1. HOME
  2. 特集
  3. たかが髪、されど髪
  4. 市場拡大で高騰するウィッグ用の人毛 「黒いダイヤ」と珍重、信者の髪で財成す寺も

市場拡大で高騰するウィッグ用の人毛 「黒いダイヤ」と珍重、信者の髪で財成す寺も

LifeStyle 更新日: 公開日:
2010年5月、中国・山東省の市場で人毛を陳列する売り手。地元の農家が人毛を集め、かつら工場に売るという
2010年5月、中国・山東省の市場で人毛を陳列する売り手。地元の農家が人毛を集め、かつら工場に売るという=ロイター

ウィッグ(かつら)の材料には、人毛、人工毛、両方のミックスが使われている。

日本毛髪工業協同組合(東京)によれば、既製品の場合は9割以上が人工毛、オーダー品の場合はミックス、そして人工毛100%のものが多いという。

人工毛は、人毛と遜色ない「自然さ」を備えつつあり、強度もあるのがメリットだが、事務局長の日向寺正明さんは「特に高齢の人は人毛が自然で、一番良いと考える傾向が強い」と説明する。

日向寺さんによれば、人毛をウィッグに使うには多くの場合、加工しやすくするため、一度表面を覆うキューティクルをはがす。その後、着用者の髪の色に染め直す工程が必要になる。

つまり、最初からある程度のダメージを毛髪に与えることを考慮しなければならない。このため、理想的な人毛とは、パーマや毛染めを施していないものになるという。

国内メーカーが使っているのは、主に中国の人毛という。「昔は中国の奥地の女性が、結婚する際の費用を捻出するため髪を伸ばして、売っていたと聞きます」と日向寺さん。

ただ、急速な経済的発展の結果、中国でもパーマや毛染めが一般的になり、「理想的な人毛」の入手は困難になった。仕入れ先もインドや中南米など多様になった。

一方でウィッグ・付け毛市場は世界的に拡大してきた。それで生じるのは、価格の高騰だ。

あるメーカーの担当者は「10年前と比べると1.5~2倍近い感覚。加工後の約25センチメートルの人毛1キログラムが7万5000~8万円くらい」。今や人毛は業界で「黒いダイヤ」と呼ばれることもあるという。

ロンドン大学ゴールドスミス校のエマ・ターロ教授は、中国やインド、ミャンマーなど各地で毛髪をたどる旅をし、著書「Entanglement The Secret Lives of Hair」を発表。インドでは宗教的儀式として寺院を訪れる際に毛髪をそる人たちがいることを紹介し、そうした髪を売っている寺院で、「私たちはバチカンに次いで、世界で2番目に裕福な宗教施設だ」と聞いたエピソードを記している。

ロンドン大学ゴールドスミス校のエマ・ターロ教授の著書「Entanglement The Secret Lives of Hair」
ロンドン大学ゴールドスミス校のエマ・ターロ教授の著書「Entanglement The Secret Lives of Hair」

人毛はいまではネットで売買されてもいるが、世界的に見れば貧しい人々が売ったり集めたりした髪が先進国で高額で取引されているのが基本的構図だ。

人工毛にそうしたプロセスはないが、人工繊維で作られるのが主流で、制作工程や廃棄の際の環境への負荷が課題として指摘されている。