2020年にギャンブル関連問題の実態調査をした。有効回答が約8000人分で、日本ではこうしたギャンブル依存症をめぐる大規模調査はこれまでほとんどなかった。実際に依存症の人がいる宝くじも含めて調べている。
その結果、世界的な評価尺度で依存症が疑われる人は全体で2.2%(男性3.7%、女性0.7%)だった。決定的なことは言えないが、欧州諸国などより割合は高い。治療実感からすると不思議ではない。
というのも、日本ではパチンコ、パチスロの存在が大きいからだ。どこにでもあり、年齢しか制限がない。ギャンブルに非常にアクセスしやすい日本の環境は、世界でも特殊だ。
調査でギャンブル依存症が疑われる人が過去1年にした頻度が高いのは、パチンコ、パチスロ、宝くじの順だった。宝くじも身近なギャンブルとして浸透しているということだろう。特にキャリーオーバーで賞金が積み上がってくるタイプは、よりギャンブル性が高いと指摘されており、宝くじでも危険はある。「ひょっとしたら、宝くじで借金を返せるかな」と考え始めると危うい。
ギャンブルなどを模した研究では、人は借金がない状態では確実に得をする方を選ぶが、借金が始まると借金をなくすことが優先になって、確率が下がってもより多くが得られる方を選ぶようになる、とされる。
最初は楽しんでやっていたが、そのうち借金返済が目的になって、何のためにやっているのか分からない、というようになる。だんだん「負けの深追い」、ギャンブルで負けたお金はギャンブルで取り返したいという精神状態になる。
最近はネット上でのギャンブルやカジノで30代、40代の若い患者が増えた。つらい体験をしたとか、うつや強い不安など他の精神疾患や心理的特性を持っている人が多い点は、アルコール依存症などと共通する。
ギャンブルは外来通院が主で、当センターでは月1、2回程度、計6回通院してもらう。グループで話してもらい、勝った時のことは言いたいが負けた時のことは覚えていない「選択的記憶」や、「負けが続くと勝ちが近い」といった認知のゆがみ、思い込みを少しずつ修正していき、より現実的になってもらう治療をする。
何度も治療に通った経験者が話すと、より説得力があるようだ。
何かの代わりにギャンブルにのめり込む人もいるので、時間を持て余さないようにしたり、きっかけにならないよう不要なお金を持ち歩かないようにしたりすることも重要だ。
ラスベガスのある米ネバダ州では高校でギャンブルに関する教育が行われていて、いかに勝てないかを教えているそうだ。日本でも、例えば宝くじの1等が当たる確率が現実的にどのぐらいかを知った上で楽しむ、というふうになれたらよいと思う。