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リゾートの街に出没する巨大クマ、押し入った民家は数十軒 残った策は安楽死だけ?

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「タンクのハンク」とされる巨漢熊=Bear League via The New York Times/©2022 The New York Times。DNA鑑定で、「ハンク」は少なくとも3頭いることが判明した

「タンクのハンク」と呼ばれる巨漢クマが、米カリフォルニア州北東部のリゾート地サウス・レイクタホ市に出没している。

体重は500ポンド(約227キロ)。2021年の夏から、(訳注=水面の標高が1899メートルもある)タホ湖の周辺に広がる市内をうろつくようになった。22年2月までに数十軒の民家に押し入り、食べ物をくまなく探しては建物に被害を与えている。

そんな厄介者の行動を誰一人として阻止できてはいない、と州魚類野生生物局(CDFW)の広報担当ピーター・ティラは首を振る。

州当局や地元警察は、いろいろと試してきた。競技用の塗料入り弾丸を撃ってみた。豆の詰まったボールを投げつけ、サイレンも鳴らした。相手に電気ショックを与えるテーザー銃すら使った。

しかし、しばらくすると舞い戻ってきた。人間とその食べ物の世界に、すっかり魅せられてしまったようだ。

「まあ、ピザの食べ残しを見つける方が、森でエサを探すよりは楽なんだろうけど」とティラは話す。

「タンクのハンク」とされる巨漢熊=Bear League via The New York Times/©2022 The New York Times。DNA鑑定で、「ハンク」は少なくとも3頭いることが判明した

ハンクについての通報は、21年7月から100件以上も警察に入っている。現場は、柵などで囲んで防犯性を高めた市内のタホキーズ地区。サンフランシスコから北東に約190マイル(300キロ超)のところにある。

当局が今、試しているのはワナだ。最終的には安楽死させることも検討している。

「人間をまったく恐れなくなってしまった」とティラ。「むしろ、そこに危険性が潜んでいる」

ハンクの武器は、その(訳注=タンク〈戦車〉のような)巨体と怪力だ。車庫でも、窓でも、玄関のドアでも破ってしまう。22年2月半ばまでに、少なくとも28軒が被害にあっている。

その体重は、アメリカクロクマとしては群を抜いている。米西海岸最北部のワシントン州の魚類野生生物局によると、米西部にすむ普通の個体の体重は100~300ポンドだという。

ハンクの場合は、人間の食べ物や食べ残しがここまで太らせたようだ、とアン・ブライアントは見ている。タホ湖西岸にあるホームウッドの野生生物保護団体「ベア・リーグ(Bear League)」の役員だ。「森でベリー類や地虫を食べていたなら、あんなには太らなかったはず」

でも、「なぜ、人間の食べ物をこれほど好きになったのか。そこは、よくわからない」。

A view of empty streets after the mandatory evacuation the day before in South Lake Tahoe, California, U.S., August 31, 2021. Picture taken August 31, 2021. REUTERS/Aude Guerrucci
山火事で避難命令が出され、人の姿が消えたサウス・レイクタホ市=2021年8月31日、ロイター。入れ替わるようにクマが市内をうろつき始めた

ハンクが「最も歓迎されざる地域住民の一人」となったのは、21年7月だ。そのころになると、クマには過食の傾向が出始める。冬眠に備え、たらふく食べてカロリーを蓄えるからだ、と米国立公園当局は説明する。

ところが、冬になっても民家への押し入りは、一向に減らなかった。このため、ハンクはそもそも冬眠しないでいる、と州当局は考えるようになった。年間を通してエサにありつける場合、クマは冬眠に入らないこともあるとティラは指摘する。

ハンクは今のところ、22年2月に入ってしかけられたワナにはかかっていない。他に妙案はないか。なんとかひねり出そうとする作業が、当局間で続いている。いよいよとなれば、最後の選択肢は「安楽死になってしまう」とティラは語る。

ハンクの「引っ越し」はどうか。ただ、それは問題を別の場所に移すだけになりかねない。しかも、クマの保護区はどこも満杯だ。

そこが、まさに州当局と地元タホキーズ地区住民との論争のポイントになっている。住民側の多くは、ハンクを保護区に送り、安楽死させるようなことはしないでほしいと願っている、と先のブライアントは話す。

クロクマは、何世代にもわたってこの地域で人間と共存してきた。人間の方も、食べ物を外に置きっぱなしにせず、ゴミはこじ開けられないようなところにしまうことを学んできた。

それでも、たまには両者の間に摩擦が生じることもあった。本紙は2007年に、「家を壊す連中」について報じている。

そんなクマをめぐる状況が大きく変わったのは、コロナ禍になってからだった。リモートワークをする人たちが越してきた。「クマとの付き合いを十分に心得ていなかった」とティラはいう。

加えて、「カルドール火災」と呼ばれる大規模な山火事の発生があった。サウス・レイクタホ市に避難命令が出ていた21年9月には、クマが無人となった市内を歩き回り、家捜しをするようになったとティラは振り返る。

The Angora Fire continues to burn above South Lake Tahoe, California June 25, 2007. Firefighters had a wildfire near California's popular Lake Tahoe resort 40 percent contained on Monday after it engulfed 2,500 acres (1,000 hectares) and destroyed or damaged more than 200 homes. REUTERS/Max Whittaker (UNITED STATES)
米カリフォルニア州サウス・レイクタホ市の近くで燃え続ける山火事=2007年6月25日、ロイター。周辺にはクマがすむ山林が広がる

そんな環境に生きるハンクが、家をメチャクチャにすることを住民は確かに望んではいない。一方で、敬意をもって接したいとも思っている、とブライアントは強調する。

州当局は、結局はこの地域にしかけたワナを回収することになった。「クマ殺し」とスプレーで落書きされたからだ。

地元の住民がまず口にするのは、ハンクの穏やかさと可愛さだ。家に押し入っても、中にいるかもしれない人間には関心がない。ひたすら食べ物に集中する。

「座り込んで、食べてるだけ。人を襲うことはない。うなったり、牙をむき出しにしたりもしない」とブライアントはかばう。

確かに、建物にかなりの被害を出しながら、人的被害は1件もないと当局側も認める。

「だったら、なぜ、この大きな間の抜けたような生き物が死なないといけないのか」とブライアントは問い返す。(抄訳)

(Alyssa Lukpat)

(この話を報じて間もなく、ニューヨーク・タイムズ紙は続報を流した)

「タンクのハンク」の先の記事は、ほとんどは正確だった。ただし、思わぬ事実が判明した。

この数カ月間にタホ湖周辺で被害にあった民家から採取したDNAを分析したところ、「ハンク」は1頭ではなく、少なくとも3頭の別々のクマだった――カリフォルニア州魚類野生生物局(CDFW)は2022年2月、こう発表した。

「見かけや体格といった目撃情報だけでクマを特定すると、誤りのもとになる。ひいては、対策も混乱してしまう」との声明をCDFWは出した。

同時に、「ハンク」には朗報もあった。何頭もからんでいたことがわかったことで、安楽死という選択肢がほぼ消えたからだ。今後はクマをワナで捕まえ、標識を付けてもっと適切な生息域に放つ、という新たな方針が明らかにされたのだった。(抄訳)(Daniel Victor)

©2022 The New York Times

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