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海外派兵に消極的なアメリカは日本を守る?日米関係と安全保障を考えよう【前編】

これだけは知っておこう世界のニュース

中川 朝日新聞の経済メディアbizbleで2021年6月に連載を始めて、ちょうど今回で1周年です。5月にはバイデン大統領の訪日もありましたので日米関係をじっくり話したいと思います。よろしく願いします。

パックン よろしくお願いします。

中川 バイデン大統領の訪日には、四つのポイントがあったと思っています。

1点目は、バイデン大統領の台湾発言。首脳会談後の記者会見で、中国が台湾に侵攻した時に、アメリカは台湾に軍事介入するかと聞かれ、バイデン大統領は「yes」と答えました。バイデン大統領の台湾軍事介入への「yes」発言は実は今回で3回目です。ただ、次の日には、大統領自身が、アメリカがこれまでとってきた台湾について態度を明らかにしないといういわゆる「あいまい戦略」に変更はないと強調しました。

岸田文雄首相と日米共同記者会見を行ったバイデン米大統領=2022年5月23日、東京・元赤坂の迎賓館、代表撮影

パックン バイデン大統領は、質問した記者に聞き直されたんですよ。「本当ですか!?」って。記者も信じていなかったようです。

中川 2点目は日米豪印4カ国の「QUAD」(クアッド)です。今回初めて日本で首脳会合を開きました。

ただし、今回のロシアによるウクライナ侵攻を受けて、ロシアと歴史的、軍事的な関係の深いインドのロシアに対する立ち位置が難しくなっていました。

共同声明では、ロシアを名指しして批判はできませんでした。一方で、全方位外交のインドを、完全にロシア寄りにさせるのではなくて、民主主義陣営につなぎ留めるという重要な枠組みと考えることもできます。QUADはあくまでも対中国包囲網であって、対ロシア包囲網ではないという「言い訳」を、インドにさせないことが重要かなと思います。

3点目が経済、IPEF(インド太平洋経済枠組み)です。関税の引き下げや撤廃は伴わないこの枠組みに実効性があるのかという問題もあります。しかし、関税を扱うTPP(環太平洋経済連携協定)へのバイデン政権の復帰は難しいだろうというパックンのこれまでの解説もありました。

最後の4点目が国連改革です。バイデン大統領が、国連が改革された暁にはアメリカは日本の常任理事国入りを支持すると言ってくれたということを、岸田総理は記者会見で自ら明らかにしました。

この四つのポイントについて、パックンと整理した後に、これからの日米関係を話したいなと思います。

パックン バイデン大統領の訪日について僕の感想からいきますと、大変バランスのとれた訪日でした。

バイデン大統領は、台湾に関する「失言」の後片付けに結構時間をかけました。そして、QUADを経済面で補強するIPEFを発足させて、アメリカとアジアの連携を強化しました。今回の訪日中、狙い通りのことができたと思うんです。ちなみに、バイデン大統領の訪日後、岸田首相の支持率も最高水位に達したので、岸田首相にとっても狙い通りのことができたかなと思います。

中川さんがポイントに挙げた点を順番に話しましょう。

まず、台湾に関する失言の話ですが、確かに中川さんがおっしゃった通り、バイデン大統領は同じような「失言」を繰り返しているんです。これは、「あいまい戦略」というものを、さらに「あいまい」にしようとしているように見えます。

中川 「あいまい戦略」をさらにあいまいにするって、どういう意味ですか?

パックン 要は、「俺(バイデン大統領)が動くよ」という「印象」を与えようとしている戦略の可能性もあるんです。「俺がいる限り、アメリカの方針は明らかだけど、台湾関係法の法改正までの必要はないよ」と。

ホワイトハウスは、バイデン大統領がいわゆる「失言」をするたびに、「いやいや、方針は変わっていませんよ」と言うんです。大統領本人も「変わってない」と主張するんですが、本人の頭の中では台湾に対する攻撃があれば、「台湾の有事はアメリカの有事」と言わんばかりの思いを持っているんです。だから、これが本当に戦略かどうかは、アメリカのメディアでももちきりの議論です。

中川 アメリカのメディアは大統領の訪日をどんなトーンで報じていますか? 

