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イスラエルとハマスの衝突でSNSのヘイト投稿が激増 見るに堪えないハッシュタグも

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
米サンフランシスコにあるアイスクリーム店の窓。「パレスチナに自由を」と落書きされている
米サンフランシスコ・ミッション地区にあるアイスクリーム店「スミッテン」の窓。「パレスチナに自由を」と落書きされている=2023年11月2日、Jim Wilson /©The New York Times

ハマスがイスラエルを攻撃した2023年10月7日、ハッシュタグ「#HitlerWasRight(ヒトラーは正しかった)」がX(旧ツイッター)に登場した。それからの1カ月で、このハッシュタグを付けた4万6千件を超す投稿が寄せられた。その多くに、ユダヤ人に対する暴力を呼びかける文言が添えられていた。

ニューヨーク・タイムズが調べたところ、同時にハッシュタグ「#DeathtoMuslims(イスラム教徒に死を)」の投稿もX上で急増し、何万回もシェアされた。

イスラエルとハマスとの武力衝突が起きて以来、反ユダヤ主義とイスラム嫌悪のヘイトスピーチがインターネット上で激増している。

X、Facebook(フェイスブック)、Instagram(インスタグラム)、TikTok(ティックトック)では、しばしば露骨に暴力的な投稿が何百万件にものぼり、SNSを監視している学者や研究者たちがこれまで見てきた規模をはるかに上回る増加ぶりを示している。

ユダヤ系団体「Anti-Defamation League(ADL)」(名誉毀損〈きそん〉防止同盟)によると、反ユダヤ主義的な投稿は10月7日からの1カ月間にXで919%、フェイスブックで28%以上も急増した。また、ロンドンに拠点を置くシンクタンク「Institute for Strategic Dialogue(ISD)」(戦略対話研究所)によると、Xでの反イスラム教徒のヘイトスピーチは10月7日と8日に422%激増し、その後の5日間で297%増加したという。

ヘイトスピーチや過激主義を追跡している非営利団体「Global Project Against Hate and Extremism(GPAHE)」(憎悪や過激主義に反対するグローバルプロジェクト)によると、4chan、Gab、BitChuteといった過激なプラットフォームでは、反ユダヤ主義やイスラム嫌悪のコンテンツが10月7日以降の48時間で500%近くも増えたという。

この急増は世界的な現象で、反ユダヤ主義的な投稿は中国の国営SNS上でも広くシェアされた。

SNSを調査する研究者らによれば、この騒ぎは根深い暴力志向によって引き起こされたものであると同時に、目的を遂行しようとする過激派によって扇動されたものでもあるという。

ニューヨーク・タイムズがメッセージを閲覧すると、極右のオンライン上のグループメッセージでは、極左活動家を反ユダヤ主義に洗脳する手段について議論が活発になっている。ロシア、イラク、イランも、戦争に関する誤った情報とともに反ユダヤ的な言説を広めている。

「ヘイト活動家たちは、SNSのプラットフォームを乗っ取って自分たちの偏った見解を吹聴し、実世界でユダヤ人やイスラム教徒に対する暴力をたき付け、世界にさらなる苦痛をもたらそうと躍起になっている」

SNS上のヘイトスピーチを監視する「Center for Countering Digital Hate(CCDH)」(デジタルヘイト対策センター)の所長イムラン・アーメッドは、そう指摘する。

オンライン上の言説が恐怖や脅迫の風潮をつくり出し、それが現実世界での緊迫した対立や暴力に影響している可能性がある、と研究者らは警告した。

だが、因果関係を証明するのは難しいとも付け加えた。米国、欧州、カナダでは、当局がここ数週間、ユダヤ教徒やイスラム教徒、そして彼らの礼拝所に対する暴力行為を数多く記録している。

反ユダヤ的、反イスラム的な投稿の一部は、ヘイトスピーチを禁じるSNSのプラットフォームの規則に違反しているはずだが、何十万回もシェアされ、「いいね!」が押されている。

名誉毀損防止同盟や他の研究者らによれば、そうした投稿はXが最も目立っていた。9月30日から10月13日の間にXに投稿された16万2958件とフェイスブックに投稿された1万5476件を名誉毀損防止同盟が分析したところ、Xでの反ユダヤ主義的コンテンツの急増ぶりはフェイスブックをはるかに上回っていた。

この間、ハッシュタグ「#IsraeliNewNazism(イスラエルの新ナチズム)」が付いた投稿は200万件近くあり、さらに4万件の投稿には「#ZionistsAreEvil(シオニストは悪)」あるいは「#ZionistsAreNazis(シオニストはナチス)」のハッシュタグが付けられていた。

デジタル調査会社「Memetica(メメティカ)」によると、X上でも直近1カ月間に「#HitlerWasRight」のハッシュタグが付いた投稿も4万6千件以上あった。それ以前の数カ月間、このハッシュタグが表示されたのは月5千件未満だった。

