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空調のない刑務所、熱波で過去に死者も それでも改善しない理由 アメリカ・テキサス

ニューヨークタイムズ 世界の話題
暑さの中で横になる収容者
暑さの中で横になる収容者=Verónica G. Cárdenas/©The New York Times

熱さで皮膚がかぶれるのはよくあることだ。金属製の家具は、触ると熱い。扇風機やぬるま湯同然の水、濡れタオルで和らげはしても、異常な高熱や脱水症を起こす危険は常にある。まれにだが死者も出る。

米テキサス州のプリズン(訳注=prison〈プリズン〉と後出のjail〈ジェイル〉は一般的に刑務所を指すが、ジェイルには拘置所として使用される施設がある)では、こんな息の詰まりそうな状況がほぼ夏の間中続いている。州内の異常な暑さはひどくなるばかりなのに、大半のところには収容者用の空調がない。

メキシコとの国境から約30マイル(約48キロ)のエディンバーグにある州立ロペス・ジェイル。大部屋の収容者は汗だくになり、まさにやけっぱちの様子だった。所内は軽警備だが、この夏の記録的な暑さが絶望的な悲惨さをもたらしていた。

Lopez State Jail, a facility that lacks air conditioning, in Edinburg, Texas, Aug. 19, 2022. Lopez State Jail has experienced 47 days of 100 degrees or above this year. Texas is having its second-hottest summer on record, yet most state prisons and jails have no air conditioning. (Verónica G. Cárdenas/The New York Times)
施設が立ち並ぶ州立ロペス・ジェイル=Verónica G. Cárdenas/ⒸThe New York Times

「まるで灼熱(しゃくねつ)地獄の中を歩き回っているみたい」と同州ヒューストン出身のゲイリー・クロフォード(44)=暴行罪で有罪=は例える。この日はカ氏91度(セ氏33度弱)に達し、大部屋は数十人もの人いきれでむせ返っていた。

最近のある平日、収容者は首から黄色い「冷却タオル」をたらし、腕や顔に噴き出した大粒の汗を拭きとっていた。その一人、同州サンアントニオ出身のデービッド・ゲラ(42)は、「みんな、イライラしっ放し」と吐き捨てた。逮捕を免れようとした罪で、1年近くここに入っているという。

A “cooling towel" wrapped around the neck of an inmate perspiring inside Lopez State Jail, a facility that lacks air conditioning, in Edinburg, Texas, Aug. 19, 2022. Texas is having its second-hottest summer on record, yet most state prisons and jails have no air conditioning. (Verónica G. Cárdenas/The New York Times)
「冷却タオル」を首にまいても汗だくの収容者=Verónica G. Cárdenas/ⒸThe New York Times

全米には、プリズンに空調が整っていない州が少なくとも13あり、テキサス州はその一つだ。長引く熱波がこの州の夏の大きな問題となり、かつてないほどひんぱんに取り上げられるようになる中で、収容者を耐えがたい暑さにさらしたままの州当局は高額な訴訟や酷評に直面している。

この夏のテキサス州の最高気温の平均はカ氏97.4度(セ氏36.3度強)。史上2番目の高さになる。ロペス・ジェイルの周辺地域は、カ氏100度(セ氏38度弱)以上の日が計48回もあった(州の気象専門家調べ)。

州刑事司法局によると、州内のプリズンでは2000年以降、少なくとも17件の暑さによる死亡事例が起きている。うち10件は、熱波に見舞われた2011年に集中。最後の事例は、翌2012年に記録されている。

関係当局によると、2022年は収容者12人と職員21人が暑さに関連した症状を訴え出た。しかし、収容者の家族や支援団体は、実数はこんなものではないと信じている。

州のプリズン制度は、裁判所に命じられていくつかの改革を実施している。しかし、関係当局によると、新しい施設でも空調設備を入れるのに必要な追加の予算をもらえないでいる。保守派が強い州議会では、収容者のための空調に税金を注ぎ込もうとする政治的な動きは鈍い。

ただし、郡立の施設に対しては、州当局は一定の範囲で空調の利いた場所を提供するよう求めている。公判前の収容者がいることがよくあるからだ。

施設内の処遇基準などを審理する州の機関は、すべての郡立施設については室内温度をカ氏65~85度(セ氏約18~29度)に保つよう定めている。しかし、この基準は州立プリズンには適用されない。

