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#withHandala ハンダラ少年と共に「即時停戦を」漫画家たちが示したパレスチナ連帯

World Now 更新日: 公開日:
様々なタッチで描かれる後ろ姿のイラストが並んでいる画像
​日本版withHandalaボードより(部分)

ボロをまとった裸足の少年が背を向け、後ろで手を組み立っている。周りには同じように後ろを向く様々なタッチの絵が並ぶ。その少年の名前は「ハンダラ」。パレスチナの抵抗のシンボルだ。ハンダラと共に、日本の漫画家たちがガザでの停戦を訴えるアクションが広がっている。

「即時停戦」 漫画家たちが自らのキャラ描き参加

「【拡散希望】ハンダラとともにガザでの即時停戦を要求します。漫画家の方々は、後ろを向いて手を組んでいるキャラクターの絵を#withHandala とともに投稿してくださいませんか?これはイタリアの漫画家80名の活動への協働です」(ハンダラとともに
即時停戦を要求

X(旧ツイッター)にハッシュタグ#withHandalaとともに呼びかけが投稿されたのは昨年の12月31日。呼びかけたのは画家の松下真理子さん、写真家のゾフレミハさん、漫画家の川勝徳重さんの3人。

この呼びかけに応じて漫画家たちの投稿が始まった。

『ちはやふる』の末次由紀さんは制服を着た女子学生の後ろ姿を、『銀河鉄道の夜』のますむらひろしさんはネコのキャラクターを、『伝染るんです。』の吉田戦車さんは火星人の後ろ姿で参加した。

「連帯します」「世界中の虐殺がなくなりますように」「これ以上子供達を殺さないで」「わたしがこの絵を描くことでたった一人でも考える、知る、きっかけになってくれたら」……。そんなメッセージと共に、自分の分身を描く人、子どもを描く人、動物など人間でない姿もある。普段の洋服もあれば着物や民族衣装など様々。カラーで、モノクロで、鉛筆や水彩、デジタルで、アナログなど、筆遣いも画風も多様なイラストが集まった。共通点はみんなハンダラ少年と同様、後ろ姿だということだ。

1月10日の締め切りまでに集まった作品は300点以上。その後も#withHandalaのタグをつけた投稿は続いている。

様々なタッチで描かれる後ろ姿のイラストが並んでいる画像
​日本版withHandalaボード

故郷を追われた10歳のハンダラ少年 パレスチナ抵抗のシンボル

「ハンダラ」は、パレスチナ人の風刺漫画家ナージー・アル・アリーさん(故人)が生み出したキャラクターだ。アリーさんは、1948年にイスラエルが建国されたときに、家族と共に10歳で故郷を追われ難民になった。

ハンダラはパレスチナ人難民の子どもと同じように裸足で、つぎはぎだらけの服を着ている。年齢は作家が故郷を追われたときと同じ10歳のままだ。両手を背中で組んでいるのは、「アメリカ流の解決策が提示される時代に拒絶のサイン」だという。

書籍の表紙写真。タイトル『パレスチナに生まれて』(露木美奈子訳/いそっぷ社)、黒い背景にペンで描かれた少年の後ろ姿。隣に少年より大きなサイズの万年筆が描かれ、ペン先はロウソクの炎のようにも見える。
『パレスチナに生まれて』(露木美奈子訳/いそっぷ社)

ハンダラという名前は砂漠に生えるスイカによく似た植物に由来する。この植物の実は実は非常に苦く、アラビア語では苦味の代名詞だという。アリーさんは、レバノンやクウェート、イギリスで、生涯にわたって4万枚以上の風刺漫画を描いた。

イスラエルだけでなく、アラブ諸国やアメリカなどパレスチナ人の運命を左右する大国の動きをじっと見つめるハンダラ少年のイメージは、1987年に作家がロンドンで暗殺された後にも、パレスチナの壁に描かれるなど、世界中でイスラエルへの抵抗のシンボルとして使われてきた。

広がるハッシュタグ これまでの歴史への理解も呼びかける

呼びかけの文章は日本語と英語のみだったが、有志が各国語に翻訳し、アラビア語、フランス語、中国後、ドイツ語も並んでいる。

1月18日にはアルジャジーラのSNSアカウントでも紹介された。タイ、マレーシア、ベトナム、韓国、メキシコなど様々な国の漫画家たちが#withHandalaのハッシュタグで投稿するようになり、同様のアクションがタイでも始まっているという。

ただ、一気にハッシュタグが広がったところ、「双方攻撃を止めるべき」とともに投稿された絵もあった。ハマスなどパレスチナ側の「責任」も同等にあるとも取れる投稿について、呼びかけ人は「趣旨とは違う」という立場だ。

そこで呼びかけ文にこう追記した。「(呼びかけ人の)私たち三人は、この『戦争』をイスラエルによる民族浄化/民族虐殺/ジェノサイドだと考えていて、それを止めるためのアクションだと思っています」

黒い背景のペン画。大きな手が上から下に向かって描かれ、鉄条網が手のひらに食い込んで血が流れている。指先は土にめり込んでいる。手前にそれを見つめる少年の後ろ姿。
『パレスチナに生まれて』(露木美奈子訳/いそっぷ社)より

川勝さんは「まるで今回のハマスのイスラエル奇襲以降に起きていることが、対等の国家間における『戦争』と思われる方もいるかもしれない」「でも今回のイスラエルとパレスチナの問題は両者の力関係の非対称性に問題がある」という。

SNSには毎日のようにガザの人たちの画像や映像が流れてくる。子どもたちの遺体や、家族を失って憤る人々の姿だ。パレスチナで起きている事を知ってはいるけれど残酷だから見たくないと思っている人や、自分からは行動が出来ないと思っている人が多いとゾフレミハさんは言う。

「ハンダラと共に立ち上がってくれた漫画家さんやアーティストの方々を見てファンの方々が『自分も立ち上がろう』と共感してくれている事、そしてハンダラと共に自分も声をあげたいと思うアーティストの方々が増え続ける事で、アクションが広がり続けていると思います」

川勝さんも、漫画家たちが実名や漫画家としてのペンネームを使って表明することが、このアクションが広がる大きな力になったとみる。

ゾフレさんは「自分の家族、友人、知人に必ず話すのは、「知る事」は大切だということ。今まで関心がなく知らなかったとしても、今何が起きているのか?過去にどのような歴史があったのか?日本語に訳された本もたくさんあるので、ぜひ自分なりにパレスチナの事を知って欲しいです」という。

川勝さんも「これは啓蒙活動と位置付けています。描いた人や見た人、各人がパレスチナの歴史や問題について学んで欲しいし、さらに前進して、街頭運動やボイコット、寄付などの行動に出て欲しい」という。

このアクションをきっかけに、ハンダラ少年が見つめてきたもの、パレスチナの歴史についても知って欲しいというのが、呼びかけ人3人の願いだ。