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ワリエワ支援の動画、ウクライナ危機で「外敵と戦う」覚悟を示唆?ロシア国防省が投稿

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北京オリンピックのフィギュア女子フリーの演技を終えたカミラ・ワリエワ
北京オリンピックのフィギュア女子フリーの演技を終えたカミラ・ワリエワ=2月17日、北京・首都体育館、角野貴之撮影

この問題をめぐっては、昨年12月25日のロシア選手権の際、禁止薬物トリメタジジンが検出され、女子シングルの試合前に国際オリンピック委員会(ROC)に伝えられ、大きな騒動になった。

ワリエワはショートプログラム(SP)で1位になったものの、得意の4回転ジャンプを失敗するなど、ドーピング問題が心理的な影響を与えていることは明らかだった。

そして2月17日に行われたFS。2種類3本の4回転ジャンプをすべて失敗し、自身が作った世界記録から50点ほど低い224.09点と最悪の結果になった。

「可愛そうだ」「見てられない」。ロシアではそうした声が大きくなり、Twitter上ではワリエワを支えるために「#камиламыстобой」(私たちはカミラとともにいる)というハッシュタグが作られ、失意にくれるワリエワを支えようとする運動が起こった。

ワリエワが師事するトゥトベリーゼコーチに対しては、「トゥトベリーゼ恥を知れ!」という批判もあるが、むしろ称賛する声が強く、ツイッター上にも「偉大なコーチ」というメッセージも多い。

そんな中、ロシア社会ではワリエワは何者かに落とし込まれたという陰謀説も大きくなった。その空気感を象徴しているのが、プーチン大統領と事実婚の関係にあるとされ、2004年アテネオリンピック新体操金メダリストのアリーナ・カバエワ氏(38)の言葉だった。

ワリエワ・ケースの陰謀を疑うカバエワ」の見出しがついたロシアの大衆紙「モスコフスキー・コムソモレツ」の記事には、カバエワ氏が発したこのドーピング問題の見解が紹介されている。

カバエワ氏は、ワリエワが出場してROCが金メダルを獲得した7日の団体戦の最終結果に着目。2位はアメリカ代表チームだったが、8日にワリエワのドーピング問題が明らかになったため、ROCの金メダルがはく奪される恐れが出てきた。

そのため、カバエワ氏はもしワリエワのドーピング問題がオリンピック前に判明していれば、ROCがワリエワに代わるメンバーを団体戦に出場させ、金メダルを確実に取ることができたとし、この発表の遅れは「2位になったアメリカ人に金メダルを渡す理由になった」と主張した。つまり、発表の遅れこそ、陰謀の意味合いが強いという意味だ。

さらに、ワリエワはドーピングに染まっていない「クリーンな選手」だとも訴え、「こうしたことはみんな、ロシアのスポーツに対して何らかの意図を持った攻撃のように見え、不快だ」とも語った。

アリーナ・カバエワさん
アリーナ・カバエワさん=2006年11月、三重県営サンアリーナ、岩下毅撮影

さらに、この「ワリエワ・ショック」に乗じたのがロシア国防省だった。プーチン政権はいま、ウクライナとの国境付近に軍部隊を増強して同国内にいる親ロシア派を支援しつつ、ウクライナ政府や欧米諸国との対決姿勢を鮮明にしている。欧米諸国や日本などはロシアとの外交努力を行なっているが、緊張は緩和されていない。

こうした状況下で、ロシア軍は「ワリエワを支持する」との名目で次のような動画を投稿した。

50秒ほどの動画には、リンク上で演技直前の少女が緊張に震えている姿が映し出され、6人のマント姿の男性スケーターが少女の周りを滑り始める。

動画のBGMには今回のワリエワがオリンピックのSPで使用したプログラム曲「In Memoriam」が採用され、少女はその男性スケーターの威嚇におののいてしまい、しゃがみこんでしまう。

顔をふさぎこむ様子は、ドーピング問題が明らかになり、ワリエワが現地の報道陣の取材可能エリア「ミックスゾーン」を通り過ぎる際に、報道陣が厳しい質問を浴びせかけ、顔を覆って通り過ぎようとするシーンを彷彿(ほうふつ)させる。

北京オリンピックのフィギュア女子フリーの演技を終え、涙するカミラ・ワリエワ
北京オリンピックのフィギュア女子フリーの演技を終え、涙するカミラ・ワリエワ=2月17日、北京・首都体育館、細川卓撮影

その後、少女のまわりには青い制服を着たロシア軍の士官学校生が取り囲み、マント姿の男性スケーターを寄せ付けない。

そうして安全な状態になった少女は演技を始める時に、リンクに「#камиламыстобой」(私たちはカミラと共にいる)のメッセージが映し出されるのだ。 

投稿には、動画とともに、次のような文言もつづられている。

「スタブロポリ大統領士官学校の生徒たちが、フィギュアのカミラ・ワリエワ選手を支援する運動『私たちはカミラと共にいる』のために結集したビデオです」

動画は「ロシア士官学校生の日」にあたる2月17日に投稿された。この日に合わせて、各地の士官学校生らがワリエワを支援するパフォーマンスをしており、この動画もその一つだったという。投稿から2日で視聴数はすでに33万以上と注目を集めている。

また、動画は士官候補生たちがワリエワへの支援を表明する形になっているが、ロシア軍がウクライナを「侵攻する可能性がある」(バイデン大統領)と名指しされている中での投稿だけあって、ロシア軍が親ロシア派と自国の「勢力圏」を守るために「外敵と戦う」ことをアピールするメッセージのようにも受け取れる。

ウクライナ東部ノボルガンスクの街で警戒にあたるウクライナ軍の兵士
ウクライナ東部ノボルガンスクの街で警戒にあたるウクライナ軍の兵士=2月19日、遠藤啓生撮影

投稿に対しては、ロシア人とみられるユーザーから「面白い」などの反応があったが、中には同国東部ドンバス地域の親ロシア派支配地域を挙げて、この動画に「(パフォーマンスの一部である)フラッシュモブ『私たちはドンバスと共にいる』というのはなかった」と状況を揶揄するメッセージもあった。

また、ドンバスの幼稚園が最近、砲撃された写真を投稿しながら、この動画のパフォーマンスとウクライナ危機とを関連づけた見方をするユーザーは少なからずいるようだ。