パックン はい、台湾についての発言は大きなニュースになっていて、保守メディアは「おじいちゃんの寝言だ」といった冷ややかなとらえ方をしています。リベラル派はどうかというと、これがなかなか難しい。

アメリカでは、トランプ前大統領以降、「タカ派」と「ハト派」の線引きが難しくなったんですよ。以前は共和党が「タカ派」で、民主党がリベラルな「ハト派」というふうに分かれていましたが、トランプ前大統領は「アメリカ・ファースト」主義で、何があっても他国同士のいざこざに絡まないぞ、という立場でした。

それが今では共和党の中でも、大きな割合の方の思いになってきています。共和党内には「アメリカ・ファースト」という名の「新孤立主義者」も増えてきて、従来の分け方が最近できなくなっているんですね。

今、本来は「ハト派」の民主党のバイデン大統領は、ウクライナに派兵はしませんが、武器を提供したり、莫大な予算を用意したりして、全面的に支援するスタンスを取っています。そのことは、民主党内やリベラルメディアから支持されています。

ですから、今回の台湾発言も「賭け」に出ている面もあります。具体的にどこまで軍事的な関与をするのかはっきりさせないまま、「アメリカは黙っていないよ」と言うことには、牽制の効果があるという見方と、逆に台湾と中国の戦争を誘発する危険性を持つという二つの見方があります。

日米共同記者会見を行うバイデン米大統領(左)と岸田文雄首相=2022年5月23日、東京・元赤坂の迎賓館、代表撮影

中川 台湾有事の話で思い出すのは、日米関係の分岐点といわれる1991年の湾岸戦争です。私が外務省に入ったのは1994年。パックンが来日したのは1993年でしたね。湾岸戦争は1990年、イラクによるクウェート侵攻をきっかけに開戦しました。

湾岸戦争は、東西冷戦の終結で「アメリカ一強時代」が始まった頃に起きました。そして開戦から30年経っても、いまだに「日本外交、最大の反省」と言われるできごとがありました。

湾岸戦争の時、日本は130億ドルのお金は出したんですが、当時、当然ながら自衛隊の海外派遣はできず、いわゆる「人的貢献」はできませんでした。それで、終戦後にクウェート政府が感謝を表明した国のリストに、130億ドルを出した日本は入っていないという事件がありました。

パックン ニューヨーク・タイムズ紙等の全面広告に名前を載せてもらえなかった事件ですね。「助けてくれてありがとう」とクウェートが謝礼広告を出した際に、日本は載っていなかったと怒っていましたよね。

中川 当時の日本は、「お金だけ出す国」というレッテルを貼られていました。先述の謝礼広告に日本の名前がなかったことは日本外交の「湾岸ショック」として根強く残りました。湾岸戦争のトラウマがあったから、日本は2003年のイラク戦争と、その後のイラク復興で自衛隊を海外に出したわけです。

移動中に周囲を警戒する陸上自衛隊員=2004年3月、イラク南部サマワ近郊、朝日新聞社

イラクへの自衛隊派遣は、日本の安全保障にとっても大きな転換でした。私、当時は外務省でイラクを所管する中東2課のイラク班長で、最前線にいたんです。ただ、自衛隊が派遣された場所はイラク南部のサマワ。要は一番安全な所でした。

パックン 覚えていますよ。自衛隊は戦わないけど、地域の秩序・安定保持に貢献するという言い方をしていましたよね。

中川 そうです。要は、イラク特別措置法という法律を作って、その中で、「戦闘地域」と「非戦闘地域」という二つの法律上の概念を作ったんです。そして、自衛隊は「非戦闘地域」でしか活動しないから、憲法上の問題はないという整理をしました。実際の治安情勢とはリンクはしていません。

パックン 自衛隊は「非戦闘地域」だったら行っていい、となったんですね。

中川 当時、イラクの首相を始め、いろんな要人が来日して小泉首相(当時)に会いました。私は、その会談でアラビア語通訳を務めましたが、当然ながら自衛隊が「非戦闘地域」に行くなんてことは、イラク人には言わないわけです。「内向きの論理」でしたね。自衛隊のイラク派遣は結果的に戦闘による隊員の死傷者は出さずに終わり、それがむしろ日本人の誇りになっていました。

