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NEC森田隆之社長に聞く、経営に響く「多様性」の本質と、グローバルの舞台でも「率直」を貫く理由

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森田隆之 NEC 取締役 代表執行役社長 兼 CEO
森田隆之 NEC 取締役 代表執行役社長 兼 CEO =曽川拓哉撮影

日本の強さはどこへ行ってしまったのか。スイスのビジネススクールIMDが発表した「世界競争力ランキング」では、2023年、日本は64カ国中35位で過去最低となった。私たちはこれから一体、どのようなマインドセットを持ってアクションを起こしていくべきなのだろう。

NECのグローバル化やカルチャー変革に取り組む森田隆之社長に話を聞いた。新卒で入社後、長く海外事業に携わり、M&Aや事業ポートフォリオ再編によって2010年代半ばに経験した経営危機からの再起を主導。最高益を出せる企業に復活させた。推進する2025中期経営計画では戦略と文化の二軸でNECグループを変革し、グローバルに社会価値を届けようと旗を振る。

そんな森田氏は40年以上のキャリアの中で、「多様性」の重要性を実感したことが変革の原体験となったと語る。真のグローバル企業を志し、世界11万人のNECグループ社員に対して伝える「インクルージョン&ダイバーシティ(I&D)」の本質とは──。

※ダイバーシティ(多様性)は、多様な「個」が包括的に尊重されているインクルージョンの状態ではじめて価値を生むと考え、NECグループではインクルージョンを先にして「インクルージョン&ダイバーシティ(I&D)」と表現している。

インタビューに応じるNECの森田隆之社長

米国駐在で感じた衝撃

──多様性を意識するようになったきっかけを教えてください。

今でこそ世界中を飛び回り、英語でのビジネスの交渉や講演をしていますが、初めての海外経験は大学の卒業旅行と、遅かった方だと思います。それがNECに入社してからは海外出張を多くこなし、28歳から33歳まではアメリカに駐在。多様な人々と交流し共に働く中で、考え方や行動が人によって全く違うことに大きなカルチャーショックを受けました。

同質性の高い日本では当たり前のことが、世界だとそうではない。こう知ると、今まで普通だと思っていたことでも、全く新しい「新鮮な目」で捉えられるようになりました。これが多様性の重要性を強く意識した原体験です。

NECの森田隆之社長

バックグラウンドや経験が違う部下を持った「幸運」

帰国後、優秀なアメリカ人の部下と仕事ができたことも幸運でした。1990年代は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われていた時代です。彼はアメリカの名門大学を卒業し、パソコンや半導体などで世界的に高い競争力を誇っていたNECで働くために来日。2~3年、同じチームで新規事業開拓に取り組みました。事業のアイデアを出し合ったり、一緒にプランを立てて海外のお客様を訪ねてプレゼンテーションをしたり。共に働く中で、バックグラウンドや経験の違いが発想の広がりを生み出すことを、何度も実感しました。

多様性の醍醐味と、意見を戦わせる重要性

40歳ごろ、M&Aを手がける部隊の立ち上げに携わり、2年後には部門長になりました。この部門はリース会社に出向していた人、ITの専門家、研究者、企画畑の人、社外から来た人など、多様なメンバーで構成されていました。自分と似たキャリアを歩んできた人のアイデアに驚くことは少ないものです。けれど、異なるバックグラウンドを持つ人の発想やアイデアは、すごく面白かった。ここでも多様性の力を感じましたね。

NECの森田隆之社長

──多様性のあるチームにおいて、方向性をどう見出したのですか。

相手と意見が異なる時こそ、しっかり議論するようにしています。アメリカでのビジネス経験があるからでしょう。傍から見ると喧嘩のようでハラハラするかもしれませんが、議論が終われば全てリセット。あとに引きずらず、すぐに普段どおりに会話します。ダイバーシティの根幹にはバックグラウンドや経てきたキャリアの違いがあります。互いの考えをしっかりと理解するためにも、本音で真剣に議論することが大事なのです。

多様性に欠いた組織に起きたこと

近年、多様性についての研究が盛んです。『多様性の科学』(マシュー・サイド著、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2021年)という本では、9.11のアメリカ同時多発テロ事件以前に、ワールドトレードセンターが襲撃される兆候について、CIAは重要なサインを見逃してしまったとされています。

