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「しょうこ」ですらなかった私の本名 中川翔子さんインタビュー

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中川翔子さん
中川翔子さん

自分の名前で悩んでいる人、変えたいと思っている人がいる。歌手でタレントの中川翔子さんもその一人だった。意外な経緯を語ってくれた。(聞き手・西尾能人)

私の本名は「翔子」じゃなくて平仮名だったんです。両親は「薔薇」(ばら)の「薔」の字で「薔子」(しょうこ)とつけるつもりで、親戚に出生届を出しに行ってもらった。それが、役所の窓口で「この字は人名に使えません」と知らされ、驚いてもめたそうなんです。今ならスマホで親とやり取りしたり、使える字を検索したりできますけど、時代ですよね。カーッと来て、じゃあいいわよ、と平仮名で殴り書きして届け出をしちゃったらしい。

下の名前が4文字あると、小学校の名簿ではみ出たりするんです。子供ながらに、めちゃくちゃ嫌だった。なので、芸能界デビューするときに、大好きな楳図(うめず)かずおさんの漫画『漂流教室』の主人公・翔ちゃんからいただいて、芸名は自分で「翔子」に決めました。こんなに長く使うとは思っていなかったけど、平仮名じゃない自分の名前がやっとできた、とうれしかったことを覚えています。でも、病院の診察券とか、本名は平仮名のままだった。

パスポート更新のときに

ところが24歳のとき、パスポートの更新の際に窓口で、中川「しようこ」さんって呼ばれた。平仮名だけど、さすがに「しようこ」ではありません、と伝えたら、「いや、あなた『しようこ』ですよ。『よ』が大きいです」って言われて。出生届が「しようこ」で受け付けられていたんです。

「しょうこ」ですらなく「しようこ」だったんだ……とすごくショックで。運転免許を取ったときも免許証は「しようこ」で、あーっ、て感じ。うれしくないですよね。「し」+「よ」で「は」と読まれ、「はうこ」にされてしまったこともあります。

出生届が殴り書きだったとはいえ、大きな「よ」にするつもりなど絶対にないことは、窓口の人は分かっていたはず。もめてむかついたにせよ、そのまま大きい「よ」で通しちゃったとばっちりで、私が38年悩んできたんですよ。名前は親から子供への最初のプレゼント。なのに、本人の知らないところの事故みたいなもので、です。だから、ゴダイゴさんの『ビューティフル・ネーム』を聴くとちょっと胸が痛かったんですよね。

悔しいのでネタにはしつつも、忘れるように、考えないようにしていたけれど、2年前に結婚して名字が変わったら、ますます「しようこ」が目立っちゃって、浮くんです。ついに本名を変えよう、芸名から逆輸入して「翔子」にしよう、と弁護士に相談した。家庭裁判所に申し立てをして、オンラインの面談もありました。芸能界で20年以上名乗ってきた、知っていただいてきた名前だから、すんなり認めてもらえました。人生の長い時間を「中川翔子」として生きてきて、その「翔子」になれたから、それが本当にうれしくて。2023年11月のことです。今は病院で名前を書くのもうれしいんですよね。

今思うと誇らしい

名前って、その人の魂だし、看板だし、人生だし。やっと落ち着いたっていう感じ。すがすがしく生きられるまで38年かかったんだな、と思います。マジで変えてよかったです。自分でつけた「翔」の字、今思うと大谷翔平さんと同じ「翔」であることも誇らしいなと思ってます。

キラキラネームでずっと悩んで改名に至る人も多いじゃないですか。共感できます。親御さんがかわいい名前をつけたいと思っても、独創的すぎたりすると、その子がどう生きていくかにもかかわるということは忘れないでいただきたいかな。あと、本人がネタにするならともかく、名前のことで他人をいじったりするのは、かわいそう。

ただ、「中川しようこ」は「薔子」より字画はラッキーだったみたいです。みなさんに応援していただいて、レベル40の今でも「しょこたん」と呼んでもらえて。夢がかなったというより、夢にも思わなかったミラクルが起きた。プロダクションから独立して設立した個人事務所の名前も、「miracle」と私が直感でつけました。

まもなく生まれる子供の名前は、一発で読める、かつ、ちゃんとかわいい・かっこいい名前で、字画もよいように、と思うけれど難しい。みんなよくつけられるな、と思うんですけど。