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ドイツ伝説のバーテンダーが語る「酒とのつき合い方」~『シューマンズ バー ブック』

シネマニア・リポート
東京でインタビューに答えるチャールズ・シューマン=川村直子撮影
東京でインタビューに答えるチャールズ・シューマン=川村直子撮影

「ドイツでは、自分を失うほど飲む人があまりいない。日本の人はストレスが多いのでは?」。ちょっと耳が痛いそんな指摘をいただいたのは、公開中の独ドキュメンタリー 『シューマンズ バー ブック』(原題: Schumanns Bargespräche/英題: Bar Talks by Schumann)(2017年)に登場する世界的な伝説のバーテンダー、チャールズ・シューマン(76)。「バーは人生の学校」と語るシューマンの教えを、インタビューでかみしめた。

シューマンは、独南部ミュンヘンで人気のバー4軒を営む、世界で伝説的と称されるバーテンダー。1991年に発行したカクテルのレシピ本「シューマンズ バー ブック」は、各地のバーテンダーにすり切れるほど読み継がれてきた。そんな彼がニューヨークやパリ、ウィーン、東京、ハバナなどに足を運び、トップ級のバーやカクテルを通じて各地のバー文化を探るのが今回のドキュメンタリー『シューマンズ バー ブック』だ。同じミュンヘン出身のドキュメンタリー映画作家のマリーケ・シュレーダー(47)が、機内でたまたまシューマンと知り合ったのをきっかけに、監督・脚本・製作を務めた。

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『シューマンズ バー ブック』より © 2017 Thali Media

シューマンの生い立ちは、なかなか数奇だ。南部バイエルン州で両親が営んだ農場で育ったが、「牧師か農場を継ぐか」と両親に迫られて飛び出し、1959年から約6年間、旧西ドイツの国境警備隊員となる。「昔はみんな、ある程度の年齢になれば兵役に就かなきゃならなかったからね」。通常の兵役期間より長くいたが、「楽しかったからだ。食べるものも飲むものもたくさんあったから」と笑う。

その後、「自分が何をやるべきか考え、引きこもっていた時期があった」という。1968年には在仏の総領事館で職を得たが、「ここで働き続けても大使になる見込みはない」と思い、スイスのホテル学校へ。イタリアやフランス、スペインなどのバーやレストランで経験を積み、ミュンヘン大学で政治とジャーナリズムを学ぶ傍ら、ミュンヘンの著名バーでバーテンダーとして働いた末に1982年、「シューマンズ・バー」をオープンした。当時、バーと言えばホテル内にあるのが通例で、一般的には敷居が高かっただけに、気軽に入れて食事もできる路面バーとして一躍人気に。「有名人が来店しても特別扱いはせず、どの客もみんな等しく同じサービスを受けられるバー」(シューマン)をモットーに、76歳の今もカウンターに立つ。「バーテンダーは、なりたくてなった夢の職業ではなく、食べるために始めた偶然の仕事。でもやめる時期を逃してしまい、いまも続けているよ」とシューマンはおどけた。

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『シューマンズ バー ブック』より © 2017 Thali Media

「伝説のバーテンダー」と呼ばれるまでになったシューマンにとって、いいバーテンダーの条件ってなんだろう? そう尋ねると、「人の話をよく聞くことだね」と返ってきた。「かつ、批判も柔軟な姿勢で受け入れること。でも最近あまり批判されないから、たまには誰かに何か言ってほしいな」

そのためにも、いろんな職業を経てバーテンダーになるのはいいことだ、とシューマンは言う。「バーテンダーはいろんな国籍の人たちとかかわり、国によって見方が違ってくることもわかってくる。外交官にも通じるものがあるんじゃないかな。今まで別の仕事をしていて、70歳を過ぎてバーテンダーになった人が東京にもいるよ」

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チャールズ・シューマン=川村直子撮影

それでいて、シューマンはかねて、客と一定の距離を保つよう心がけているそうだ。日本のバーテンダーにも同じスタイルを感じ、日本のバーを回るにつれて「距離を保つ大切さをより強く感じるようになった」とシューマンは言う。2013年に「理想のバー」としてミュンヘンにオープンした「レ・フルール・デュ・マル(悪の華)」にはそうした「日本のバー文化」を意識してとり入れたという。

世界保健機関(WHO)によると、1人あたり年間アルコール摂取量(15歳以上)は2015年、日本で7.5リットル。ドイツの同10.6リットルより約3割少ない。なるほどさすがドイツはビール大国だなと私は思ったが、たびたび日本を訪れたシューマンに言わせれば、「ドイツ人よりも日本人の方が多く飲んでいる」印象だという。

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『シューマンズ バー ブック』より © 2017 Thali Media

「ドイツでは、自分を失うほど飲む人があまりいない。だから日本の方がたくさん飲むんじゃないかと思ったが、たぶん、日本の人はストレスが多いんじゃないかな。この映画のせいで日本人がもっと飲むようになったら、ちょっと責任を感じてしまう」とシューマンは語った。日本も若者を中心に、酒量は全体に年々減っているそうですよ、と私が言うと、シューマンは「本当にそうなの?」と驚きつつ、「いいことだと思う。どれぐらい飲むかきちんと意識をもって飲む人が増えたってことだろうから。たくさん飲みすぎると、お酒を扱うことができず、お酒に飲まれてしまう」と説いた。


考えてみれば、欧米では酔って公共の場を歩くことなど考えられないのに対し、日本は都市部を中心に、会社員らが赤ら顔で夜な夜な路上を闊歩している。そんな光景をシューマンもよく目にしてきたということかもしれない。日本では今、いや以前から、飲み過ぎを背景にした事件も相次ぐだけに、表現を選びながらも日本の飲み方を憂えた彼の言葉を改めて振り返っている。

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チャールズ・シューマン=川村直子撮影

シューマン曰く、「バーは人生の学校」だという。「バーには多くの人たちがやって来る。レストランに行くよりも人と知り合えるし、隣に座った知らない人とも飲むことでコミュニケーションが生まれる。そこでは敬意を表した態度を取らなければならないから、他者への敬意も学べる。人と人とがどのようなつき合い方をすべきか、教わる場所だと思う。一方、必ずしも良いお客さんばかりではなく、お金さえあればいくらでも飲める、すべてを買えると思って来る人もいる。そういう人たちを制御するのもバーテンダーの仕事。お客さんもバーテンダーもいろいろ学べる、人生の学校だ」

シューマン自身は、仕事の間はもちろんのこと、酒はさほど飲まない。一方で、コーヒーは毎日5杯飲むそうだ。かつてファッションモデルもしたことのある体型を維持しつつ、バーのカウンターになお立ち続けるため、ほかに日々、どんなことを心がけているのだろう。そう聞くと、シューマンは答えた。「自分を大切にしながら自分自身を生きることが重要だと思う。例えば自分を大事にすることなくお酒ばっかり飲んだ後に、また良い状態に戻そうとしても難しい。病気は遺伝だと言われるが、実際は自身を破壊することで病気になることが多いよね」

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『シューマンズ バー ブック』より © 2017 Thali Media

良いバーテンダーのいる良いバーがいかに「人生の学校」たりえるか、ますますわかった気持ちだ。