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宝くじを必ず当てるには?アメリカで30年前に実際にあった「全部買い」作戦のてんまつ

World Now 更新日: 公開日:
当選金が4億ドルに膨らんだアメリカ・バージニア州の宝くじの購入用紙
当選金が4億ドルに膨らんだアメリカ・バージニア州の宝くじの購入用紙=2014年2月14日、ロイター

当時のバージニア州の数字選択式宝くじは1口1ドル。1から44までの数字から六つを選び、その全部が当たり数字と一致すれば1等、という仕組みだった。当たった人がいない場合は賞金が次回に繰り越される「キャリーオーバー」が青天井で採用され、1992年2月、1等の賞金は2700万ドル(当時のレートで約35億円)まで積み上がった。

作戦に不可欠なのは「組み合わせ」が何通りあるかの計算だ。

1~44から異なる数字を六つ選ぶ方法は何通りだろう? 数学の公式「nCr」を当てはめると、答えは約700万通り。気が遠くなるような数字だが、ちょっと待った。1口1ドルなら全て買って700万ドル。差し引き2000万ドル、もうかるじゃないか!

異なるn個のものから r個を選ぶ組み合わせの総数
GLOBE+編集部作成

ルーマニア出身の「数学者」の狙い

それを見逃さなかった、いや、待っていたのが、オーストラリアの投資グループだ。

率いるのはステファン・マンデル氏。共産主義体制下にあったルーマニアで生まれ育ったマンデル氏は、息苦しく、貧しい生活から脱出しようと、宝くじに目をつけ、数学書を読みあさった。1960年代、独自の理論を用いて宝くじを当て、母国を後に。移住先の豪州で「全部買い」の手法を確立し、「大当たり」を連発していた。ただ、豪州では規制が厳しくなったため、次の狙いを米国に定めた。

1990年代の米国の一般的な州営宝くじは、数字を塗りつぶした用紙を小売店のコンピューターに通すと登録され、その数字が印刷されて証明書になる仕組み。バージニアの場合は、自宅などであらかじめ印刷した用紙を店に持ち込むことができたという。

キャリーオーバーが発生し当選金が高騰中のアメリカ・ウィスコンシン州の宝くじを、抽選前日に州境を超えて買いに来た隣のイリノイ州在住の男性(左)
キャリーオーバーが発生し当選金が高騰中のアメリカ・ウィスコンシン州の宝くじを、抽選前日に州境を超えて買いに来た隣のイリノイ州在住の男性(左)=1998年6月28日、ロイター

マンデル氏の作戦は、全番号分の用紙を用意したうえで、賞金が膨らむのを待つ、というもの。約2500人から4000米ドルずつ調達。メルボルンの倉庫で、コンピューター30台とプリンター12台、16人のスタッフを使い、700万通りの組み合わせを網羅した用紙を印刷して米国へ送った。3カ月かかった。そして、賞金が積み上がったのを見定めて、ゴーサインを出した。

順調だった準備とは逆に、現地での手続きは時間との闘いだった。抽せんのある土曜日まで3日間。数十人からなるバージニアの「現地班」は各地のコンビニチェーンなど125カ所に分散して押しかけ、金を払い込んだ。しかし、大口の販売に対応できないトラブルが一部で発生して、約500万通り(640万通りとの説もある)を購入した時点で時間切れに。購入できなかった組み合わせから1等が出たら、世紀の大失敗になってしまう。

まさかの時間切れで迎えた抽せん日

土曜日深夜の抽せん結果発表。6個の当たり数字は「8、11、13、15、19、20」だった。購入できた分に1等が含まれていたと判明し、興奮と喜びで「誰もが背丈ほど飛び上がった」と現地班リーダー。他に1等の番号を買った人はいなかったため賞金の折半はなく、賞金総額は2等以下と合わせ、約3000万ドルにのぼった。

ただ、買い占めに疑問を持った米国や豪州の当局が捜査に着手。有罪にはならなかったものの、マンデル氏は長い法廷闘争に巻き込まれることになった。

今年90歳のマンデル氏は宝くじから「引退」し、南太平洋の島国バヌアツで静かに暮らしているという。故郷ルーマニアの新聞の取材に2012年に応じたマンデル氏は「ひげを整えるのも宝くじだ。切り傷からの感染で死ぬ可能性もある。でも、とにかくやる。私の仕事は危険を冒すが、計算された方法でそれをやることだ」と語っている。

米国の宝くじはその後、選ぶ数字を増やすことで組み合わせ総数をさらに膨大にしたり、自宅での印刷を禁じたりしたため、「全部買い」は実行不可能になったという。