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一躍スターになった米映画の猫、その素顔は

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
映画「キャプテン・マーベル」でグースを演じたレジー=ロイター。封切り前の2019年2月22日、ロサンゼルス近郊のスタジオでグースとしての肖像写真に納まった

(ご注意ください。この記事には、映画「キャプテン・マーベル(原題:Captain Marvel)」のネタバレというか、ネコバレが含まれています)

一躍人気スターになった割には、役を得たオーディションは特別なものでもなんでもなかった。

米マーベル・スタジオの最新作「キャプテン・マーベル」(訳注=2019年3月、米国、日本などで相次いで公開。米コミックをもとにしたスーパーヒーロー映画)。そこに、1匹の茶色のトラ猫が登場する。オスで、名前は「グース」。重要な役割を演じている。

この役には、何匹かの候補がいた。うち1匹が、アーシュラ・ブラウナーの「レジー(Reggie)」だった。

「人がいっぱいの部屋に入って、フラシ天(訳注=ビロードの一種)を敷いた大きな猫用ベッドを机の上に置いた」。映画向けに動物を用意し、訓練する会社「Animals for Hollywood(動物をハリウッドに)」のブラウナーはこう振り返る。「レジーはベッドの上でくつろぎ、これ以上ないほど落ち着いていた。その場ですぐに採用された」

「キャプテン・マーベル」は、封切り1週間で5億ドルの興行収入を世界であげた。その少なからぬ部分に、グース役のレジーと他の3匹の猫たちが貢献している。外見は野良だが、正体は「フラーケン」という獰猛(どうもう)なエイリアンとして出演し、観客を魅了した(原作のコミックでは、「スター・ウォーズ」の人気キャラクターと同じ「チューイ」という名前だが、この映画では「トップガン」〈訳注=86年公開の米映画。「キャプテン・マーベル」の主人公と同じように戦闘機パイロットが主役〉に出てくる人物の愛称グースに変更された)。

「キャプテン・マーベル」のプレミアに姿を見せた主演俳優のブリー・ラーソン=2019年3月4日、ロサンゼルス、ロイター

グースには独自のポスターが作成され、映画の公開前から注目されていた。期待にたがわず、評論家は特筆し(ニューヨーク・タイムズ紙の映画評論でA.O.スコットは「とりわけ素晴らしいのは茶色のトラ猫」と記している)、ギャグやパロディーに活用されるようにもなった。マーベル・スタジオの製作社長ケビン・ファイギは、親会社のディズニー社の動画配信サービス(訳注=19年後半に開始予定)で配信される短編作品に、グースが主演することだってありうるという臆測を飛ばした。

映画の中では、グースが本物の猫として出てくる場面はかなり長い(特撮シーンもあるが)。これをレジーだけで演じる予定だったが、変更したことをブラウナーは明かす。「台本に目を通し、役に求められているものを考えた結果、もう何匹か加えた方がよいということでみんな一致した」

そこで選ばれたのが、やはり映画に出た経験がある「アーチ―(Archie)」(そう、レジーもアーチ―も、米漫画出版社アーチー・コミックのキャラクターの名前をもらっている)。ブラウナーはさらに、動物保護施設にいた「ゴンゾ(Gonzo)」と「リゾ(Rizzo)」(こちらの名前は米人形劇映画「ザ・マペッツ」に由来)を見つけてきた。

4匹とも、それぞれに特徴がある。ブラウナーによると――。

レジー:オールラウンドプレーヤー。最も多くの場面をこなした。

アーチ―:やんちゃで遊ぶのが大好き。だから、引っかくシーンに出た。1995年を舞台とするこの映画では、サミュエル・L・ジャクソンが演じるS.H.I.E.L.D.機関のエージェント、ニック・フューリー(訳注=主人公とともに戦う準主役)が、猫によってけがをする場面が描かれている。(訳注=片目をグースに引っかかれて失明し)トレードマークの眼帯を着用することになるできごとだ(原作のアニメでは第2次世界大戦で片目を失ったとされているが、この映画では時代設定も含めて異なる筋書きになっている)。

