大統領自らメダル量産作戦の音頭を取る「プーチンのオリンピック」が再び始まった。すでに団体戦が始まったフィギュアスケートでは4回転ジャンプを連発するカミラ・ワリエワ(15)、アンナ・シェルバコワ(17)、アレクサンドラ・トルソワ(17)ら女子選手3人の「ロシアっ娘」が表彰台独占を達成する勢いで、北京でもROCが各国メダル獲得ランキング上位に入ることが予想される。
ロシア政府は2月3日、ミシュスチン首相自ら、北京大会での選手団の活躍を期待し、報奨金制度を発表。金メダリストに400万ルーブル、銀メダリストに250万ルーブル、銅メダリストに170万ルーブルを与えることにした。
大のスポーツ好きな大統領にも特別な態勢をとる。
ペスコフ大統領報道官は3日の会見で、「大統領はテレビ中継を見る時間がない」として、プーチン氏のためだけに連日、ダイジェスト版情報を作ることを明かした。スポーツ省や現地のオリンピック関係者から生の情報をもらい、「選手の健康状態や、いつ誰がどんな試合に出るか、翌日以降にはどんな試合があるのか」などをプーチン氏に伝えるという。
プーチン氏は北京から帰国後もこのダイジェスト版をもとに、連日、オリンピックでの選手のメダル獲得状況をチェックすることになりそうだ。
2000年に大統領の座についたプーチン氏がオリンピックを経験するのは今回で夏冬あわせて12大会目となる。少年時代から始めた柔道は黒帯の実力を持ち、60歳を超えても「毎日1000メートル泳ぐ」と豪語したこともある。冬季競技ではアイスホッケーやスキーも嗜み、2014年ソチ大会が決まった最終プレゼンでは自らIOC総会に乗り込み、ロシア語、英語、フランス語でアピールしたことはよく知られている。
プーチン氏が今回、北京入りするのは特例措置だ。制裁を決めたスポーツ仲裁裁判所(CAS)によれば、政府関係者や国会議員らもオリンピック開催地に入ることは禁じられているが、開催国が招待すれば、特例として訪問することができる。今回、ロシアとの関係強化を狙う習近平国家主席が招待状を出し、これを受け取ったプーチン氏が北京行きを快諾した。外国でのオリンピック開催地訪問は2012年ロンドン大会以来になる。
一方、「スポーツは、社会の団結ならびに発展に役立つ普遍的な手段である」とスピーチしたこともあるプーチン氏は、かつてソ連時代にアメリカと覇を競ったスポーツ大国の復活を夢見ており、スポーツを国威発揚や国民の愛国心高揚のために用いてきた。
国会議員や政府要人にもスポーツ人脈が多く、プーチン氏の事実婚の相手とされるアリーナ・カバエワさん(38)も2004年アテネオリンピックの新体操の金メダリストだ。
ロシアのドーピング問題が発覚したのは2014年。旧ソ連の情報機関KGB(国家保安委員会)の流れを組むFSB(ロ連邦保安庁)が関与し、禁止薬物を吸引した選手の検体すり替えや検査データの改ざんなどが国家ぐるみで行われたと認定された。こうした不正が行われた背景にも、プーチン氏が主導したメダル増産戦略があったと分析されている。
ロシアは北京大会でも、この制裁措置が響く。昨夏の東京オリンピックの際と同様、選手のユニフォームにロシアという名前は入れられず、期間中の国旗の使用は一切認められていない。
ロシア人選手が金メダルを取った際には、表彰式でロシア国歌ではなく、世界的に知られるチャイコフスキーの「ピアノ協奏曲第一番変ロ短調」の曲が流れることになっている。
2014年ソチ大会でロシアは大会終了後に、ウクライナ南部クリミア半島へ侵攻し、その後併合にいたった。
今回もプーチン政権はウクライナへの武力侵攻をちらつかせているが、昨年12月に国連が「オリンピック休戦決議」を採択しており、北京大会終了まで表向きはロシア軍の動きも鳴りを潜める可能性がある。