他の二つのハッシュタグ「#DeathtotheJews(ユダヤ教徒に死を)」と「#DeathtoJews(ユダヤ教徒に死を)」は、9月は2千件だったが、10月は5万1千件以上も表示された。

メメティカはまた、ハッシュタグ「#LevelGaza(ガザを破壊しろ)」は10月7日の攻撃事件後の1週間、X上で3千件近くが表示されたが、9月には十数回以下だったことも調べた。また、「#MuslimPig(イスラム教徒のブタ)」や「#KillMuslims(イスラム教徒を殺せ)」というハッシュタグを使った投稿も数千件あった。

ティックトックやフェイスブックを含むほかのサイトでもヘイトスピーチは急増しているが、警告が出たコンテンツは削除されたと研究者たちは言っている。削除されずに残ったヘイトスピーチは、ティックトックでアドルフ・ヒトラーの隠喩として「オーストリアの画家」を使うなど、偽装したものが多い。

ティックトックの広報担当者は、「オーストリアの画家」の動画は運営方針に違反しており、ニューヨーク・タイムズが同社に注意喚起した後、このハッシュタグ付きの動画を削除したと言っている。ティックトックは10月7日から13日までに、ヘイトスピーチの指針に反しているとして、73万本の動画を削除したと付け加えた。

ニューヨーク・タイムズはXにもコメントを求めたが、応じてもらえなかった。フェイスブック、インスタグラム、WhatsApp(ワッツアップ。訳注=世界最大級の米国の無料メッセージアプリ)を所有するMeta(メタ)は、同社がヘイトスピーチに対する規制をどのように強化しているかについて記したブログへの投稿を参照するよう返答した。

Telegram(テレグラム)のようなメッセージアプリもまた、紛争においてヘイトスピーチをばらまくのに利用されてきた。

ハマスと結びつきがあるテレグラム・チャンネルが10月7日、パレスチナ旗を掲げて降下するパラグライダーの画像とともに、「私はパレスチナと共に立つ」という言葉をシェアした。この画像は、10月7日の攻撃で260人以上が殺害されたイスラエルのノバ音楽祭に、パラグライダーを使って侵入したハマスの武装集団を表している。

ハマスによる攻撃で焼かれたイスラエルのキブツ(集団農場)「キスフィム」にある家
ハマスによる2023年10月7日の攻撃で焼かれたイスラエルのキブツ(集団農場)「キスフィム」にある家=11月1日、Tamir Kalifa /©The New York Times

SNSプラットフォームに助言をするサイバーセキュリティー会社「ActiveFence(アクティブフェンス)」によると、この画像は24時間以内にX、インスタグラム、フェイスブック、ティックトックで何千回もシェアされた。フェイスブックやインスタグラムの一部の投稿には、「彼らはもっと殺すべきだった」とか、「ユダヤ人をもっと殺せ」といったコメントがついた。

アクティブフェンスによれば、10月9日までに「NatSoc Florida」というグループがこの画像を使ったTシャツを作成した。画像はすぐに4chanに広がり、後に白人至上主義者によって流用されてきた漫画のキャラクター「Pepe the Frog(カエルのペペ)」(訳注=米国の人気漫画のキャラクターで、緑色の顔と人間に似た体を持つ擬人化したカエル。一部で、人種差別主義者によるヘイトの象徴とみなされてきた)バージョンが登場した。

この画像は、イスラエルとガザ地区の紛争に直接関与していない組織も含め、反ユダヤ主義あるいは人種差別主義的な主張を掲げる組織を通じて急速に広まったとアクティブフェンスのCEO(最高経営責任者)、ノーム・シュワルツは言っている。

「この画像はすごく優秀だ」と彼は指摘し、「ひどいことを言うようだが、象徴のように目を引く」と話した。

テレグラムにコメントを要請したが、返答はなかった。

テレグラムのいくつかの極右系グループや4chanでは最近、一部のユーザーがこの戦争を、通常はイデオロギー的に正反対の立場にある人々に反ユダヤ感情を広める好機ととらえて議論している。

あるテレグラムのグループは、反ユダヤ主義を信奉する極右ユーザーに対し、左翼活動家を引き込むために、ガザでのパレスチナ人の犠牲者について同情的な投稿をするよう指示した。

「そこで彼らをつかまえたら、ユダヤ人を非難しろ」という書き込みもあった。

メメティカの最高執行責任者(COO)、アディ・コーエンは、反ユダヤ主義の投稿の増加は、極右および極左活動家の目的が収斂(しゅうれん)していることを反映している、と指摘する。

「ネットでユダヤ人殺害を小気味よく眺めながら祝う機会だ、と明言する者もいる。彼らは自分たちの投稿に観客を誘い込もうとしており、これは彼らにとって急成長の時なのだ」(抄訳)

(Sheera Frenkel and Steven Lee Myers)©2023 The New York Times

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