サンフランシスコが本拠の米プロバスケットボール 協会(NBA) のゴールデンステート・ウォリアーズによって、史上初のジャパニーズ・ヘリテージ・ナイトが2月に開催されました。
「ヘリテージ・ナイト(Heritage Night)って何?」と疑問を持たれる方もいらっしゃるかもしれませんね。ご存じの通り、アメリカは人種のサラダボウル。さまざまな国の出身や民族が混在し、多様なバックグラウンドを持つ人たちが共存しあって社会が形成されています。
ヘリテージ・ナイトは、学校やスポーツチーム、地域や文化団体などが主催することが多く、特定のコミュニティーやグループのアイデンティティーを育み、それぞれのコミュニティーを盛り上げていきましょう、そして、文化的遺産や多様性の理解を深め、尊重していきましょう、といった趣旨で開催されています。
バスケットの場合、試合前やハーフタイム、タイムアウトの時間に、その国や民族の文化や伝統を、音楽やダンス、アートなどさまざまなカタチで紹介します。
これらの試みは、特に野球やバスケットのチームによって全米で行われており、メジャーリーグのサンフランシスコ・ジャイアンツでも、日本のヘリテージ・ナイトが毎年開催されています。
例えば、ウォリアーズでは日本の他に、フィリピン、ユダヤ人、ラテン系住民、アジア系住民など、それぞれの団体と連携し、コミュニティーの連帯強化や草の根レベルの市民交流に貢献しています。
ウォリアーズが昨年9月にさいたまスーパーアリーナでのNBAプレシーズン戦のために訪日したことがきっかけで今回のイベントが実現しました。
対戦相手は、ワシントン・ウィザーズ。日程と対戦相手が発表されたときは、八村塁選手はまだウィザーズ所属で、その晩に華を添えるはずでしたが、タッチの差でロサンゼルス・レイカーズへの移籍が決定。残念ながら八村選手の登場はかないませんでした。
そこで、多くの日本人駐在員家族から、「八村選手が来ないから、ヘリテージ・ナイト中止になるの?」と質問を受けましたが、ヘリテージ・ナイトは、日本人選手が出場するから実施されるわけではないんです。
その晩は、会場の外で試合前から和太鼓の演奏でお客さまをお迎えし、会場に入る前からジャパンモードでいい感じで盛り上がっていきました。
ハーフタイムでは、世界的に活躍するギタリストのMIYAVI が、サンノゼよさこいダンスチーム"渦丸"と特別共演し、ダイナミックなパフォーマンスで会場は熱気に包まれました。
日本領事館の岸守一首席領事が、かつて国連代表部に勤務していた際、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)親善大使のMIYAVIと知り合い、それが縁となり今回の彼のパフォーマンスが実現したのです。
また、ウォリアーズのダンスチームに唯一の日本人として選ばれた宮野茉莉(まり)さんが躍動感あふれるダンスをチームメンバーたちと披露しイベントに華を添えました。
ウォリアーズでは、初開催のジャパニーズ・ヘリテージ・ナイトでしたので、在サンフランシスコ日本国総領事館が中心となり、日本文化コミュニティーセンター(JCCCNC)、北加日本商工会議所、私が所属するジャパンソサエティなど日本に関係する地域の団体がタッグを組み、ウォリアーズ側と調整しながら、演目などについて意見を出し合いました。
また、NBAのチケットは本当にお高いのですが、(普通の席でも家族4人で軽く食事や飲み物を買って、となると5、6万円くらいの出費はあっという間です)ウォリアーズの本拠の「チェイス・センター」の約1万8000の座席は毎回完売です。この日は特別に用意された約900席分の割引チケットが、それぞれの団体を通じてコミュニティーに販売されました。
アメリカほどではないとはいえ、日本にもさまざまな国の出身者が住んでいるので、東京ドームのプロ野球・巨人戦などでも、例えばオーストラリア・ナイトなどがあったら日本に住むオーストラリア人コミュニティーに喜ばれ、盛り上がるのではないか、と勝手に想像が膨らみました。
