1. HOME
  2. World Now
  3. バイオ創薬のパイオニア「アムジェン」日本再上陸へ 開発トップに狙いを聞いた

バイオ創薬のパイオニア「アムジェン」日本再上陸へ 開発トップに狙いを聞いた

World Now 更新日: 公開日:
米バイオ医薬品アムジェンの開発トップを務めるデビッド・リース氏=東京都千代田区

――アムジェンは1980年の創業以来、多くのバイオ医薬品を世に送り出しています。強みは何ですか。

「私たちは『バイオロジー(生物学)ファースト』という考え方を大切にしています。まずは疾患そのものを理解し、それに対してどんな作用の薬が効果的なのかを考えてきました。手段が先ではないのです。そうした姿勢で創薬に取り組むことが、大きな強みとなっています」

――13年にアステラス製薬と手を組み、日本で合弁会社を設立しましたね。なぜアステラスをパートナーに選んだのですか。

「現在はアステラスと提携し、(新薬候補の効き目を確かめる)臨床試験や薬の販売をしています。来年にはアムジェン単体で独立する予定です。日本でのビジネスは拡大しており、日本の市場は非常に、非常に重要です」

「アステラスは日本で知名度があり、薬を販売に関して高い能力を備えています。一方、アムジェンは革新的な科学力を生かして臨床試験ができる強みがあります。そうした両社による非常にうまくいった『結婚』だと思っています」

――成功しているなら、独立する必要はないのではないですか。

「アステラスとのパートナーシップは、いち早くアムジェンの強みを活用して日本の患者さんに革新的な薬を届けるため、期限付きでやってきたことです。最終的には日本で独立した企業になることが、グローバルの全体の戦略のなかでも重要な位置を占める考えだったのです」

――日本に拠点を持ち、日本の患者さんを対象に臨床試験をする方が、日本で新薬が承認されやすいということですか。

「まさにその通りです。日本で研究開発のプレゼンスを持つというのは、とても重要なことなのです」

――92年に設立した日本法人を2008年に撤退させたのはなぜですか。

「会社の戦略でどこに重点を置くかの決断でそうなりました。当時は非常に若い会社だったので成長の途上にありました。いまは大きなグローバル企業になっていて、約100カ国で活動をしています。当時といまでは全く違う状況なのです」

――日本の人口は減り続ける見通しで、薬価の引き下げも続いています。なぜ日本市場を重視するのですか。

「アムジェンは心臓病、がん、神経系疾患などに効く新薬づくりに力を入れています。これらは日本で進んでいる高齢化と密接に関係がある疾患ばかりなので、日本の患者さん、社会に貢献できる余地が大きいと考えたのです」

――日本での臨床試験の状況と成果はどうなっていますか。

15の新薬候補の臨床試験を進めています。日本のチームは、世界各地のチームに追いつくほどの成果をあげています。今年3月には、骨粗鬆症の患者さんが骨折するリスクを大きく下げる新薬『ロモソズマブ』を売り出しました。特定の遺伝子が変異して骨が強くなっている少数の患者さんを継続して観察することで生まれた薬です。この薬は世界各地で臨床試験を進めていましたが、日本で最初に承認されました」

――近年は昔より新薬が生まれにくくなったと言われています。この状況をどう乗り越えますか。 

「まず、新薬開発の成功率をいかに上げるかが課題です。臨床試験をやっても、最終的には8%ぐらいの新薬候補しか販売まで行き着きません。特に人の遺伝子にかかわる技術に投資し、成功率を上げることが必要だと考えています」 

2つ目の問題は『サイクルタイム』です。現在は薬の研究を始めてから販売にこぎつけるまでに1214年間かかっていますが、それでは長すぎます。時間に比例して、コストもどんどん上がります。ビッグデータの活用を進めるなど工夫し、サイクルタイムを短くできるよう努力しています」

――日本では今年、国内最大手の武田薬品工業がアイルランド大手のシャイアーを6・2兆円で買収して話題になりました。創薬コストがかさむなか、製薬企業は規模が大きくないと薬を生めないでしょうか。

「必ずしもそうとは限らず、カギは『イノベーション(革新)』だと思っています。アムジェンのパイプラインをご覧いただくと、半分は社内から、残りは他社を買収したり、他の組織からアイデアをもらったりして生まれています。両方のミックスで今後もやっていくつもりです」

――最後に改めて、アムジェン日本法人を成功させる自信はありますか。

「現状はうまくいっているし、非常に自信があります。革新的な薬をできる限り早く患者さんに届けることが、アムジェンが存在する唯一の理由ですから」

アムジェン 1980年、米カリフォルニア州で創業。赤血球増殖薬「エポジェン」、関節リウマチ治療薬「エンブレル」など多数のヒット新薬を生物に関する技術で生み、メガファーマ(巨大製薬企業)に成長した。

調査会社「研ファーマ・ブレーン」によると、2017年の売上高は約228億ドル(約2・5兆円)で世界10位。がん、循環器系などの六つの疾患領域に重点を置き、約100カ国で薬を販売している。1992年に日本法人を設立したが、2008年に武田薬品工業に売却した。