7歳の女の子が、両親の経営するお店の前で「猫関連のグッズはいかが」と客引きしている。雑踏を歩いている2人の女性は、おそろいの猫柄の服で猫のぬいぐるみを物色している。あらゆる店やレストランの窓辺に大小さまざまな猫の置物がある。
ベルギーの古都イーペルは、街中が猫に夢中なのだ。
これは「カッテンストゥッツ」(訳注=ベルギーの公用語のひとつであるフラマン語で「猫祭り」の意味)と呼ばれ、猫をテーマにしたパレードと祭りが催される。
イーペルは、フランスとの国境近く、西フランダース地方の緩やかに起伏する農業地帯にある都市だ。
イーペルの市民たちは、昔からこのように猫を熱愛してきたわけではない。
中世においては織物業が主要産業で、羊毛倉庫にネズミなどの害獣が入り込まないように猫を飼っていた。しかし、その猫が急激に繁殖しすぎると、当局はおそろしい解決策を編み出した。
四旬祭(訳注=キリスト教で復活祭前の節制と改悛〈かいしゅん〉の期間)の第2週、「猫の水曜日(Cat Wednesday)」と呼ばれる日に、鐘楼から猫を広場に投げ落として殺したのである。当時、猫は魔術と悪のシンボルと見られていたため、市民は猫が殺されると歓声をあげた。
猫が生きたまま放り投げられた最後の事例は1817年である。イーペルは1937年になると、このおぞましい過去を直視し、逆に猫をたたえるカッテンストゥッツという新しい伝統行事を始めた。
2024年5月12日に行われたパレードには見事な山車が繰り出し、手の込んだコスチュームやパフォーマンスが続いた。そのあとには、道化師に扮した人物が、ぬいぐるみの猫を鐘楼から眼下の見物客に向かって投げ落とした。
2024年の猫祭りは大盛況だった。2018年以来6年ぶりの開催だったからだ。祭りは3年おきに開かれるのだが、新型コロナウイルス感染症の影響で2021年は中止されていた。主催者側は、世界中から5万人以上の愛猫家が集まると予想していた。
猫耳を着けた女性が、歩道の縁石に座ってベルギーワッフルを食べていた。尋ねてみると、パレードを見るために東京から駆けつけたという。
「ベス」と名乗る英国ノーサンプトンシャーから来た女性は、子供時代から両親に連れられて、イギリスの戦争記念碑を訪れるためにイーペルには来ていた。しかし、猫祭りに参加するのは初めてだと言う。
現在はキンバーという名のメインクーン種の猫を1匹飼っているが、彼女の左腕には、キンバーを含めこれまで飼ったことのある7匹の猫のタトゥーが入っていた。
パレードの山車のあるものはイーペルの歴史をテーマにしており、またあるものは歴史上の猫崇拝やポップカルチャーをテーマにしていた(もちろん、新聞漫画の猫のガーフィールドの巨大な山車もあった)。
衣装はお手製のものもあれば、プロの仕立てのものもある。今年のパレードの参加者の熱意は伝染するようだった。
ダンスチームとともに行進する小学生たちから始まって山車に乗った大人たちまで、だれもが全身全霊でパレードに打ち込んでいた。マーチングバンド、太鼓隊、その他の音楽パフォーマンスがお祭りを彩った。季節外れの暖かい一日だったが、パレードは3時間近くも続いた。
警察官のダン・バクスターと看護師のサラ・カールソンのカップルは、米国フィラデルフィアからお祭りを見るためにイープルに休暇でやってきた。
カールソンが言うには、「インスタグラムでこのお祭りのことを知ったのだけど、最初は『マジ?』という感じだった。でも、調べてみた結果、『よし、行こう』ということになったの」。二人は飼っている4匹の猫を大勢のキャットシッターに預けて、ベルギーまでやってきたのだ。
バクスターは、猫のタトゥーをふたつ誇らしげに入れている。フィラデルフィア・イーグルス(訳注=米ナショナル・フットボール・リーグのチーム)の帽子をかぶり、Tシャツには「MILF: Man I Love Felines(猫大好き)」という言葉がプリントされていた。(抄訳、敬称略)
(Jessica Roy)©2024 The New York Times
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