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アンダーグラウンドで広がる韓国の「Kタトゥー」 禁止されても若者は圧倒的支持

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Kim Do-yoon, a tattoo artist who founded a 650-member tattoo labor union that advocates for the rights of artists, at his studio in Seoul, May 3, 2022. Tattoo artists, long treated as criminals for their work, say that it is time to end the stigma against their business, which has thrived underground. (Chang W. Lee/The New York Times)
ソウルの仕事場でタトゥーを施術するキム・ドヨン(左)=2022年5月3日、Chang W. Lee/©The New York Times

キム・ドヨンの仕事場は静かで、大きな窓があり、植物がたくさん飾られている。彼はそこで、世界各地から韓国の彼のもとにやってくるクライアントにタトゥーを施す。触手を広げる透き通ったタコ、前腕部を覆う繊細な野花、永遠であってほしいと願う愛するペットの肖像……。

ドイの名で知られる彼は、俳優ブラッド・ピットやハン・イェスルといった有名人のお気に入り(の彫り師)だが、目立たないように活動している。

彼の仕事場には看板がなく、ソウル北中部の目立たない建物にある。14世紀にさかのぼる宮殿の近くだ。顧客を慎重により分け、仕事中はブラインドをおろし、ほぼ2年ごとに場所を変えている。

韓国で彼のアートは犯罪である。1992年の判決以来、医師免許を持たない者がタトゥーを施すと最高4万ドル相当の罰金、または禁錮刑を科せられる可能性がある。装飾としてのタトゥーの反対論者は長年にわたる組織犯罪との関係や、不十分な衛生状態、そして適切なスキルを欠くとされるタトゥーアーティスト(彫り師)たちが顧客に危害を負わせる可能性への懸念を指摘してきた。

Artwork that San Lee tattooed onto one of her clients, in Seoul, May 4, 2022. Tattoo artists, long treated as criminals for their work, say that it is time to end the stigma against their business, which has thrived underground. (Chang W. Lee/The New York Times)
タトゥーアーティスト、サンリーの作品=2022年5月4日、ソウル、Chang W. Lee/©The New York Times

このタトゥー禁止を覆す試みは繰り返されてきたが、うまくいかなかった。ソウルの憲法裁判所は今年3月、タトゥー業の違法性を5対4で再確認した。韓国のタトゥーアーティストと顧客たちは、憲法裁判所の裁定は現実にそぐわないと思っている。彼らはその理由として、社会規範の劇的変化による地下タトゥー業の繁盛とそれに対する寛容性や受容性の高まり、「Kタトゥー」として知られるようになった国際的な需要の拡大を挙げている。

タトゥーは、いくつかのイスラム諸国を例外とすれば、世界の大半の国々で受け入れられるようになった。韓国はタトゥーアーティストが犯罪者扱いされる数少ない国の一つだ。ここでは、何万人もの彫り師たちが常に司法当局に見つかる脅威にさらされながら、秘密裏に仕事をしている。41歳のキム・ドヨンは禁止されているなか、内々に仕事をしていることについて、「(そうした状態が)あまりにも長く続いているし、ほとんど滑稽でしかない」と語った。

ソウルのタトゥーアーティスト見習いのリム・ソヒョン(38)は、医師免許保持の要件は意味をなさないと言っている。

彼女は「タトゥーアーティストになるために医学部に行こうという人なんていない」と言うのだ。

タトゥーアーティストたちによると、韓国のタトゥー業界は過去10年間で爆発的に伸びた。

それはソウルでは、はっきりとはわからないよう隠れている。タトゥーアーティストたちは街中の建物の上層階にある事務所スペースをよく借りている。特にアートが集中している地区のホンデ(弘大)がそうだ。インスタグラムでの検索方法を知っていれば、タトゥーアーティストを見つけるのは簡単だ。

「韓国にはすばらしいタトゥーアーティストがたくさんいる。ソーシャルメディアで見つけて簡単にアクセスできる」とリム・ソヒョンは言う。

ソーシャルメディアはまた、Kタトゥーのようなトレンドを広めている。Kタトゥーとは、イラストから着想を得た細部にこだわるタトゥーのことで、韓国のタトゥーアーティストの代名詞になっている。キム・ドヨンによると、Kタトゥーは新たな顧客の急増をもたらした。

Kポップグループ「BTS」のジョングクやラッパーのパク・ジェボム、歌手のキム・ヒョナといった韓国のトップスターたちは、可能な限りタトゥーを見せて引き立たせ、タトゥーに夢中な若者文化の醸成に役立っているのだ。

パク・ジェボムの初めてのタトゥーは10年前に入れたもので、彼のブレイクダンス仲間へのオマージュ(敬意のしるし)だった。以来、数え切れないほどのタトゥーを入れたと彼は言っている。

「最初、タトゥーは多くの人に衝撃を与えた」と35歳の彼は言う。「でも、時とともにキャリアを積み重ね、私がタトゥーを入れていても人気を得るようになった。みんながクールだと思い始めたのだ」

ただし、彼が言うには、彼のタトゥーをマイナスとみなすブランドも一部にあり、他のスターたちとともに、韓国のテレビに出演する時はタトゥーを隠す必要がある。

San Lee, a tattoo artist, in her office at her studio in Seoul, May 4, 2022. Tattoo artists, long treated as criminals for their work, say that it is time to end the stigma against their business, which has thrived underground. (Chang W. Lee/The New York Times)
仕事場がソウルにあるサンリー=2022年5月4日、Chang W. Lee/©The New York Times