CIAはかつてWASP(ホワイト・アングロ・サクソン・プロテスタント)のアメリカ東部出身の男性ばかりに偏った採用をしていた。そのため、イスラム圏の人であれば気づいたはずの兆候に気づかず、テロを防ぐことができなかったそうです。それをきっかけにCIAの組織改革が始まったと、この本は記しています。組織が多様性を欠くと「自分にとっての当たり前が、他の人にとっては当たり前でない」ということが見えなくなってしまうんですね。

変化の激しい現代は、色々な常識が崩れ始めています。それについていけない企業や人は脱落してしまうわけで、変化に対するレジリエンス(困難をしなやかに乗り越える力)が重要になります。またカルチャー変革の推進には、変化に対する「受容性」も大切です。それを気づかせてくれる大きなきっかけもまた、「多様性」の中から生まれるのだと思います。

重要なのは「深層ダイバーシティ」の実現

──イノベーションとI&Dの関係をどう捉えていますか。

イノベーションを起こし続けていくために気づきを与えてくれる、見えないことを見えるようにしてくれる。それがI&Dです。例えばアメリカは経済成長が続き、イノベーション気質も根付いています。ですが、アメリカの巨大企業であるマイクロソフトもグーグルも、CEOはアメリカ出身ではありません。本人たちが優秀だったことに加え、育った環境などのバックグラウンドが様々です。これがアメリカという国の多様性の中で化学反応を起こし、新しいイノベーションと産業を絶え間なく生み出し続けているのだと思います。NECグループもI&Dについてもっと学び、意識的に採り入れなければなりません。

ダイバーシティと言えば性別や国籍、年齢、言語など、表面的にわかりやすいものがまず思い浮かびますが、専門性や職歴、スキル、考え方、価値観、文化的な背景など、外側からは認識できない深層のダイバーシティもあります。私は後者の「深層ダイバーシティ」こそが、I&Dの本質だと考え、その推進が重要だと考えています。

NECの森田隆之社長

ビジョンを共有し、コミットし、一人ひとりが感じられる変化を

──NECを、多様性が根付く「真のグローバル企業」にするために力を入れていることを教えてください。

自ら行動することは、経営トップの責務です。行動自体が大きなメッセージになりますし、「どうしようかな」と迷っている人の後押しにもなります。

そのうえで私は、真のグローバル企業になるために次の三つのことを心がけています。

まず「こうありたい」という姿やビジョンを社員と共有し、しっかり打ち出していくこと。次に、そのビジョンやありたい姿に実際に近づいていくために「本当にコミットする」こと。アクションを起こしているのだと、一つずつ社員に見せています。そして最後に、小さくても「変化」を一人ひとりの社員が感じられるようにすること。この三つが経営トップとして大事なことだと思い、実践しています。

グローバルの場に積極的に参加し、必ず「爪痕を残す」

──ダボス会議など、国際的な会議やイベントにも積極的に参加していますね。

これも経営トップの責務として実践していることの一つです。なかでもダボス会議は世界経済フォーラムが毎年開催し、世界を代表する政治家や実業家、経営者、さらには非政府組織(NGO)などが一堂に会します。日本からも政府首脳や著名な経営者らが参加し、多様な考えのもとで世界経済や環境問題など幅広いテーマについて議論ができる場です。

このような舞台に参加して情報を得たり発信したりすることは、NECが「社会価値創造」というパーパスに本気で取り組んでいくにあたりとても重要です。ひとたび参加すれば、日本にいては触れることのできない様々なインプットを得ることができ、そして世界中のキーパーソンとのネットワークも広がります。

NECが掲げるパーパス
NECが掲げるパーパス

私は、国際会議に出るからには必ず発言し、足跡や爪痕を残すことを心がけています。必ずしも「これに出たいな」と思えるセッションやパネルディスカッションへ登壇できるわけではありませんが、自分の専門から少し遠いテーマでもしっかり準備をして、できるだけ積極的に参加しています。登壇者との議論に触れ、深く考えることで理解や洞察が一気に広がるからです。

また自ら発信を続けていると、様々な方から声をかけていただけるようになります。その声がけに応え、好奇心を持って取り組んでいくことで、さらにビジネスの可能性を広げていけるはずです。

