「セリーヌ・ディオン」「非常口」 ネットでも改名できてしまう英国

イギリスでは、いとも簡単に姓名を変えられる。あっと言わせる改名がニュースになることもある。「ベーコン・ダブル・チーズバーガー(Bacon Double Cheeseburger)」に「非常口(Fire Exit)」。2021年の新年も世間をにぎわせた。トーマス・ドッドさんという男性が、著名な女性歌手と同名の「セリーヌ・ディオン」に改名したからだ。
BBCなどのインタビューにドッドさんはこう説明している。
その日はクリスマスイブ。ライブコンサートの動画を見ながら飲んでいた。セリーヌ・ディオンの曲などお気に入りの音楽を聴いていたのは覚えている。気づいたら寝ており、翌朝になっていた。数日後、仕事から戻ると書類が届いていた。封を開けると、改名のお知らせ。セリーヌ・ディオンになっていた――。
おいおい、うそだろ、と思うかもしれない。だが、酔って意識がもうろうとしていてもできるほど、英国での改名は容易だ。ディード・ポール(平型捺印〈なついん〉証書)と呼ばれる簡単な書類を作ればよく、民間のネットサービスを使えば、手続きは短時間で終わる。
「名前と自我が分離していると言えばいいのでしょうか。私も最初は困惑しました」。在英のジャーナリスト冨久岡ナヲさんは言う。出生証明書の名前が「本名」だというが、友人の名前が本名かどうかは気にしない。複数の名前を使い分けている人もいるという。
だから改名も「本人の勝手でしょ」と思われ、特段批判も起きない。「セリーヌ・ディオン」のニュースも、コロナ禍の英国では温かい笑い話になったという。
改名しやすさが生きやすさにつながることもある。トランスジェンダーや、男女どちらかの性自認に当てはまらないノンバイナリーの人たちが改名するケースだ。冨久岡さんの見方はこうだ。「自分のことは自分で決める。この国では自己決定権が最も重視されるんです」