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海洋ゴミの現状は?深海の採鉱計画も 沖縄の海を守る研究 若い世代に情熱伝える

美ら島の国境なき科学者たち
海底で熱水が白い煙のように噴き出している様子
キャプション:深海にある煙突のような熱水噴出孔は、地殻の中と繋がっているため、高温でミネラルに富み、周囲の冷たい海水とは非常に対照的な環境となっている。(提供:OIST)

まぶしい砂浜と青く澄みわたる海、そして美しい珊瑚礁が広がる沖縄。ここには、暖かくのんびりとした島の空気を満喫しようと、年間を通じて全国から多くの観光客が訪れ、ダイビングやシュノーケリング、日光浴などを楽しんでいます。

しかし、このように楽園と思われている沖縄の環境にも、実は悲しい現実があります。黒潮の流れの途中に位置する沖縄には、しばしば海流に乗って大量のゴミが海岸に打ち上げられます。さらに、沖縄からほど近い深海の採鉱計画も進行し、環境破壊が進む懸念があるのです。 

沖縄科学技術大学院大学(OIST)では、海洋生態物理学ユニットが沿岸海域の汚染と深海採鉱の影響について研究を行っています。今年の8月上旬、その研究室メンバーが沖縄県北部にある伊平屋島を訪れ、地元の小学生や住民に研究内容を発表しました。

研究室の一人で英国出身のオティス・ブラナーさんは、OISTの博士課程学生として最後の年を迎えています。沖縄に移り住んで5年が経過したというブラナーさんが語る言葉からは、沖縄周辺の海洋保全に対する熱い思いが強く感じられます。その中でも特に関心を寄せているのは、深海の熱水噴出孔です。

伊平屋島を訪問した直後の彼をOISTでインタビューしました。

多様な生物を宿す深海の煙突 「熱水噴出孔」

「沖縄には熱水噴出孔が数十から100個以上あると言われていて、そのどれもが驚くほど多様な生命を宿しています」(ブラナーさん)

熱水噴出孔は、深海にある煙突のような場所で、地殻の中と繋がっているため、高温でミネラルに富み、周囲の冷たい海水とは大きな違いがあります。

ブラナーさんによると、この噴出孔には毛ガニのいる白いものや、ムール貝のいる黒いものもあります。また、ウロコムシなどの無脊椎動物や魚やタコが生息する場所もあり、海面下2,000メートルという、太陽の光が届かないほどの深さで生息しているこれらの生き物は、化学物質を餌に変えてくれる共生細菌に依存しています。特定の噴出孔でしか見られない生き物も数多くいます。

深海に関心を持つブラナーさんは、博士課程に進学して以来、地域の子どもたちなどに対するさまざまな教育活動を行ってきています。最近では、深海の重要性とその保全の必要性を説く「深海の宝物(Treasures of the Deep)」という絵本を翻訳して出版するために民間企業からの資金援助を受け、50部を出版して沖縄県内の各地に配布しています。

メガネ、ひげの外国人男性が、絵本を手に微笑んでいる
資金を得て翻訳出版した本を手に微笑むブラナーさん。(提供:OIST)

今回の伊平屋島への訪問は、その活動の一環として行われたものです。この絵本を小学校や公民館に寄贈したいと考えていたブラナーさんは、同じ研究室の仲間であるポスドク研究員のアンジェラ・アレスさん、博士課程2年生の石川昂汰さんらと協力して研究の発表や説明会、そしてビーチクリーンを同時に行い、次世代の海洋保護活動家を育成する機会にしようと考えました。

島の小学校で海の汚染について授業 海岸の掃除とオリジナル絵本も

伊平屋島訪問の初日は、地元の小学校を訪れて海洋学と汚染についての授業を行いました。

初めに、アレスさんが陸と海のつながりについて説明し、地面に残されたゴミが容易に海に流れ込んでしまうことを伝えました。続いて、石川さんが沿岸汚染の影響と、ゴミがどのようにして海洋生物の食物連鎖に入り込むかということについて、チンアナゴの行動に関する自身の研究と結び付けて説明をしました。

博士課程学生の石川昂汰さんは、沿岸汚染の影響と、ゴミが海洋生物の食物連鎖にどのように入り込むかについて、チンアナゴの行動に関する自身の研究に結び付けて説明した。動画提供:Fei Yang Qinさん、Gyorgy Kissさん、石川昂汰さん。

