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史上最大のサメ「メガロドン」はなぜ絶滅したか 謎を解くヒントは歯の化石にあった

ニューヨークタイムズ 世界の話題
FILE ム A visitor poses for a photo while standing inside replica jaws of the megalodon on display at the American Museum of Natural History in Manhattan on Dec. 10, 2021.  The megalodon, the largest shark that ever lived, may have vanished in part because the comparatively smaller great white had a taste for the same prey.  (An Rong Xu/The New York Times)
ニューヨークの米国自然史博物館に展示されているメガロドンのあごの複製=2021年12月10日、An Rong Xu/©2022 The New York Times

今から2千万年も前のことだ。海ではある巨大な肉食動物が、泳ぎ回っていた。口は、地下鉄のドアのように大きかった。歯は、あなたの手のひらほどもあった。

その名はメガロドン(訳注=和名:ムカシオオホホジロザメ)。この地球に存在した最大のサメだ。体長は50フィート(15メートル強)を超えることもあった。獰猛(どうもう)で、何百万年にもわたって厄災の根源のようにふるまった。

それが姿を消した。どこにもいなくなった。

絶滅したのはなぜか。正確な理由については、学会で数多く議論されてきた。そこに一石を投じる新たな論文が2022年5月、英科学誌ネイチャーコミュニケーションズに掲載された。

共存していたホホジロザメ(訳注=平均的な体長は4メートル台)が、メガロドンと同じ獲物を捕食していた。現在も海の強者であるこのサメとの生存競争に敗れたことが、絶滅の一因ではないかとする推論をこの論文は導き出している。それは生態系を最終的に支配する上で、最も大きな体を持つ肉食動物が勝つとは限らないことを示唆してもいる。

太古の大洋の食物連鎖を再構築することは容易ではない、とジェレミー・マコーマックは語る。ドイツにあるマックス・プランク進化人類学研究所の地球科学者で、今回の論文を執筆した一人でもある。絶滅した動物の食物摂取を観察したり、カメラを設置してその暮らしぶりを撮ったりすることはできないからだ。

ただし、別のやり方で迫ることはできる。何を摂取したかを推測するすべの一つとして、その動物の体を組成する分子を調べる方法がある。

現在の哺乳類の歯に含まれる亜鉛(訳注=歯の形成時に亜鉛が歯のエナメル質に取り込まれる)の同位体のレベルだ。それが、食物連鎖の中で占める位置と関連していることをこれまでの多くの研究が確認している。連鎖の高いところにいるほど、亜鉛同位体の数値は低くなる。

歯は、よい状態の化石になる。ひょっとしたら、何百万年も前の歯にも現代の法則があてはまるのではないか、と研究陣は考えた。

そこで、サメの歯を調べてみることにした。現存する種やとっくに絶滅した種も含めて、計100匹以上を対象にした。

FILE -- A great white shark swims off the coast of Mexicoユs Guadalupe Island on Nov. 12, 2015. The megalodon, the largest shark that ever lived, may have vanished in part because the comparatively smaller great white had a taste for the same prey. (Benjamin Lowy/The New York Times)
メキシコのグアダルーペ島の沖合を泳ぐホホジロザメ=2015年11月12日、Benjamin Lowy/©2022 The New York Times

歯が風化すると、亜鉛同位体のレベルは変わるのか。さらに、現代のサメについては亜鉛同位体の数値が、食物連鎖の中の位置を反映しているのか(小さな魚を食べるサメの数値は、クジラを食べるような連鎖の高い位置にいるサメよりも大きいはずだ)――という点について調査した。

その上で、古代のサメの歯から得た数値をもとに描いた食物網(訳注=自然界での多様な「食う・食われる」の全体的な関係。食物連鎖より複雑になる)を検討した。すると、とても興味深いパターンが浮かび上がった。

「ホホジロザメが示す亜鉛同位体の数値の範囲は、同一地域で見る限りメガロドンと同じだった」とマコーマック。「すごく面白いと思った。双方の体の大きさはかなり違っていても、餌食とする生物種が重なっていることを示唆していたからだ」

絵に描けば、こんなところだろうか――巨大なサメが滑空するように動いて、バスのような影を投じながら不幸な魚を追いかけている。その後方に、当時は比較的ちっぽけなホホジロザメがいて、同じ獲物に素早くありつこうとしている。

ホホジロザメが同じような獲物を捕食していたとすれば、メガロドンとは競合関係にあったということになる。それは、メガロドンの絶滅につながった一因にもなりうる。ただし、絶滅の要因はほかにもあっただろう。気候条件など、生態系に影響を及ぼすかもしれない変動は、いろいろとありうるからだ。

絶滅の要因については、これまでも専門家の間で語られてきた。ただし、仮説を裏付ける(訳注=元素とその同位体などの)地球化学的な証拠に欠けていた、とマコーマックは指摘する。

専門家は何百万年も前の生態系(誰が誰をどこで食べていたのか)を再構築しようとしている。数多くの空白を埋めるのに、亜鉛同位体の数値による測定方法は有力な一助になるかもしれない。

それがこれほど時代をさかのぼって適用されるのは、まだ新しい試みにすぎない。しかし、ほかの多くの生物について、より多くのデータが得られるようになれば、信頼度も増すことだろう。

メガロドンのような生命体が消え、化石の記録と化した世界がある。そこで何が起きたのかを探るよき手法になるのではないか、とマコーマックは期待する。(抄訳)

(Veronique Greenwood)©2022 The New York Times

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