ゴンゾ:主にグースを抱いて移動する場面に登場した。

リゾ:万能タイプ。代役が必要なときに備えて、いろいろなことを少しずつ教え込んだ。

グース役で活躍したレジー=ロイター。封切り前に撮影された

でも、自己中心的であることこの上ない猫に、どうやって言うことを聞くように仕込むのか。

「お利口に訓練に応じるようになるのは、犬と同じ」。ブラウナーは、はた目ほどは難しくないと語る。「要は、よい行動をほめ、それを繰り返しさせるようにすること。エサやおやつを使い、とくに大好物はいざというときにとっておく。覚えにくいことや、撮影セットの関係でこちらが遠くにいてやらせなければならないことも出てくるから」

これに、「カチッ」という音を組み合わせた。「言葉で命じ、うまくやったときにこの音を使う。次に鶏肉やレバーのごちそうが出てくるのを知っているので、『そう!』と言っているのと同じになる」

出演者との交流も大切だった。

フューリー役のジャクソンは、よくおやつをくれた。「猫はサムを見るたび、『君のこと覚えているよ』という視線を送っていた」

エイリアン役を演じたベン・メンデルソーン。フラーケンを恐れる立場にありながら、猫が好きでたまらなかった。「なにしろ、普通の人間には見えないコスチュームをまとっているので、猫にとってもなれるのは大変だった」。こう語るブラウナー自身も、同じような重たい衣装をまとって、猫の訓練をした。

撮影に入ると、「ベンは暇さえあれば、猫のところに行って機嫌をとってくれた。猫がうまくシーンにとけ込むためには、絶対に必要なことだった」

で、スーパーヒロイン役で主演したブリー・ラーソンはというと、「猫アレルギーの持ち主だった」。それでも、「私たちや猫を締め出すようなことはまったくなかった。逆に、できる限りのことをしてくれたので、本当にありがたかった」とブラウナーは評価する。

「キャプテン・マーベル」のプレミアで、ファンの自撮りに応じる主演俳優のブリー・ラーソン=2019年3月4日、ロサンゼルス、ロイター

製作の準備期間は、4カ月だった。猫にはできないアクションもあった。フラーケンが口から攻撃の触手を出すときは、特撮シーンの出番になる。飛行中に重力がかかり、猫の体が後ろに引っ張られるようになる場面も、コンピューター処理(CG)の対象になる。それでも、レジーはよくがんばり、かなりのCGを不要にした。製作する方も、「できるだけレジーを生かすようにした」とブラウナーは猫をたたえる。

一番大変だったのは、撮影セットの乱雑極まる状況に猫をならすことだった。それは、映画の封切りの催しにレジーが出なかった理由にも通じる。赤いカーペットの上で、小さなネクタイをした姿を別途撮影するにとどめたのは、何が起きるか分からない公の場を避けることにしているからだ。「いきなり大きな音がして、びくつくようなことは最悪」とブラウナーは説明する。

「キャプテン・マーベル」のプレミアに詰めかけたファン=2019年3月4日、ロサンゼルス、ロイター。多くはコスプレ姿だった

では、今後のマーベル・スタジオの作品にレジーたちが再登場したり、短編で動画配信されたりすることはあるのか。「そういう予定については知りうる立場にはないが、要請があれば、いつでも応じることにしている」

「これだけグースが人気者になったのには、私たちも驚いている」とブラウナーは話す。「そのほとんどはレジーの貢献で、カリスマ的な輝きすらある」

それでも、この人気が猫たちを変えてしまったわけではない。だから、冗談めかしてこう言うのだった。

「猫には、地に足の着いた普段通りのままでいさせるようにしたい。よき親としても、子供がいい気になってうぬぼれるような育て方は慎みたい」(抄訳)

(Bruce Fretts)©2019 The New York Times

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