カリフォルニア州には、仕事や留学のために日本から来た人だけでなく、何代も続く日本人の血を引くアメリカ人が大勢いて、アメリカ社会で活躍しています。彼らのような日系アメリカ人や、駐在ファミリーなどが参加し、エンターテインメントも含めてゲームを楽しみました。
一緒に観戦したカナダ人の娘の友人(13歳)は、いつか日本に行きたいと切望しています。日本のアニメやラーメンが好きなので、そのあたりはなじみがあるものの、よさこいダンスや太鼓などは初体験。とても喜んでいました。
この日、ヘリテージ・ナイト枠のチケット購入者には特別に作られたウォリアーズTシャツが、また先着1万人の来場者には、メインスポンサーのRakutenにより2015年以降、4回の優勝を誇るウォリアーズのスター選手4人をかたどったフィギュアがプレゼントされました。日本では誰でも知っている楽天ですが、アメリカでのブランドの認知度を高めるために、スポーツマーケティングへの投資を拡大しています。
娘が通った小学校でもヘリテージ・ナイトやカルチャー・デーというのがあり、それぞれのバックグラウンドをもつ親と子供たちが協力し合い、体育館で各国のブースをつくって、その国を紹介するというイベントがありました。我々ジャパンチームでは、着物を展示し、ブースにきた人の名前をカタカナで書いてプレゼントしたり、折り紙で箱を作って日本のお菓子を配布したりするなどして日本の紹介をしました。
これは、小さい頃から多文化主義や多様性を促進する、優れた試みだと思います。アメリカは人種のサラダボウル、と先に書きましたが、シリコンバレーはアメリカでもさらに特殊なエリアで、例えば、その当時の娘のクラスで、「自分たちの親はどこからきたか、どんな背景があるか」というプロジェクトをしていたとき、「両親ともアメリカ人」だった生徒はたったの2人だけでした。つまり、私のように片方が、もしくは、両親ともに他の国から移民している家族で構成されている生徒がほとんど。他のエリアよりも必然的にその国や民族の独自の伝統、慣習、歴史などに触れる機会は多いように思います。
では、放っておいても満席になり割引チケットを販売する必要のないアメリカを代表する超人気スポーツチームが、あえてヘリテージ・ナイトをする意義や狙いは何でしょうか?
さまざまな背景を持つ地元ファンとの関わりを深め、敬意と感謝を表すとともに、企業として(チームとして)社会的責任を意識した取り組みの一環でもあります。ウォリアーズは例えば、ホームレス状態の人々が過ごす施設を選手が訪問して食事などを提供する活動を随時行っています。用意される食事も、大手チェーン店でなく、地元の家族経営やマイノリティーがオーナーのレストランに発注することで、ローカルビジネスを支援しています。
昨年は、アジア系アメリカ人に対するヘイトクライム(憎悪犯罪)や人種差別が報じられることが増え、今年になってアジア系による乱射事件が立て続けに発生しました。音楽やファッション、スポーツ、食も含めた文化は、人々が多様性を受け入れやすくし、国際交流を実感しやすい分野であるように思います。その国に対する親しみを育む草の根活動というのはじわじわとあとになって効いてくることが多いのです。
翌日には、在サンフランシスコ日本国総領事館の総領事公邸で、ジャパニーズ・ヘリテージ・ナイト初開催記念レセプションが行われ、MIYAVI がドラマーのよよかと特別パフォーマンスを披露しました。
UNHCR親善大使もつとめるMIYAVIは、その晩のスピーチでこう話していました。「Music, Fashion, Sports, Culture brings us together beyond everything. ( 音楽、ファッション、スポーツ、カルチャーは、すべてを越えて私たちを結びつけてくれると思う)」