英語が苦手だった日本人インフルエンサーJinさん、海外から注目されるようになるまで

――SNSのフォロワー数がすごいですね。動画を投稿するきっかけは何だったのですか。
4年前までオランダの首都アムステルダムにある日本料理店で働いていたんですが、そのころ地元の食べ物にチャレンジするという動画を撮影してはYouTubeとTikTokに投稿していたのが始まりです。
オランダの名物スナックであるクロケット(コロッケ)やフリカンデル(ひき肉のソーセージ)、人気のお菓子などで、外国人である僕が食べたリアクションにオランダの人たちが興味を持ったのだと思います。
@jinfromjapansub How do you like to eat Kroket? #kroket #dutch #netherlands #fyp ♬ Lief Klein Konijntje - Kinderliedjes
――日本で言えば、納豆とか生卵のような外国の人にとって苦手なものを食べてみせたとか?
いや、そんなことはなくて、オランダの料理で外国人も普通に食べられるものを試してみました。食べた後に10点満点で点数をつけていたので、そういったことも注目されたのだと思います。
日本料理店での雇用契約が終了した後、大学で国際関係を学ぼうと思い、ポーランドに移住しました。進学先はワルシャワ大学だったのですが、そこでも「食レポ」をやっていて、どんどんフォロワーやチャンネル登録者が増えていきました。
結局大学は8カ月ほどでやめて帰国し、外国人向けツアーなどを運営する旅行会社に就職しました。ここでは顧客を増やすためにSNSを活用するチームに配属されました。個人としてもすでにTikTokのフォロワーは30万人ぐらいいたので、そうした経験を買われてのことでした。
転職を考えていた際に、動画がバズり始めて、YouTubeで収益を上げられる状態になったので、「インフルエンサー」を本業にしようと思い、この会社を辞める決意が固まりました。本当にたまたまタイミングが重なった感じです。
――帰国してからはどんな動画を投稿しているのですか。
日本のユニークなレストランや食べ物、グッズなどを英語で紹介する動画です。例えば東京・池袋「鈴の木」というレストランを紹介したところ、再生回数が1億回を超えるほどバズりました。この店は「まずいと思ったら全額返金します」というサービスをやっていて、おそらく外国人にとっては珍しかったんだと思います。
@jinfromjapan The reason for Google reviews being low is because of his innovative social marketing strategy. In Japan, there is a traditional belief that noodles shops should compete on taste, but his social marketing strategy created a huge buzz, which led to a large number of online antis. Google reviews were therefore trolled and this is the result. You should visit, try and see the truth. Would you buy these sunglasses though?😎 Thanks to MEGA Don Quijote Shibuya main shop for cooperation✨ #japan #japanese #japanesefood #japaneseculture #ramen #tokyo #shibuya #japantrip #japantravel ♬ Cupid - Twin Ver. (FIFTY FIFTY) (Sped Up Version) - FIFTY FIFTY
あとはこれもラーメン店ですが、「一蘭」(豚骨ラーメンの全国チェーン)の紹介動画はよく視聴されました。日本ではよく知られていますが、両側についたてがあってほかの客を気にせずにラーメンを食べられる「味集中カウンター」がかなり衝撃的だったのか、「introvert(内向的な)な人にとってはパーフェクトなレストラン」という反応がありました。
あとはグッズだと、「COOL BABUBABU(クールバブバブ)」という商品を紹介した動画が人気でした。ぷにぷにしたゲル状の冷却アイテムで、スプレーから噴出するとスライムのようになって、首に巻き付けるとひんやり冷たいんです。再生回数はものすごく伸びました。
――動画のアイデアですが、どんなことを狙っているのですか。
海外には絶対にないだろうというアイテムとか、面白いものとか、時にはばかげたアイテムとか(笑)。あと日本でぜひ行ってほしい場所も紹介するようにしています。日本を楽しんでほしいし、もっと日本を好きになってほしいという思いで作っていますね。
ただ、そういうモチベーションの根底には、海外の人が日本にすごく興味を持ってくれているということがあります。一度は行ってみたいとか、変わった国だとか言われることが多いですね。富士山や京都といった伝統的な観光地も魅力的ですが、そのほかにも特徴ある飲食店とか、アニメなどのエンタメコンテンツなど、色んなジャンルでとがったものがあるのが、海外の人を引きつけているのだと思います。
――視聴者はどこの国の人が多いのですか。
Instagram、YouTubeともにアメリカなどの英語圏の国の視聴者が多いです。欧米圏ではYouTubeが人気で、例えば現在世界最多の登録者数を誇っているのは、アメリカのYouTuberの“MrBeast”です。
――YouTuberは子どもたちのなりたい職業上位です。実際にそうなった感想は?
