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フランス人もワイン離れ?産地ボルドーに影響、不可逆的なブドウの木引き抜き計画も

World Now 更新日: 公開日:
シャトーを経営しているフィンランド出身のネア・ベルグルンドさん
シャトーを経営しているフィンランド出身のネア・ベルグルンドさん=2024年5月23日、フランス・ボルドー、中川竜児撮影

なだらかな丘陵地にブドウ畑が広がるフランス南西部のボルドー。ワインづくりはローマ時代から始まったとされ、豊かで深い味わいは「ワインの女王」とも称される。だが今、その世界屈指の産地も大きな変革を迫られている。

「フランス人がこれほどワイン飲まなくなった時代ない」

「1960年、フランス人1人当たりの年間のワイン消費量は120リットル超。それが2020年には40リットルだ」

生産者とワイン商らでつくる「ボルドーワイン委員会」のアラン・シシェル会長(62)は話す。

家族で食卓を囲む習慣が廃れ、食事もお酒も多様化するなど多くの要因があるにせよ、「これほどまでフランス人がワインを飲まなくなった時代はない」。

特に近年は、ボルドー産ワインの8割を占める赤が苦戦している。「重厚でアルコール度数の高い赤より、度数の低いロゼや白、スパークリングを求める消費者が増えた」。肉を食べる機会が減ったことが影響しているとの指摘もある。

ボルドー・ワイン委員会のアラン・シシェル会長
ボルドー・ワイン委員会のアラン・シシェル会長=2024年5月23日、フランス・ボルドー、中川竜児撮影

輸出では、最大の市場である中国向けが景気後退などで伸び悩み、2023年の輸出量は前年比17%減。コロナ禍で大きく落ち込んだ2020年の水準よりも低くなった。不況の影響を受けない高級ワインも一部あるが、在庫を抱えることでさらに価格が下がるという悪循環に陥ったという。

需給ギャップ解消のため、昨年から進めているのがブドウの木の引き抜き計画だ。

ボルドーを含むジロンド県の9500ヘクタール(東京ドーム2000個分)を余剰分と算定し、政府と委員会が1ヘクタール当たり6000ユーロ(約100万円)の補助金を出す条件で希望者を募集した。1200件の応募があり、今秋までに順次引き抜く予定という。

補助金を受け取った場合、再びブドウを植えることはできないといい、シシェル会長は「何世代も続いたワインづくりをやめてしまう人もかなりいる。風景も変わってしまうので、跡地の利用も大きな課題だ」と話す。

丘陵地にブドウ畑が広がるボルドー
丘陵地にブドウ畑が広がるボルドー=2024年5月24日、フランス・ボルドー、中川竜児撮影

新たなワインづくり、ノンアルも

一方、補助金を受け取らずに自発的にブドウを引き抜き、新たなワインづくりに挑戦しようとする動きもあるという。

引き抜き計画はオーストラリアや米カリフォルニアなどの産地でも進められており、世界的な問題になっている。

ボルドーの委員会は目の前の需給ギャップを解消するだけでは不十分とみて、産地として新たな魅力を打ち出そうとしている。

一つは環境に配慮した取り組みだといい、シシェル会長はボトルを取り出した。ボルドーワインの従来型のボトルは、いかり肩が特徴だったが、新型はなで肩。持つと軽さが実感できる。「より少ないガラスで製造でき、輸送コストも負荷も抑えられる」という。

赤中心の構成からラインアップを多様化し、つくり手の顔が見えるワインを増やそうともしている。シシェル会長は「世界的にワインを飲む頻度や量は減っているが、質の良いワインを求める消費者は実は増えている。その点は、とてもポジティブにとらえている」と話す。

明るい材料は、若手の台頭だ。中心部から車で1時間弱。中世にタイムスリップしたような、のどかな田園地帯でシャトー・カルザンを経営するネア・ベルグルンドさん(33)はフィンランド出身。持続可能な農業を目指し、オーガニック栽培に力を入れている。ジュースや野菜も販売するほか、農場にはコテージもあり、経営の多角化を進めているという。

自信作の白ワインはフレッシュな果実の香りがあふれ、飲み口も軽やかだ。ハチのイラストがあしらったワインもあり、見た目も楽しい。「ワインは食事と一緒に楽しむもの。色んな料理に合って、食卓を囲む人が楽しくなるワインをつくりたい。香りと深みを保ちながらつくるのは難しいけど、7~8度の軽いワインにも挑戦したい」

ネア・ベルグルンドさんがつくっているワイン
ネア・ベルグルンドさんがつくっているワイン=2024年5月23日、フランス・ボルドー、中川竜児撮影

低アルコール、ノンアルコールのワイン製造に着手した例もあった。

300の生産者でつくる協同組合「ボルドー・ファミリーズ」は昨年12月、4億円余りを投じて脱アルコール機械を購入した。「ニーズは確実にある」と代表のフィリップ・カゾーさん。

醸造後のワインを35~40度に温めることでアルコールを徐々に抜く機械で、「豊かな香りは失わず、満足感が得られる」。手頃な価格で人気があるスパークリングワインと同程度の10ユーロ(約1700円)で販売しようと検討しているという。

ボルドー・ファミリーズが購入した脱アルコール機械の前に立つフィリップ・カゾーさん
ボルドー・ファミリーズが購入した脱アルコール機械の前に立つフィリップ・カゾーさん=2024年5月24日、フランス・ボルドー、中川竜児撮影