その後、ブラナーさんが世界の潮の流れと、沖縄県から出たゴミがどのような場所に辿り着く可能性があるかを説明しました。

そして授業の最後に、伊平屋島の小学校に絵本が寄贈されました。

赤いシャツを着た男性が、お辞儀をしながら小学生に絵本を手渡している様子
伊平屋島の小学校に絵本を寄贈するブラナーさんと、代表で本を受け取る小学生。(提供:OIST)

ブラナーさんは、今回の授業の目的について、「小学生の皆さんに、ありとあらゆるものすべてがつながっていて、陸上の私たち人間の行いが海洋に影響を与えるということを伝えたかったのです」と言います。

砂浜で数人の人々が並んで歩きながらゴミ拾いをしている
伊平屋村野甫島の砂浜でゴミ拾いを行う研究者らと小学生。(提供:OIST)

授業を受けたあと、児童たちは研究者たちと共に伊平屋島と橋でつながっている野甫島に出向いてビーチクリーンを行いました。

砂浜に並んで記念写真を撮る小学生と大人
ビーチクリーンを終えたブラナーさん(左から2番目)と小学生たち。集まったゴミの中には他県のゴミ袋も混じっていた。(提供:OIST)

翌日は、ブラナーさんたちは伊平屋島の公民館で深海熱水噴出孔の重要性について、高校生や大人向けに発表を行い、沖縄周辺の熱水噴出孔の存続を脅かす採鉱について参加者と議論を行いました。

学校の講堂でパネルを前に記念写真を撮る高校生たち
伊平屋村を訪問したOISTの研究者らと地元の高校生たち(左から)アンジェラ・アレスさん、オティス・ブラナーさん、絵本を手にする伊平屋村の高校生2名、石川昂汰さん。(提供:OIST)

大規模な深海採鉱に懸念 海の固有種が消滅の危機

ブラナーさんは、今後数年のうちに国の独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が沖縄で始める予定となっている大規模な深海採鉱に対して懸念を抱いています。

大規模な深海採鉱は行われるのはこれが世界で初めだといいます。深海の煙突には、多様な生物の他にも、地殻に含まれる金、銀、銅などのレアメタルが存在しています。これらのレアメタルの採掘を行うときに、深海の煙突(熱帯噴出孔)が壊され、そこに生息する固有の生物たちが死滅し、沖縄の青く澄んだ海や健全なサンゴ礁に悪影響を及ぼしてしまう可能性もあるからです。

ブラナーさんは、次のように説明しています。

「伊平屋村の周辺には、そこにしか生息していないカタツムリなどの生き物の種が13種はあります。熱水噴出孔がなくなってしまうと、それらの種も失われてしまいます。これらの種は、沖縄の一部なのです。沖縄北部に棲むヤンバルクイナは誰もが知っています。私は、深海の噴出孔とそこに生息する特別な生き物についても皆さんに知ってもらい、沖縄の固有種として誇りに思ってもらいたいのです」

ブラナーさんの気持ちが通じていたのか、イベントに参加した高校生は、OISTの職員にこう語っていたそうです。

「私は今、鹿児島県の高校に通っていますが、夏休みに故郷の伊平屋島に帰ってきてこのイベントに参加しました。伊平屋島の近くの海にある熱水噴出孔や深海生物について学ぶ機会があるとは思ってもいませんでしたが、とても有意義だったと思います。そして何より、OISTの研究者の方々に直接質問し、議論する機会を持てたことがよかったです。伊平屋島の子どもたちはこのような機会がほとんどないんです」

講堂で絵本を手渡す様子
伊平屋村に絵本を数冊寄贈するブラナーさん。この絵本の寄贈を希望する沖縄県内の学校、図書館、公民館からの申し込みを受け付けている。(提供:OIST)

『深海の宝物』の寄贈を希望する沖縄県内の学校、図書館、公民館などは、こちらからお申し込みいただけます。
英語版: https://groups.oist.jp/umi/treasures-deep
日本語版: https://groups.oist.jp/ja/umi/treasures-deep

執筆:ルシー・ディッキー(OISTメディア連携セクション サイエンスライター

編集:大久保知美、OIST広報部メディア連携セクションマネジャー