「関心は爆発的に高まっている」と話すのは、いち早く2019年からソバー・トリップを手がける英国の旅行会社「We Love Lucid(lucidはすっきりした、頭がさえたの意味)」のローレン・バーニソンさん。
同社は4、5日の少人数の旅行を企画。スペインやスコットランドが行き先で、サーフィンやトレッキング、ギター教室などのイベントを準備する。新たな、スリルある体験が高揚感をもたらし、酒なしで楽しめる趣向という。
参加条件は1年以上禁酒していること。バーニソンさんは「参加者は35~55歳で英国や北米が中心。10代でお酒を飲み始め、それが『クール』だった時代に育ったけど、もっと充実した人生を送りたいとやめた人たち」と説明する。
バーニソンさん自身、このタイプだ。「多くの人がお酒を断つのを怖がるのは、人生の楽しみがなくなってしまうと思うからだけど、大きな誤解。私の人生はお酒をやめてから始まった」
南米やアジアを放浪した後、初めてしらふで旅し、「全く新しい生き方に目を開かされた。そのポジティブな効果は言葉で言い表せない」。
旅行の時くらいお酒を飲みたいという人はいるし、バーニソンさんもそれは否定しない。「人々はお酒を楽しさやリラックス、そして休暇と結びつけてきた。ただ、私の経験では、それらはすべて、アルコールなしでも可能ということ」
進むアルコール離れ
英国の1人当たり(15歳以上)の年間の純アルコール消費量を経済協力開発機構(OECD)のデータで見ると、2000年代半ばには11リットルを超えていたが、2022年には9.9リットルに減っている。
「飲まない世代」の代名詞ともされるZ世代もこれに貢献しているが、彼らより少し上、経済的に余裕が出てきた世代の人たちも飲む頻度を少なくしたり、やめたりしているようだ。
ソバー・トリップなどの流行を支えるこの世代には、英国出身の作家ルビー・ウォリントンさんの著作『飲まない生き方 ソバーキュリアス』で知られるようになった「飲めるけど、飲まない生活」の影響もあるだろう。
10年ほど前、1月を「ドライ・ジャニュアリー」と呼び、年始の1カ月、断酒するキャンペーンは英国で始まり、世界的に普及した。参加する人は年々増えているとされ、「ソバー・オクトーバー」など、新たなバリエーションも出ている。
バーニソンさんらは今年9月には、スコットランドでラリー走行体験を目玉とした旅行を企画している。「すでに多くの問い合わせが来ている」という。
観光地側も酒を制限
観光地側にも変化の兆しが見える。英紙テレグラフなどによると、地中海に浮かぶマジョルカ島などバレアレス諸島の一部では、観光客に出すお酒を1日6杯に制限する法律が施行された。食事や飲み物などが全て料金に含まれるタイプのホテル利用者が対象で、お酒は昼食時に3杯、夕食時に3杯しか出さず、さらに飲みたいなら追加料金を払う仕組みだ。
コロナ禍の2020年に地元政府によって導入された「6杯ルール」の背景には、事実上の「飲み放題」で羽目を外した観光客の騒ぎなどがあったらしく、地元の目的は「良質な観光客に来てもらうこと」だという。
日本でも、東京都渋谷区が路上の飲酒を禁じる条例改正案を検討している。渋谷駅周辺でゴミ散乱や通行の妨げが見られるとして、これまでハロウィーンと年末に限定していた措置を通年化するものだ。背景にはオーバーツーリズムもあるとされるが、飲酒マナーに対する社会の目の変化を表しているとも言えそうだ。