体育以外の、本来は室内でやっていた授業も屋外でやっているようです。

屋外で受ける国語の授業中、五感で得た情報を紙に書き留める台湾の児童ら
屋外で受ける国語の授業中、五感で得た情報を紙に書き留める児童ら=2026年4月13日、台湾北部の新北市立興穀小、関根和弘撮影

――なぜ屋外活動が近視防止に役立つのですか。

先ほども言ったように、近視は眼球が前後に伸びてしまうことが原因で起きるのですが、太陽の光を目が受け止めると、それを抑制する効果があるからです。

屋外と言っても、かんかん照りの中、外に出る必要はありません。木陰でも大丈夫です。一般的に教室の明るさは100~750ルクス程度ですが、2000~3000ルクス以上あれば効果は得られるとされています。ですので、場合によっては校舎の中であっても、廊下や玄関でも十分なケースもあります。

――実際のところ、効果はどうだったのですか。

2012年になって、効果が数字で表れてきました。近視の割合が初めて低下に転じたのです。その後も年1ポイントずつ低下していきました。

2016年には、やや低下が鈍化しました。このころ、スマホのゲーム「ポケモンGO」が登場したのです。このゲームは屋外でポケモンを探し歩くという内容で、屋外に出るので一見、近視防止に役立つかなと思うのですが……。ポケモンGOにとどまらず、室内で遊ぶゲームにも関心を持った子どもがいたのが影響していると、私たちは推測しています。

2019年以降も横ばいになりました。新型コロナウイルスの関係で室内にいることが増えたためとみられます。それでも、他国などと比べたらすばらしい成果を挙げたと思います。

台湾児童の近視割合の推移を示すグラフ

――スマートフォンやタブレットを使い始める年齢も低下していると思いますが、最近の子どもたちの近視率に影響はありますか。

ありますね。近視は再び増加傾向にあると感じています。度数が進むスピードが速くなっていますし、近視の低年齢化も進んでいると思います。そうした新たな課題に対応すべく、2027年から新しいプロジェクトが始まります。幼稚園児へのアプローチです。眼科医が全土の幼稚園を訪問し、目の状態をチェックします。