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増えすぎたガン、町中がフンだらけ カリフォルニアの街を二分する「渡り鳥論争」

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
A sign warning visitors not to feed the waterfowl at Gull Park in Foster City, Calif., May 20, 2022. The city has applied for federal permits that would let it cull its goose population, alarming some residents and animal rights activists. (Jason Henry/The New York Times)
公園には水鳥にエサをあげないよう警告する看板も=2022年5月20日、フォスターシティー、Jason Henry/©2022 The New York Times

芝生にふんをする。公園にも。それが、水路にも入る。

もうたくさん。対策をとる――米カリフォルニア州のある市は、ついにこう決めた。

サンフランシスコ・ベイエリアにあるフォスターシティー(訳注=人口約3万)。米国のほかのところと同じように、カナダガンが増えすぎてしまった。

市内は、ふんで汚れ放題。公衆衛生の悪化を防ぐには、この鳥を間引くしかなさそうだ、と市当局はいうようになった。

「私たちはみな、野生生物と共存する寛容さを学んできた。でも、最近は健康上の危険があることが分かった」と市長のリチャ・アワスティは語る。

サンフランシスコから南へ約22マイル(35キロ余)。この市は(訳注=都市計画として造成した)浅い湖沼の周りにできているだけに、事態は深刻だ。

「ともかく、あちこちふんだらけ」とアワスティも首を振らざるをえない。

Goose droppings at Leo J. Ryan Park in Foster City, Calif., May 20, 2022. The city has applied for federal permits that would let it cull its goose population, alarming some residents and animal rights activists. (Jason Henry/The New York Times)
公園に落ちているカナダガンのふん=2022年5月20日、フォスターシティー、Jason Henry/©2022 The New York Times

しかし、市のこの姿勢は、さっそく市民の一部と動物福祉の活動家たちの怒りを買った。カナダガンを一網打尽にし、安楽死させようとしている。そんなことは許せないとする抗議デモが2022年5月にあり、「ガンを生かして!」のスローガンがこだました。

もっと思いやりのある解決を求める署名活動には数千人が応じた。

「ガンを苦しめないなら、どんな方法でも推進したい」とエリック・アレン(37)は語気を強める。市から約40マイル北方のサンラフェルから駆けつけ、このデモを組織した。

「動物も、私たちと同じことをしているにすぎないことを理解してほしい」とガンの排泄(はいせつ)行為をかばう。「踏まないようにまたげばよい。そんなに気にすることではない」

米国では、カナダガンとの「戦場」があちこちにできており、フォスターシティーは遅れて参戦してきたにすぎない。この鳥を救おうとした試みが、期待をはるかに上回る成果をあげて、逆にこんな状況を招くことになってしまった。

1918年の渡り鳥保護条約法で、絶滅の危機にあったカナダガンは守られることになり、生息数は回復に向かった。

ところが、60年代の終わりごろに再び減少に転じた。「マザーグース作戦」といった保護活動が生まれ、担当官が細心の注意を払って壊れやすい巣と卵を安全な場所に移しもした。ときには、ヘリが動員された。

米農務省によると、渡りをやめて居つくようになったカナダガンが、今では米国に何百万羽といる。

Canada geese in Foster City, Calif., May 20, 2022. The city has applied for federal permits that would let it cull its goose population, alarming some residents and animal rights activists. (Jason Henry/The New York Times)
米カリフォルニア州フォスターシティーのカナダガン=2022年5月20日、Jason Henry/©2022 The New York Times

生息数を回復させる事業が「あまりにうまくいきすぎた」とオハイオ州コロンバスにあるキャピタル大学の生物学名誉教授フィリップ・ウィットフォードは肩をすくめる。

居つくようになったカナダガンは、肥料を与えられた背丈の短い草と出入りが容易な水辺を好む、とウィットフォードは指摘する。多くの米国の街は「これにピッタリの環境を作ってしまった」。

かつては北米の野生の象徴だったカナダガンは、今や厄介者になった。飛行機を墜落させ、ゴルフコースを占領するようになった。危険を感じれば、攻撃的にもなる。それに、ふんの量がすごい。成鳥だと、1日約1ポンド(453グラム強)にもなる。

フォスターシティーに居ついたカナダガンは、2020年の181羽が翌年には323羽になった。さて、どうすべきなのか。

自然の生息環境を破壊された野生生物と人間は、都市空間をいかに共有すべきかという難問が生まれた。市民にはベイエリアの多くの自治体と同じように進歩的な考えの人が多いが、それでも議論は割れた。