自分のことは、YouTuberというよりも、コンテンツクリエイターだと思っています。でも働く時間を自由に決めれるので、いいですね。動画をアップロードするタイミングは1週間に1回と決めていて、それにあわせて撮影も編集もしています。
――それにしても動画では流暢な英語で商品や町並みを紹介していますね。英語は昔から得意だったのですか。
実は元々、すごく苦手だったんです。中学、高校時代は一番苦手な科目で、テストの点数も一桁台。それが高校2年のとき、スウェーデン出身のアヴィーチーというミュージシャンの音楽にはまりまして。歌詞は英語だったので何とか意味を知りたいと思って英語に興味を持つようになりました。
アヴィーチーの楽曲はダンスミュージックで、そのつながりでほかのアーティストのダンスミュージックも聞くようになって。ちなみにオランダ出身のミュージシャンが多かったので、のちにオランダに行くことにつながりました。
いずれにしても歌詞はどれも英語で、そのとき「英語ってかっこいいな」と。そのときは特に大学に行きたいとも思わず、ただ英語なら勉強したいと思って九州の英語の専門学校に進学しました。
――そこでめきめきと上達した?
いや、それがあまり上達しなくて(笑)。TOEICの点数も伸びなくて200点ぐらい。留学したら変わるんじゃないかと思ったんです。そこでカナダのバンクーバーにある語学学校で9カ月半、英語を学びました。
――留学したらやっぱり英語力は伸びた?
伸びましたね。留学を終えて帰国したときはTOEIC800点以上になっていました。留学先の授業はもちろん英語でしたし、日常会話も英語でしょ、それに加えて自分でも勉強したのがわりとよかったと思います。
個人的に合った勉強は、100個の英単語と意味をひたすら音読するという方法です。「apple、りんご、apple、りんご、water、水、water、水……」という感じで。1日3、4巡するんですが、それを1週間続けるとかけ算の九九のように自然と口から出てくるようになりました。これは僕が考えたわけではなく、「百式英単語」という本で紹介されている方法です。
あとはわからない単語や表現があったらすぐにネットで調べるようにしていました。
――オランダで働いていたということですが、専門学校を卒業してオランダに行かれたのですか。
そうなんです。せっかく英語を学んだので、海外で働きたいなと思いました。専門学校に来ていた求人がオランダとシンガポールで、オランダを選びました。それ以降の経歴は先ほど言ったとおりです。
――最近の若者は海外に行きたがらないとも聞きます。Jinさんは海外に行ってよかったと思いますか。
もちろん本人が行きたくないのであれば行かなくていいと思いますが、僕は海外に出たことで、価値観が完全に変わったので、よかったと思います。
例えば日本だと働きすぎる習慣があり、学校での校則が厳しい。外国ではそんなこともなくて、海外で暮らすことで初めて、日本のある種の「異常さ」に気づくことができました。一方で、日本の良さも再確認でき、いずれも僕にとって大きな収穫だったと思います。
――これからの活動の展望をきかせて下さい。
日本語を教えてほしいというメッセージをよく頂いたり、友人で日本語教師として働いている人を見て、いずれ海外の人に日本語を教えてみたいなと思っています。現在は、日本語を教える方法を学ぶために、講座を受講中です。