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W杯開催目前 オープンで多様性を表現できる女子サッカーに WEリーグの髙田チェア

World Now 更新日: 公開日:
WEリーグの髙田春奈チェア=松本敏之撮影

――7月20日から始まる女子W杯ですが、(7月6日現在)放映が決まっていませんね。

FIFA(国際サッカー連盟)の放映権料の値上げで、ほかの国でもなかなか決まらなかったんですが、いまの段階で決まっていないのは日本だけになっている状況です。

FIFAと各メディアとが直接交渉する話なので、交渉の状況をみながら、WEリーグでも何かできないかと、クラウドファンディングを準備しています。

――FIFAが放映権料を上げた背景は。

男子と女子で待遇の差を解消していこうということで、FIFAが大会ごとに女子の待遇を改善してきているんです。賞金があがり、その分、FIFAの収入になる放映権料も上がりました。

市場の原理に従えば、需要と供給とが一致するところで落ち着くものですが、FIFAとしては「女子の待遇改善」という目的があるのだから、メディアもそれを理解してくれ、ということですね。

このような論争自体はオープンになって良いと思いますが、ニュースは選手たちの耳にも入るし、それで放映されないとなったときに損をするのは結局選手たちですよね。なので、私たちも状況をただ見ているだけで良いのか、何かできないかという思いです。

――試合を見られないと、やはり世間は盛り上がりませんよね。

FIFAの公式のページで中継されますので、全く見られないということではないんです。見ようと思えば見ることは可能です。ただそうなると、ほんとうに好きな人しか見ないですよね。

サッカーは男子、女子にかかわらず、試合を見れば万人に愛される魅力のあるスポーツだと思うので、やはり一般の人たちに、公共の放送などを通して見てもらいたいという思いがあります。

――日本では女子サッカーはW杯での優勝で盛り上がりましたし、人気があるのだと思っていました。でもWEリーグは苦戦中ですね。

W杯で2011年に優勝し、あれだけ日本中が盛り上がったのにどうして、という気持ちはあります。ただ日本代表の試合は注目されるけれども、普段のリーグでは観客数が伸び悩むスポーツは多いものです。

そして「なでしこジャパン」は最初にいきなり優勝してしまったので、ハードルが高くなってしまった面もあるかも知れません。次の大会でも準優勝しているんですが、メディアからするとその期待に比べていま一つ、その後も結果が伴わなかったときに、そこまでのバリューがないと判断されてしまったのかも知れません。

WEリーグの髙田春奈チェア=松本敏之撮影

――人気はともかくW杯の試合の方では、日本代表には頑張って欲しいですね。どこまで期待しますか。

いま日本は世界ランク11位で、優勝を目指せないわけではない位置にいると思います。

ただ世界の女子サッカーがこの数年すごく力をつけているんです。

WEリーグの観客はいま一試合平均1500人程度ですが、アメリカのリーグだと平均で観客が1万人入るというところもあります。スペインでは一試合で観客9万人が入ったというニュースもありました。

スポーツを事業的な価値だけで測られるのには抵抗がありますが、事業として成長することで選手も育っていくものです。

そうやって欧米中心に強くなっていくなかで、今回のW杯の結果によっては、日本が世界と差をつけられる大会になり得ると思ってもいます。そうならないためにも、代表にはぜひ頑張って欲しいですね。

――世界的に見れば、女子サッカーはむしろ人気も出てきて競技としても成熟してきているということなんですね。

はい、世界的に見れば相当発展していると思います。

アメリカの場合、競技としてはずっと強いですが、事業としてはそうでもなかった。でもいまやっと安定してきていると聞きます。アメリカでは女の子の憧れのスポーツになっていますし、競技人口も多い。そうなるとグッズなども売れるし、事業としても安定する。

ヨーロッパの場合は、元々サッカーが文化として根付いているので、イングランドやスペインなども男子、女子関わらず応援するというように変わってきているようです。男子サッカーの文化が女子にも波及している形ですね。

ヨーロッパの女子のチャンピオンズリーグも開催され、観客も3万人、6万人と集まっています。女子のトップを決める試合にも、それだけの価値が認められているということです。

ーーサッカー文化の違いは大きいのでしょうか。

欧米の場合、政府の投資や、男子チームが女子チームも持つべきだという社会的な眼差しに応えた部分もあると思います。日本の場合は政府の後押しもそれほどないですし、男子クラブが女子チームを持つべきという声もそこまで大きくはない。