しかし私は、当時も「そうじゃないだろう」と感じていました。そういう建前的な安全保障で、日本だけが安全なところに行くことに、強い疑問を感じていました。

その後、日本も2015年に安保法制が成立し、法的にも自衛隊の海外派遣ができるようになりました。でもいまだに日本は、自衛隊を、PKO(国連平和維持活動)の枠組みではなく、日本独自の判断として、海外へ派遣するという経験はないわけです。そんな中で今年、ロシアによるウクライナ侵攻が発生しました。さらに台湾有事の話もあります。

台湾有事は日本の有事です。日本は、ロシア、中国、北朝鮮という反民主主義陣営に囲まれていて、世界でもっとも危険な国の一つかもしれません。そういう中でのバイデン大統領の「台湾介入」発言だったわけです。

今、日本がどのように能動的にアメリカと付き合っていくのかを考える、とても大切な時期だと思いますし、もう一回、日本人がしっかり安全保障について考えなきゃいけないと思ったんです。パックン、どう思いますか。

パックン 湾岸戦争のトラウマが、今の日本の、「身を張って、積極的な地域安定や世界秩序の保持に貢献する姿勢を取らなきゃいけない」という思いにつながったという話は聞いたことがあります。

ただ、このクウェートが感謝していないというのは勘違いらしいですよ。

ドイツも日本と同じようにお金だけ提供して軍は出さなかったのに、広告には載っていました。お金だけ出して派兵しなかった国は感謝されない、ということではなかったんです。あの広告はアメリカ大使館の職員さんに国のリストを用意してもらって作ったそうですから、単純な「事務的なミス」だと思います。

中川 パックンが言うことも一理ありますが、それでも日本の外務省は当時、海外での人的貢献のあり方についてかなり混乱したと聞いています。

パックン 中川さんはクウェート人から直接言われたことがありますか?「君たちも戦えよ」「戦わなかったの、ずるいじゃん」って。

中川 いや、そんなことはなかったです。

パックン たぶん僕も、クウェート人の気持ちはそこまでじゃないと思うんですよ。

例えば、東日本大震災の後、クウェートから5億ドル以上の石油提供とか支援が届きました。クウェートは湾岸戦争の時に助けられたから、「恩返し」という形で謝礼の気持ちを示したんですよ。僕はむしろ、広告の一件は、日本国内で、自衛隊の海外への積極的派遣という目的で政治利用されていると思っています。

中川 なるほど。一方で、湾岸戦争の時、日米同盟の中でアメリカに感謝されなかったというのもポイントかと思います。元外交官の故・岡本行夫さんのご著書「危機の外交」(新潮社)にも書いてありました。当時、アメリカにすごくがっかりされた、130億ドルを拠出しても、アメリカから正当な評価を得られなかった、と。

ただ、あれから30年たって、もはやアメリカ自身が海外に出て行くことを望まないわけです。ずいぶん時代は変わったなと思いつつも、じゃあ逆に、アメリカが「台湾に軍事介入する」という言葉を信じていいのか、「日本を守る」という言葉を信じていいのかと思うわけです。

日本はよく「一国平和主義」と呼ばれますが、日米同盟の中で、日本には軍事的な制約があるという事情は、きっといつまでも通じない。激動の今年、もう一度考え直すべきだろうと私は思っています。

パックン 僕も、日本がどういう形で世界の秩序につながる活動ができるのか、しっかり、そして、常に考えるべきだとは思いますが、湾岸戦争のトラウマがそのきっかけというのは、どうかなと思います。

湾岸戦争でイラクと戦った国は、アメリカ、イギリス、フランス、サウジアラビア、エジプト。つまりNATO加盟国では3カ国だけです。G7でも3カ国だけ。アメリカの同盟国で戦わなかった国はいっぱいあるんです。

じゃあ、なぜ日本だけが、「我々が嫌われている」「もっと軍備強化しなきゃいけない」と思っているのかといえば、それが、自民党が常々やりたいことのちょうどいい口実になっているからだと思うんです。「ちょうどいい!広告から名前が漏れた!よし!」って思っていると思います。

僕は、経験豊富な外交官だった岡本行夫さんが感じたことは岡本さんの事実だと思いますが、国際社会の事実かどうかは疑問です。日本が参戦しなかったと日本が怒られている。じゃあ参戦しなかった韓国やフィリピン、インドネシア、インドは?なぜ日本だけが湾岸戦争の責任を今さら持たなきゃいけないのかと思うんです。