市当局は、これまでにさまざまな対策を試してきた。犬を近くに歩かせ、追い払おうとした。ストロボをたいて驚かせた。卵に穴を開けたり、特殊な油を塗って大きくならないようにしたりした。フェンスを張り、ガンの嫌いなスプレーをまきもした。

でも、計画倒れに終わるか、一時的な効果しかなかった。

公衆衛生上の具体的な影響は、はっきりしたわけではない。しかし、フォスターシティーの公式サイトによると、市内のビーチのいくつかは閉鎖されることになった。水質検査の結果、「部分的にはガンのふんによって」バクテリアの量が高い水準にあることが確認されたからだ。

サイトには苦情があふれている。市内の公園や歩道では、あわててふんをよけるのが日常茶飯事になったという市民がいる。ある女性はカヤックに乗ったあと、バクテリアを洗い流すためにすぐシャワーを浴びるのが一家の日課になったと市議会にあてた電子メールで訴える。2歳の娘がふんを口に入れ、病気になったと怒る男性もいる。

実際に市民に話を聞くと、飼い犬のリードを解いて散歩することはもうできない、とバイオ薬品企業の役員ラジュ・ガディラジュは嘆いた。「ガンのふんを好んで食べるので」と理由を説明しながら、「とても不愉快」と吐き捨てた。

Raju Gadiraju, a biopharmaceutical executive, who says he no longer lets his dog run free because of the geese droppings, in Foster City, Calif., May 20, 2022. The city has applied for federal permits that would let it cull its goose population, alarming some residents and animal rights activists. (Jason Henry/The New York Times)
ガンのふんのせいで飼い犬のリードをはずして走らせることができなくなったと嘆くラジュ・ガディラジュ=2022年5月20日、フォスターシティー、Jason Henry/©2022 The New York Times

市はガンを間引くことができるよう、すでに連邦政府に許可を申請している(よく使われるのは、移動式のガス室に入れて安楽死させるやり方などだ)。

ただし、実際に実行するか、さらにはどんな方法を使うか、といったことについては最終的な決定は下していない、と市長のアワスティは強調する。

もし実行したとしても、課題は残る。その一つは、生息数の抑制につながるとは限らないことだ。もちろん間引けば、とりあえず数は減る。しかし、近隣にガンの集団がいれば、その数はかなり早く回復する、とコーネル大学の野生生物学教授ポール・カーティスは予告する。

「恒久的な解決策なんてない。どうすれば、最もよい方法で共存できるかを考えるべきだと思う」

A woman feeds geese and goslings at Stow Lake in Golden Gate Park in San Francisco, May 20, 2022. The nearby city Foster City, has applied for federal permits that would let it cull its goose population, alarming some residents and animal rights activists. (Jason Henry/The New York Times)
サンフランシスコの公園で、ガンとその子供たちにエサを与える女性=2022年5月20日、Jason Henry/©2022 The New York Times

間引きをめぐる論争は、フォスターシティーの市民の一部をイラつかせている。取材に応じた会計士マイケル・シュルツ(37)もその一人だ。「カリフォルニアやベイエリアが持つ進歩的な価値観とは、とても相いれないように思える。本当に必要なのだろうか」

一方で、間引きへの抗議を無視するよう市議会に訴える人たちもいる。特定の意図を持った一握りの外部の連中があおっていると見るからだ。

「フォスターシティーのみんなにとって最良のことをやめさせようとしているのは、『わずか数十人』にすぎない。そんな主張には、耳を傾けないでほしい」。市にあてた一通の手紙はこう記している。そして、「ふんは見苦しいし、不衛生。理屈抜きで、がまんできない」と断じる。

この手紙の書き手とは別に、シリコンバレーの企業の財務部門に勤めるマーク・ベルトランにとっては、ガンの生息数を抑制することは(例えそれが安楽死を意味していても)合理的な対策に思える。「鳥たちが、この街を乗っ取ってしまったのだから」

「みんなのふるさとというべきこの美しい街を、私たちは目的通りに使えなくなってしまった」とベルトランは続け、こういうのだった。

「私は別に鳥を殺すことそのものを支持しているわけではない。私たちみんなのためにある地域環境を救いたいんだ」(抄訳)

(Livia Albeck-Ripka)©2022 The New York Times

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