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スタートアップW杯九州予選、熊本大発の創薬会社が1位 核酸医薬で独自技術

スタートアップワールドカップ 更新日: 公開日:
スタートアップワールドカップ九州予選で1位に輝いたStapleBioの勝田陽介氏
スタートアップワールドカップ九州予選で1位に輝いたStapleBioの勝田陽介氏=2024年8月27日、熊本市、関根和弘撮影

スタートアップワールドカップはアメリカ・カリフォルニア州に拠点を置くベンチャーキャピタル(投資会社)の「ペガサス・テック・ベンチャーズ」(アニス・ウッザマン創設者兼CEO)が主催。コンテストを通じて有望なスタートアップを「発掘」し、提携を望む大企業につなぐことを狙っている。

6回目の開催となった今回は世界70以上の地域で予選が開催。日本では九州のほか、東京と京都でも予選が開かれているが、九州開催は初めて。

StapleBioは、「Staple核酸」と名付けた独自の新技術を使い、治療方法が確立されていない病気の治療薬を開発している。病気の原因となるたんぱく質を作り出すメッセンジャーリボ核酸(mRNA)に働きかける手法で、新型コロナウイルスのワクチンでも注目された「核酸医薬」の分野だ。この研究をリードしてきた熊本大准教授の勝田陽介氏が元製薬会社員と2021年11月に起業し、取締役CSO(最高科学責任者)として経営も担っている。

1位の発表後、勝田氏は「希少疾患は日本だけではなく、世界にいっぱい患者さんがいるので、世界の皆さんに現状と、それに対して薬を作ろうとしている会社があることを知っていただければいいなと思います」と決勝大会への意気込みを語った。

StapleBioは東京、京都両予選で勝ち抜いた2社(ヘラルボニー、デジタルエンターテイメントアセット)とともに、日本代表として決勝大会(10月2~4日)に出場する。

勝田氏のプレゼンの主な内容は以下の通り。

死の恐怖と闘う子どもたちのために

皆さん、希少疾患をご存じでしょうか。病気の数は約7000種類、患者の数は約3億人、そしてその半数が子供で、残念ながら多くが命に関わる病気です。

しかし、大手の製薬会社では、開発コストを回収することが少し難しいことから、残念ながら治療薬はほとんどないのがこの業界の状況です。そこで我々は、従来の創薬速度を考えると圧倒的に速い、核酸医薬というものに着目して研究開発を進めています。

なぜ核酸医薬の開発が速いのかと言いますと、簡単な法則さえ覚えてしまえば、病気の原因となっている分子にだけ結合するものを、プリンターのちょっと大きいようなもので、キーボードを四つたたくだけで簡単に合成することができるからです。

こういった技術ですので、非常に大きな注目を集めておりまして競合他社としてはアルナイラム(=米アルナイラム・ファーマシューティカルズ)、アイオニス(=米アイオニス・ファーマシューティカルズ)という会社が有名です。

アイオニスが開発したスピンラザという薬、これは一つの希少疾患(脊髄性筋萎縮症=SMA)を治す薬なんですけれども、その年間売り上げが約2600億円。希少疾患の数が7000種類あることを考えますと、非常に大きな市場規模であることがわかるかと思います。

しかし、このアルナイラムやアイオニスができないことがあるんです。病気の原因というのは大きく二つ分けると、必要なものが足りない場合、そして悪いものが多すぎる場合、これが病気になるんですけども、彼らができることは、悪いたんぱく質を減らすということです。

それに対して僕たちの技術というのは、必要なものを増やすことができるというのが特徴です。ただこういうことを考えますと、医薬品の業界においては、競合他社というより共同他社という言葉がなじむのではないかと考えております。

もちろん基本的な特許は、我々は押さえているんですけども、僕はあくまでも学者ですので、我々の技術は広く論文に公開しております。そして多くの企業をこの業界に巻き込み、全ての病気に対し、希少疾患に対して、業界全体で「宣戦布告」をする。僕たちはそれをリードする会社でありたいと考えています。

実際に「余命10年」という映画で話題になりました肺動脈性肺高血圧症に対しても、効果的な治療薬がないんですけども、我々が開発した薬を投与しますと、ほぼ全てのマウスにおいて生存させることを可能にしております。

様々な創薬の専門分野のスペシャリストとともに一刻も早く、希少疾患の治療薬を開発していきたいと思っております。

最後に、今この時点においても、生きるだけで苦しい、でも親を心配させたくないという思いで泣くのを我慢して笑顔でいる子どもたち、そしていつ訪れるかわからない死への恐怖と闘いながら、それでも生きたいと思っている子どもたちが全世界にたくさんいるんです。

この舞台に立つとわかると思うんですけど、皆さん本当にキラキラしてるように見えて、そういう大人が作り出す将来の地球とか未来っていうのは本当に素晴らしいものになるんだと思います。

僕がやりたいのは本当にシンプルで、そういう心躍る、その先の未来を、僕たちが開発した薬で克服した希少疾患の患者さんとともに、それこそお酒でも飲みながら「本当に俺たちはよく頑張ったな」と、そういう世界をみんなで見る、それが僕の夢であり、この会社のミッションであると思っています。以上です。

プレゼン中、審査員の質問に答えるStapleBioの勝田陽介氏
プレゼン中、審査員(右)の質問に答えるStapleBioの勝田陽介氏=2024年8月27日、熊本市、関根和弘撮影