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【聞く・あいはらひろゆき】「安いですよ」と言われ、でもベトナムで出したかった絵本

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あいはらひろゆきさん
あいはらひろゆきさんと、『トモダチ』日本語版=2021年9月、鈴木暁子撮影

――ベトナムのイラストレーターが絵を担当した絵本『トモダチ』を日本とベトナムで発行しました。美しい絵本ですね。つくることになったきっかけは。

自分のつくった絵本で、飾ることができるのはこれぐらいです。表紙に残したベトナム語がまたかっこいい。

『くまのがっこう』をベトナムで展開したいねって、ベトナムにくわしい方と話をしていて、ベトナムの出版社も紹介いただけることになったのが始まりでした。前に中国で出版したとき、「中国でダイレクトに本を出しませんか」といわれ、ああ(日本の出版社を介さない)選択肢があるんだと気づいた。日本だけじゃなく海外の画家と直接組んでみたいと話していたときでした。2019年の春ごろです。

絵本『トモダチ』
絵本『トモダチ』(作・あいはらひろゆき/絵・Dom Dom、サニーサイドブックス)。写真はキムドン出版社発行のベトナム語版

ベトナムの出版社を訪ねたら、先方は「よくまあそんなことでベトナムまで来ましたね」みたいな感じでしたけどね。「ベトナムの絵本は安いし、たいした部数も出ない。あなたの出張費がまかなえないぐらいの印税にしかなりませんよ、それでもいいんですか」って。

正直、お金は日本で稼げばいいのだけど、日本で100冊以上の絵本を出してきて、何かやっぱり新しいものに挑戦したいというのもある。ベトナムが好きだったこともありますが、何より紹介いただいた画家さんがすごい絵を描いているっていうのがあったので。こういう人と組んで、今までと違う刺激の中でつくりたいんだって話をして。

じゃあいっぺん書いてみてくださいと、現地の出版社キムドンの副社長に言っていただいた。社長もとても良いかたで、フレンドリーに、いきなり来た日本の作家を受け入れてくれました。

僕のイメージを書いて読んでもらったら、「ベトナムで自然に受け入れられる、ベトナムらしい話を書いてくれたので、すごく驚いている」と。『くまのがっこう』のような話を書くと思っていたようです。

僕自身は『くまのがっこう』をベトナムでやっても面白くもなんともない。自然の中を旅するイメージなんですね。何度かしか行っていませんが、ベトナムの町は色合いが非常に美しくて、季節の変化をすごく感じた。日本と違うベトナムの自然の美しさ、友情の美しさを書こうと思った。

――絵本ではくまと黒猫が、ベトナムの自然の中を旅します。

くまのガウは日本人っぽいおっとりした男の子、黒猫のムンはちょっと気の強い、元気なベトナムの女の子のようなイメージ。

絵を描いてくれたドムドムさんという画家はものすごい田舎に住んでいるんです。コロナだったからオンラインで気軽に会議ができたんですが、うしろでやたらと鶏が鳴くんですよ。うるさいな。すいませんって(笑)。東京でも昔は朝、鶏が鳴いた記憶がありますけど、すごくなつかしい。

牧歌的な打ち合わせができた、そういう本でもあるので。制作過程も非常に新鮮だし。日本での絵本づくりでは感じられないような新しいものづくりの楽しさをいろいろ感じましたね。

正直ここまでいい絵を描いてくれると思っていなかったから、ちょっと感動しました。すごく感じたのは風なんです。最初の場面も、風が吹いて葉っぱが飛んでるようなシーンで。あとは色合いですね。もう明らかにこういう色は、日本人は使わないっていうような色合いなんですよね。それに一番ひかれましたね。

あいはらひろゆきさん

『くまのがっこう』も、あだちなみさんが色にこだわる画家で、「色が好き」ってみなさん言ってくれますが、絵本は色がすごく重要です。ベトナムの色を出したいと思った。今回はやっぱり自然、風、太陽、夕焼け、あと森とか木ですね。

いろんな意見交換があって、日本でいう「つり橋」のイメージを書いたら、「ベトナムでは竹だよ」って指摘していただいて。お互いに文化の違いを反映させたのが非常に面白かった。ベトナムの人が「ベトナムっぽい」って言ってくれたのは正直とてもうれしかった。えっ、なんで書けたんだ、俺、みたいな。

――ベトナム独特の色合いとは、どんな感じですか?

ちょっとにごった感じの色ですね、オレンジとか。例えば桜の色でももっと日本の場合パキッとさせるっていうか。あと黄色ですね。日本だったらきれいな黄色にする。もちろん画家によりますけど、こういうにごらせかたをしないんですね。見たことがない黄色だなっていう。

僕が見たベトナムでの風景とか風とか匂いを、この絵と色から感じる。ベトナムの田舎に住み、ベトナムの色の中で育った人だからこそ描ける絵なんだなあと。

ベトナムの画家と組まなかったら絶対に作れない絵本という意味では、とても良い仕事。ご協力くださったかたのおかげで。これで遺作でもいいかなあと。一応、第二弾をこれから書く予定になっていますが。

――日本で暮らすベトナムの人に、この絵本を贈ったそうですね。

子どもたちや技能実習生にも贈ったところ、「懐かしい」と言ってくれたそうです。技能実習生についてはひどいブラックな企業があるとも聞きます。ベトナムに行った時に日本語学校の学生さんと会ったんです。目を輝かせて「日本に行きたい」ってみんな言うわけです。でも来たらこういう状況って、僕も心が痛くて。

コンビニでも店員さんはベトナムのかたにどんどん変わっている。日本で頑張っている人たちに故郷を思い出して、日本との懸け橋になってほしい。日本を嫌いにならないで、いい人と出会ってほしい。

日本人には本当にちゃんとしろよと。(経済成長するベトナムに)追い抜かれるんだから、いまちゃんとしなかったら今度はあなたたちがそういう目にあうぞ、といいたいぐらいです。2023年は日越外交関係樹立50周年。ベトナムの人がどれぐらい日本を支えているか、感謝するとか、子ども同士の交流のきっかけにこの絵本がなってほしい。

――日本とベトナムが「本当のトモダチ」になれたら、と願う一文を絵本に寄せています。

ベトナムの画家の絵にすごく感動したので、日本の出版社の人にいろいろ見せました。こういう本を翻訳で出したらって言ったら、みんな「ベトナムの本なんて売れるわけないからだめ」って言うんです。

ようやく最近、韓国の絵本が翻訳で売れるようになっていますが、日本に入ってくるのは基本的にヨーロッパかアメリカの絵本。日本はどこか「テング」になっているというかね。絵をちゃんと見ることもしないで、ベトナムとか東南アジアの絵本は売れませんとシャットアウトしてしまう。そういうのがいやだった。もう自分で出版社(サニーサイドブックス)をつくって出してやると。このためにつくったわけじゃないけど。

出版が厳しい時代というのもありますが、いろんな可能性があるのに、日本の企業や出版社が非常にマイナス思考で、アジアにも冷たい態度をとるので。だったらもう俺がやってやるよと。たとえば新人画家の企画も蹴るところが多い。「この新人の絵じゃダメです」とか。震災の絵本を出したときもそうでした。(つづく)