その結果、州内すべてのプリズンの3分の1にしか完全な空調は施されていない。

そんな中で、州立ロペス・ジェイルを訪れる許可が2022年8月、ニューヨーク・タイムズ紙に出た。州議会の視察を同行取材できることになり、普段は部外者に門戸を閉ざしている施設の中を見る珍しい機会が生まれた。

「もっとうまくやれる」

この施設を含む地域を選挙区とする民主党の州議会下院議員テリー・カナレスは、こう強調する。次の議会会期を前に視察するのは、空調に関する新たな立法措置の実現を目指しているからだ。

同じ趣旨の法案をカナレスは2021年に提案。下院は通ったが、上院ではねられた。上下両院ともに共和党が支配している。

州内98カ所の矯正施設(収容者約12万人)を管轄する州刑事司法局には、実は2020年代の終わりまでに11億ドルをかけてプリズンを完全に空調化する計画がある。ただし、まず議会で事業費を確保することが前提となる。

州立ロペス・ジェイルでは、廊下は冷房が利いている。しかし、収容者のいる大部屋には及ばない。だから、よく冷えた廊下から入ると、ものすごい暑さと湿気に襲われる。ほとんどの人にとって、強烈な日差しのもとで駐車していた車に乗り込んだときぐらいしか経験したことがないたぐいのものだ。

視察の間中、収容者はずっと汗だくだった。サンアントニオ出身のイスマエル・カリージョ・ゴメス(32)=凶器を携えての加重暴行罪で有罪=は、自分のベッドの近くで赤くなった両手を広げてみせた。暑すぎるとこうなるという。

Ismael Carrillo Gomez said his hands turned red as a result of the extreme heat inside Lopez State Jail, a facility that lacks air conditioning, in Edinburg, Texas, Aug. 19, 2022. Texas is having its second-hottest summer on record, yet most state prisons and jails have no air conditioning. (Verónica G. Cárdenas/The New York Times)
異常な暑さで両手が赤くなったと訴えるイスマエル・カリージョ・ゴメス=Verónica G. Cárdenas/ⒸThe New York Times

下着のシャツを着ておらず、本来なら規律違反になる。ただし、「強制力のない規律」と当局者は見なしている(「もしシャツを脱がねばならなくなっても、懲罰記録は付けない」と州刑事司法局の幹部ジェイソン・クラークは公言してはばからない)。

暑さ対策の柱の一つとして、送風機が床と天井に備え付けられている。しかし、ベッドに横たわったり、机と長いすがある共有部分に集まったりしている収容者には、苦情の対象でしかない。熱風を再生産しているにすぎないからだ。

大部屋では、昼間は明かりを消している。明らかに温度を下げるためだ。

Inmates cooling off near industrial fans inside Lopez State Jail, a facility that lacks air conditioning, in Edinburg, Texas, Aug. 19, 2022. Texas is having its second-hottest summer on record, yet most state prisons and jails have no air conditioning. (Verónica G. Cárdenas/The New York Times)
送風機の近くで涼もうとする収容者=Verónica G. Cárdenas/ⒸThe New York Times(写真はいずれも2022年8月19日、米テキサス州エディンバーグの州立ロペス・ジェイルで撮影)

当局によると、所内には空調の利いた休憩室があり、収容者も利用を希望することができる。そこでは、氷と水の使用も可能だ。

しかし、どれほどの頻度で利用が許されているかは、はっきりしない。収容者の支援団体Texas Prisons Community Advocatesによると、収容者からは「希望を出しても、許可されない」との報告が届いている。

この蒸し暑さによって絶えず精神状態や感情がむしばまれ、それが表情にも出る、と収容者たちは訴える。だから、不機嫌で怒りやすくなり、けんかっ早くなる。

ぐっすり眠れることはまれだ。少しでも温度が低い床で寝たいという人もいるぐらいだ。

「暑くてイライラしていたからけんかしたなんて、だれもいわないさ」と先の収容者ゲラは内部の目で語る。「実際にけんかをするときは、必ず別の理由がちゃんとある」と指摘してからこういうのだった。

「でも、暑さがいつも引き金になるんだ」(抄訳)

(David Montgomery)Ⓒ2022 The New York Times

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