トランペットフィッシュが気候変動時代を生き抜く知恵　人間のハンターとの共通点とは

トランペットフィッシュ（訳注＝和名は「ラッパウオ」、あるいは「ヘラヤガラ」）は、世界各地のサンゴ礁や海草床でスズメダイやエビを好んで捕食する。しかし、体長20インチ（約50センチ）で、ひときわ目立つ突き出た鼻を持つこの魚は、獲物に忍び寄るには策略が必要だ。

学術誌「Current Biology（カレント・バイオロジー＝最新生物学）」に2023年8月7日に掲載された研究で、科学者たちは、トランペットフィッシュの戦略の一つである、より大型で敵対しない魚の背後に隠れることの有効性を実証した。この巧妙な偽装はほとんど人間並みであり、科学者たちははたして他の種にも同じような捕食戦略があるのだろうかと考えている。

ハタやウツボなどサンゴ礁に生息する多くの魚は、お互いの利益のために協力し合って獲物を捕るが、トランペットフィッシュが大型魚をこっそり尾行するのはもっぱら自分だけのためらしいのだ。

トランペットフィッシュの不意を突く捕食方法は、尾行だけではない。周囲の環境に合わせて体色を変化させたり、棒や海藻といった動きのない物体に変装したりすることができる。また、水柱に垂直にぶら下がり、獲物の上方から飛びついてパックリ開けた口に獲物をのみ込むこともできる。

しかしながら、獲物が射程に収まるまではブダイのような非捕食性の大型魚の陰に隠れるのがトランペットフィッシュのお得意の捕食戦略の一つであるようだ。

「過去数十年間にわたって、ガイドブックやダイビングのブログ、いくつかの研究論文がこの行動の観察を記録してきた」とサム・マチェットは言う。英ケンブリッジ大学の行動生物学者で、今回の研究論文の筆者の一人だ。

歴史をさかのぼると、人間は水鳥を捕まえる時に似たような策略を採ってきた。ハンター（狩猟者）はカモに近づく時、気づかれて怖がられないよう「ストーキングホース（忍び馬）」の背後に隠れるのだ。ストーキングホースには馬か牛を使う。今日でも多くのハンターはこの策略を採っているが、家畜の代わりにブラインドや段ボールの切り抜きを利用している。

マチェットは、トランペットフィッシュが捕食の際により大きな非捕食魚の背後に隠れるという報告を知り、そのやり方は人間が使うストーキングホース戦略と驚くほど似ているように思えた。そこで、マチェットと研究者仲間は昨年、トランペットフィッシュが本当にかつてのカモ猟師が使っていた策略と同じようなことをしているかどうか実証する作業に取り組み始めた。

研究者たちは仮説を検証するため、3Dプリンターでトランペットフィッシュとブダイの模型を作製し、キュラソー（訳注＝南米ベネズエラ沖のカリブ海に位置する島で、オランダ王国の構成国）の沖合のサンゴ礁にあるスズメダイのコロニー（群体地）近辺に設置したワイヤの滑車装置に取り付けた。そして、研究者たちはワイヤに付けた魚の模型を二つ同時に、次に一つずつ引っ張り、スズメダイの反応を撮影した。

トランペットフィッシュの模型をワイヤに沿って引っ張ると、そばにいたスズメダイがそれを調べようと近づいたが、明らかに脅威とみてすぐに逃げた。ところが、ブダイの模型を動かすと、スズメダイは興味を示して近づいたものの、その存在に対しては特に反応しなかった。同じように、ブダイの模型の脇に付けたトランペットフィッシュの模型がスズメダイを追い越した時には、スズメダイは逃げなかった。

「魚類生物学者たちはこの事実を以前から知ってはいたけれど、この捕食戦略がトランペットフィッシュにどれほど有益かを証明するために、実際に実験したのはこれが初めてだ」。米カリフォルニア科学アカデミーの魚類学芸員ルイス・ロシャは、そう言っている。

ロシャは、このストーキングホース戦略は極めて効果的だと指摘し、おそらく人間以外にも多くの動物がこの策略を利用しているだろうと付け加えた。「そうでなかったとしたら、むしろビックリだ」と彼は言っていた。

マチェットは、その見解に同意するとして、こう語った。「たぶんもっとたくさんの実例があるのだろうが、まだ確かめられていない」

マチェットはまた、世界各地のサンゴ礁が気候変動により劣化するにつれてストーキングホース戦略がより一般的になるだろうと示唆した。隠れるためのサンゴ礁が減っていくと、近隣にいるさらに大型の魚を隠れみのとして使うことがサンゴ礁に生息する捕食者の常態になるかもしれないからだ。（抄訳）

（Annie Roth）©2023 The New York Times

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