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一定年齢以降は給与減、日本でも導入の賃金ピーク制度 「年齢差別」と韓国で猛反発

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古紙などの回収作業をする高齢者。韓国の高齢者の多くが、日雇いや非正規雇用など不安定な条件で働いている
古紙などの回収作業をする高齢者。韓国の高齢者の多くが、日雇いや非正規雇用など不安定な条件で働いている=2024年3月21日、韓国・ソウル鐘路区、坪谷英紀撮影

訴訟に発展するケースも

韓国では今、「賃金ピーク制度」をめぐり、労働者が企業を訴える民事裁判が相次いでいる。この制度は、日本の企業と同じく中高年で一定の年齢に達すると給与を削減する仕組みだ。韓国では「雇用における年齢差別禁止及び高齢者雇用促進に関する法律」で年齢による差別を禁じているのに、一定の年齢で一律に賃金を削減するのは年齢差別にあたるというのが労働者の主張だ。

文重玉(ムン・ジュンオク)さん(60)は昨年6月にKB国民銀行を定年退職し、雇用保険による失業給付を受けながら職探しをしてきた。事務職が希望で何社にも履歴書を送っているが、定年後に正社員として雇う会社は少なく、思うようにいっていない。雇用保険の失業給付の期限を3月に迎えた。就職しないと公的年金が支給される63歳まで収入がない状態になってしまう。

賃金ピーク訴訟の原告の一人、文重王さん
賃金ピーク訴訟の原告の一人、文重玉さん=2024年3月21日、韓国・ソウル、坪谷英紀撮影

55歳の時に希望退職するよう迫られた。だが、当時息子2人が高校生で教育費にお金がかかるとして、退職を拒み給与が半分になっても銀行に残る決断をした。支店長から降格し、不動産など担保価値を査定する部署に異動させられた。

「一緒に仕事をする若い行員よりも仕事ができる自負はあった。給与は半減したのに業務量はこれまでと変わらない。これはおかしいと思いました」

2020年10月、ほかの同僚134人とともに、ソウルの地方裁判所に提訴した。当時58歳が定年だった国民銀行では2008年、60歳に定年延長する代わりに55歳から賃金を半減するという協定に労使が合意。その後、国は60歳まで企業は雇用することを義務づけた。これを受けて文さんらはさらに定年を2年延長して62歳まで雇用されることを望んだが、経営側は拒否。これが労使協定違反にあたると文さんらは主張した。地裁は今年2月、文さんらの主張を認めて原告勝訴の判決を下した。経営側は控訴し、現在上告審で係争中だ。

原告の代理人で、労働法が専門の弁護士、金起徳(キム・ギドク)さん(59)は「定年制度そのものが、労働法が定める雇用保障の原則に反している。提供すべき労務が提供できるのにある一定の年齢が達したからといって、会社から追い出すのは法に反しており、不当解雇だ」と話す。

KB国民銀行の賃金ピーク制度訴訟原告代理人・金起徳弁護士
KB国民銀行の賃金ピーク制度訴訟原告代理人・金起徳弁護士=2024年3月22日、韓国・ソウル、坪谷英紀撮影

韓国では1997年の通貨危機後、労働者の雇用を守るために労組側から賃金ピーク制度の導入を持ちかけた経緯がある。金融機関では40代から肩たたきが始まり、定年まで勤める人は1割ほどにとどまるという。公的年金制度も日本に比べて脆弱(ぜいじゃく)で、退職してから年金を受けるまでタイムラグがある。給与が減っても定年延長して無収入の期間をなるべく短くするための苦肉の策として、大手企業を中心に労使協定が結ばれた。

年齢差別、7割が「受けた」と回答

賃金ピーク制度を導入している多くは、金融機関や財閥系などの大手企業だ。給料は減らされるものの、安定した収入や福利厚生が得られる期間が延びるのは全体を見渡せばむしろ恵まれている。大多数の中小企業や非正規雇用の労働者はそうした保障はなく、ひどい状況におかれている。

子どもの教育費や住居費にお金がかかる韓国では多くの人が現役世代に老後の生活資金をためる余裕がなく、高齢になっても働き続けなければ暮らしていけない。65歳以上の就労率は4割以上、貧困率も40.4%で、OECD諸国の平均を大きく上回る。

法では差別が禁止されていて表には出てこないが、年をとっているという理由で解雇されたり、就職で不利な扱いをうけたりする例が相次ぐといわれている。雇用労働省の2022年のアンケートでは、67.5%が年齢による差別を受けたと答え、見聞きした例では83.4%に上った。

また、韓国では65歳以上の労働者が雇用保険に加入できず、職を失っても失業給付を受けられないことが問題になっている。高齢者の就労を支援している労働組合「老後希望ユニオン」では、こうしたことは年齢差別にあたるとして国に対して雇用保険の加入を認め失業手当を支給するよう活動をしている。

金国眞(キム・グクチン)委員長(73)は「韓国の高齢者は産業の発展のために懸命に働き、いまの社会の繁栄の礎を築いた世代。それなのに子どもたちのためにすべてを使い果たし手元には何も残っていない。超高齢化社会がすぐそこまで来ている。それなのに準備がなされていないのは極めて問題だ」と話す。

老後希望ユニオンの金国眞委員長
老後希望ユニオンの金国眞委員長=2024年3月21日、韓国・ソウル、坪谷英紀撮影