韓国の成人1千人超を対象にしたギャラップ社による昨年6月の世論調査だと、半数以上がタトゥーの合法化を支持したことがわかった。この調査結果は、明白な世代間ギャップを反映していた。20代の回答者は81%が支持で、40代の支持は60%だった。

研究者たちによると、記録に残る最古のタトゥーは今日ではエッツィの愛称で呼ばれる5300年前の欧州人のものだ。研究者たちは、タトゥーは古代の文化では装飾や防護、処罰などさまざまな目的で施されたことを突き止めた。

韓国でムンシンと呼ばれるタトゥーは、長い間、否定的なことに関連していた。918年から1392年まで統治した高麗王朝時代、人は犯した罪や奴隷になった印として顔や腕にタトゥーを無理やり入れられた。死刑への前段階であるこの処罰は、タトゥーを入れられた人を見捨てられた人間として社会の隅に追いやった。この処罰は1740年に廃止された。

20世紀には、タトゥーは日本の慣習に触発されたギャングたちが取り入れた。入れ墨の意味が更新され、犯罪行為の身体上の表象となったのだ。

韓国の現代タトゥーアーティストの何人かは、ギャングたちが求める龍や日本的なイメージなどの威嚇的なモノを彫るのを意識的にやめたと言っている。

San Lee, a tattoo artist, at her studio in Seoul, May 4, 2022. Tattoo artists, long treated as criminals for their work, say that it is time to end the stigma against their business, which has thrived underground. (Chang W. Lee/The New York Times)
サンリーのソウルの仕事場=2022年5月4日、Chang W. Lee/©The New York Times

姓は明かさなかったサンリーは、ソウルの流行の発信街として有名なアックジョン・ロデオ近くで仕事をしている。彼女はタトゥーが特定のタイプの人たちのモノでなく、おしゃれなモノだということを示したかったと言っていた。

キム・ドヨンによると、顧客の求めも変化してきた。

「私がこの仕事を始めたころ、お客は勇敢に見えるタトゥーを欲したが、今は美しいタトゥーを望んでいる」と彼は言う。

キム・ドヨンはタトゥーアーティストの権利を擁護するタトゥー労働組合の創設者だ。メンバーは650人。彼はタトゥーの合法化が顧客とアーティストの双方にとって、より安全でより衛生的な環境をつくりだすだろうと言っている。

タトゥーアーティストの数はここ10年間で倍増し、顧客をめぐる競争が激化している。ソウルから北に1時間の都市に拠点を置くイ・アプロは、これまでの仕事の大半を世界各地で行ってきた。韓国の民芸に触発された彼の大胆な作品は、海外の方がもっと要請があった。

「世界は変化している」と40歳のイ・アプロは言う。「じゃあ、私たちはなぜ遅れているのか? 前に進もう」

Apro Lee, a tattoo artist, with a client at his studio in a city an hour north of Seoul, May 2, 2022. Tattoo artists, long treated as criminals for their work, say that it is time to end the stigma against their business, which has thrived underground. (Chang W. Lee/The New York Times)
タトゥーアーティストのイ・アプロ。仕事場はソウルから北へ1時間の都市にある=2022年5月2日、Chang W. Lee/©The New York Times

イ・ドンギュ(37)のような人たちは、そろって韓国を去った。彼は「Q」の名で、今は米ロサンゼルスを拠点にしている。

「私たちは間違っていない。タトゥーは間違いじゃあないけど、違法であり、そのことでひどい気分になる」。イ・ドンギュはそう言い、「私は自分の仕事が好きだし、自分を誇りに思っている。でも心を開けない。ここは自由を感じる。すごく気分よく仕事ができる。だけど同時に、ここは自分の国ではない」と続けた。

ミスター・Kのコ・サンヒョクは、米国で最も人気があるタトゥーアーティストの一人で、超緻密(ちみつ)な作品で知られる。彼はソウルを去らなかったら、ここまでにはならなかったはずだと率直に語った。

「米国では違う。彼らはアーティストを尊敬している」と41歳のコ・サンヒョクは言っていた。

韓国の国会議員リュウ・ホジョンは昨夏、タトゥーを合法化する法案の提出に一役買った。彼女はタトゥー禁止を支持した憲法裁判所の僅差の判決は「世界が愛する芸術産業」に変化をもたらすシグナルを示していると指摘した。

リュウ・ホジョンは、タトゥーは韓国経済にとって利益だとする見解を電子メールで寄せた。彼女は合法化に向けて世論の潮流がさらにシフトするまで働きかけを続けると言っている。

顧客たちも待っている。

トンドゥチョン(東豆川市=韓国京畿道北部の都市)で学校教師をしている38歳のキム・エミンは、自分の価値観を尊重する意図を込めたと彼自身が言うタトゥーを入れている。片方の腕は、シェークスピアのさまざまな名作で覆われている。背中には妻に触発されたビーナスのタトゥーが入りつつある。彼は自分のタトゥーをめったに人には見せない。他人が芸術とみなさないかもしれないことに気づいているからだ。

人びとが安全に、あるいは自由に、タトゥーを見せて、タトゥーを通してそれぞれの気持ちを表現できる日が来るのが待ち遠しい」。そうキム・エミンは言い、「希望は持っている」と付け加えた。(抄訳)

(Christine Chung)©2022 The New York Times

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