NECの社長になって実感したこと

──多くのグローバルテック企業の経営者と親交があるそうですね。

NECの社長になって実感したことの一つに、いろんな物事に格段にアクセスしやすくなったことがあります。マイクロソフトやSAP、HPなどグローバルテック企業の経営トップでも、NECの社長として「会いたい」と伝えたら、基本的に断られることはありません。NECのブランド価値をものすごく感じていますし、これを活かさない手はないでしょう。

社長になった当初はCOVID-19の流行下でした。そこで海外のリーダーたちとは積極的にオンラインで面談しました。一度オンラインで会っておくと、Face to Faceで会った時には「ようやく会えたね」と会話が弾み、様々な物事が素早く進みます。

自らそうした機会を作っていく中で感じたのは、世の中はすごく狭いということ。経営者と話をしていると「実はあの人とあの人が知り合いだよ」ということもよくあって、グローバルでビジネス展開するうえで、いわゆる「インナーサークル」のような場でも認知されることが重要だと感じています。ネットワーキングは継続しなければ価値が落ちてしまうし、再構築がすごく難しいものです。こうした繋がりを高度かつ複合的に構築しメンテナンスしていくこともまた不可欠です。

私たちは何の「プロ」になれるか

──グローバルで求められる、活躍できる人材になるためには、具体的にどういった力を身につけるべきでしょうか。

私自身、大学の卒業旅行までは海外に行ったことがありませんでしたが、今は世界中を飛び回って英語でビジネスの交渉をしています。また大学は法学部卒ですが、最高財務責任者(CFO)でしたし、テクノロジーをビジネスにする新規事業開拓にも挑戦しました。

何が言いたいかというと、大きな好奇心とほんの少しの勇気があれば、本当に何でもできるんです。最初は誰もが素人ですが、チャレンジを重ねるうちに色々なことが身につきます。学生時代の専攻が何であろうと、現場で本気で学べば、私たちはどんな「プロ」にもなれるのです。

時間は長いようで短い、短いようで長い。30歳でも40歳でも50歳でも60歳でも、興味を持てば、いつからでも、どんなことにもチャレンジできます。

NECの森田隆之社長

交渉の場面でも「率直」を心がける理由

──ビジネスや交渉、そしてNECの変革を進める上で、どんなことを心がけていますか。

率直に伝えることを大切にしています。社長就任以来、国内外の拠点で「タウンホールミーティング」を行い、多くの社員と直接対話してきました。時には厳しく答えにくい質問をもらうこともありますが、誠実に、嘘のない回答をするよう心がけています。

もう一つ、交渉のシーンで心がけているのは信頼関係の構築です。世の中のほとんどの交渉事は、実はゼロサムではなく、双方がwin-winになる仕掛けを作ることができます。ですが「何とか相手を打ち負かしてやろう」と思っているうちは、それに気づくことができません。信頼関係ができると、あるタイミングでその仕掛けに互いが気づき、難しい交渉でも一気に合意までのスピードを加速できるものです。

自らの情報を開示することは「手の内を明かすことになり不利になるのでは」と思う方もいるかもしれません。ですが私の経験上はほとんどない。相手に好奇心を持ち、考えを理解し、次の行動を予測しながら自らの考えを率直に伝える。そうすれば、交渉はスムーズに進みます。誠実であること、裏切らないこと。そして嘘をつかないこと。私はこの三つをとても大切にしています。

NECのI&Dが進んだ先に、目指す未来図

──今後のNECグループはどのような道を歩んでいきますか。

今、世界中で約11万人のNECグループ社員が働いていますが、まだ十分に力を発揮できていません。地域や拠点ごとに、ここに1万人、ここに2万人、ここに5000人、というバラバラな単位でのビジネスの進め方になっているからです。

NECグループの力を最大限に発揮するためには、日本を含むグローバルの全社員が一つになり、“11万人の会社”として動いていくことが不可欠です。周囲のパートナー企業にも加わっていただき、I&Dを推進しながら、一つの企業として全体の力を最大化する。これを実現できるかどうかが、私たちの成長を後押しするうえで最も大きな鍵だと思っています。(文:林 亜季 撮影:曽川 拓哉 取材:株式会社ブランドジャーナリズム)

NECの森田隆之社長