でも同時に、その世界秩序の安定に日本が世界3位の経済大国として責任を持たなきゃいけないし、アジアのリーダーと名乗るのならリーダーシップも発揮しなきゃいけないとも思います。

中川 日本が軍隊を持たないという制約があるのも他国と異なる事情ですよね。アメリカへの依存度も異なるのではないでしょうか。湾岸戦争と違って、イラク戦争後の復興には、国際社会が相次いで軍を出しました。だけど日本の自衛隊は、当時、復興支援だけで治安維持はできないから、サマワでオランダ軍に守ってもらったわけです。

イラク・サマワに到着後、オランダ軍基地前で会見する陸自先遣隊の隊長=2004年1月19日、朝日新聞社

当時、陸上自衛隊が海外に出たことは日本にとって画期的でした。だけど出た先は結局、「非戦闘地域」という制約があり、それをイラク人には堂々と言えないわけです。そこが外交官として、私も非常に苦しい立場でした。それでも湾岸戦争とは違ったわけです。イラク復興には日本は50億ドルを出し、制約の下でも自衛隊を出して人的貢献をしました。

パックン 今回は珍しく、中川さんと意見がだいぶ異なっていますね。こういう議論も大好きですが、僕はあのイラク戦争は結局、間違った戦争だったと思います。だから、イラクを侵略したアメリカと肩を並べても、日本にいいことはないと思います。

日米関係にはいいことがあったかもしれないですが、世界から見たら、あまりプラスはなかったんじゃないかなと思うんです。イラクが非人道的な状態に陥っていて、人道支援が必要な状態であれば、僕はイラク人を助けに入るということには大賛成です。どんな時でも、困っているところを助ける日本は大好きなんですが、日本が本当に役割を果たすんだったら、戦争を始めるな、と「友達」を引き留めるべきだったと思うんです。

中川 アメリカを止めるべきだったと?

パックン その通り。2003年にイラク戦争に突入しようとするアメリカを止める役割を果たした方が、最終的に世界から評価されて、アメリカも助かったと思うんですよ。

開戦時の大統領だったブッシュ氏だって、退任直前に「後悔は?」と聞かれて「イラク戦争」と認めているんです。日本は、アメリカを止めることができたはずだし、ブッシュ氏の後悔を一つ減らすことができたはずだと思います。

中川 イラク戦争当時、バイデン大統領は上院外交委員長でしたね。私がアメリカで勤務していた2008~2011年当時、バイデン氏はオバマ政権の副大統領で、「イラク復興は何としても成し遂げなければならない」と、相当思い入れがあるようでした。

パックン そうそう。だから日本がどこか増強するなら、間違った戦争を起こさせない力、平和を維持する力を増やした方がいいと思うんです。中川さんの専門分野の外交力もそうですし、コミュニケーションや貿易関係、文化的な連携など、軍事面以外の国際的なメカニズムを使って平和維持ができるように頑張った方がうれしいなあと思うんです。

中川 なるほど。イラク戦争の時によく言われたのは、日米が一体化することで日本がアメリカと同一視されて、日本も危険になっていくと言う話でした。中東では非常によく言われて、私もずっと危惧していたんですが、幸い日本は中東関係では距離があり、その危惧は実際はそこまで深刻になりませんでした。

中東の日本に対する印象は、幸い良いままです。日本人としては、そこはうまく生かさなければいけないと思います。日本は日本の考えをしっかり持ち、バイデン大統領の台湾発言に安心してはいけないと思います。

パックン まったくその通りです。日本は、アメリカと距離があって独立しているからこそ、アメリカの敵のイランやキューバと仲良くできるし、その友好関係をもって、架け橋的な存在になってくれれば素晴らしいと思います。

アメリカと違って、平和大国の日本人は世界のどこへでも「行ける」という点が違うんですよ。アメリカ人が一歩も踏み入れられない国とも接することができ、アメリカ人が例えば観光客でも狙われるような地域に行けて、歓迎されることは結構ありますよね。そういう国に、せっかくの立場を生かして日本が貢献できたらすごいと思います。

(注)この対談は、5月31日にオンライン形式で実施しました。対談写真はいずれも上溝恭香撮影。