日本でも男子クラブが女子チームを持つところはあります。いまWEリーグは12チームありますが、そのうち8チームはJリーグのクラブの女子チームです。

ただ、どうしても「おまけ」扱いとなっていますね。「Jリーグも大変なのに」とか「男子が優先だ」となってしまう。

スペインなどの話を聞くと男子、女子ともにトップのチームとして扱っていて「男子が稼いだ金を女子に使うな」とはならないと聞きます。日本だと割とそういうことを言われることが多いですね。

「男女平等なら女子も自力で盛り上ろ」と言われることがあるし、私も個人的に「男子に頼りたい」ということではないんですが、先立つものがないと盛り上げられないのも事実です。

私は女子サッカーの価値を信じているので、投資すれば伸びると思ってはいます。ただどうしても「男子に比べると(試合展開が)ゆっくりしている」「面白くない」と思っている方がまだ多く、投資や応援を得るのは難しいですね。

WEリーグの髙田春奈チェア=松本敏之撮影

ーー実際に試合を見れば、そんなことはないと。

プロ化したことでトレーニングの時間も増え、選手たちの体格も変化し、メンタルも安定する。実力が上がっていることは、データにもはっきり現れています。選手たち本人が思う以上に、レベルが上がっていると思います。

――賞金や組織運営、見る側の意識にもジェンダー差があるんですね。そんななかで、WEリーグのEはエンパワーメントのEだと聞きました。

スポーツ事業と社会的な動きなどをからめると「もっとサッカーをちゃんとやれ」というアレルギー的な反応もありますが、そもそも女子サッカーのプロリーグを成立させること自体、ほかの女子スポーツにも良い影響を与えるし、女性の地位向上にもつながるものだと思います。

そして選手自身にもエンパワーメントが必要です。私も驚いたんですが、女子サッカー選手って、自己肯定感が低い人が多いんです。

女子サッカーの競技人口は男子の20分の1ぐらい。サッカーイコール男子のスポーツという意識がある。部活でも男子優先、指導も「君たちは男子みたいには蹴れないからこうしろ」というものだったりする。そういう環境で、自分も知らないうちに自己肯定感が低くなる。

選手たちはとても格好良いのだから、もっと自信を持って欲しいし、自信があればより魅力が増すと思います。

そういう環境をつくることもWEリーグとしてはやっていきたいです。そのうちの一つですが、WEリーグの参入基準のなかに、経営の意志決定者のなかに女性を最低でも1人入れることや、クラブ職員の半数、指導者も各カテゴリーに1人は女性を入れることなどを定めています。

WEリーグの髙田春奈チェア=松本敏之撮影

――スポーツのあり方も社会の反映だということですね。ではWEリーグの振興策としてどのようなことを考えていますか。

スタートしてからこれまではJリーグのやり方を踏襲してきましたが、2シーズンやって、別なやり方もあるのではないかと思いました。同じやり方をするとどうしてもJリーグが「正解」になってしまう。これからの3シーズン目は、違うやり方をしてみようと思っています。

サッカーのファンというと熱烈なサポーターがいて、サポーターを増やしてチームも強くなるというのがパターンです。サポーターのチームへの愛やつながりは素晴らしいものだと思いますが、一方で仲間が増えるとだんだん排他的になりがちです。

よりオープンに誰でも楽しめるようにするために、別のファン層にアプローチしていきたいです。

ヨーロッパでも通常の女子のリーグ戦は観客数が1000人規模だったりします。だけど、大きな試合には何万人も集まる。普段は見ないけれど、女子サッカーの大きな試合は家族で見に行くという空気をつくるのも、WEリーグだからできることじゃないかと思います。

日本では女子サッカーの観客は男性が主ですが、欧米では同性からの人気も高い。私たちWEリーグも、そういう新しい価値というものを目指したいと思っています。ジェンダーの問題に取り組むこともその一つです。

渋谷のこのオフィスに引っ越したのも、新しい発想をしたいから。また、地域とのつながりから試合を見に来てもらう狙いもあります。地元や地域と連携して「初めて来た」というこれまでとは違う層の観客をいかに増やすか、その方たちがまた来てもらえるようにどうするかを考えたい。

私たちが大切にしている多様性という価値観を表現できるリーグにできればと思います。

WEリーグの髙田春奈チェア=松本敏之撮影