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ボクシングなのに投げ技、足かけ…元WBO王者の木村翔選手、中国選手から危険技の連発

World Now 更新日: 公開日:
WBOフライ級タイトル戦での木村翔選手
WBOフライ級タイトル戦での木村翔選手(左)=2017年12月、東京

試合は今月18日、中国の武漢で開かれた。木村選手と対戦したのは、中国人TikTokerでキックボクサーの李玄武(リ・シェンウー)選手。

試合は、中国現地時間のこの日午後2時ごろスタートで、インターネットでも生中継されていた。

中国で有名な総合格闘家として知られる劉文擘(リュウ・ウェンボー)さんは、試合翌日の19日夜、試合の動画を解説の音声つきで投稿した。

それによると、木村選手は1ラウンド目で、玄武選手に足をひっかけられるなどして繰り返し倒された。そして2ラウンド開始直後。玄武選手に正面から胴体を抱き上げられた後、床に頭から落とされた。すぐにセコンドとみられる人物が棄権を宣言し、木村選手の「敗北」が決まった。

これらの動画は、中国の「ウェイボー」などで拡散。中国の格闘技ファンらネットユーザーから「中国の恥だ」「木村選手に申し訳ない」「スポーツじゃなくて、いじめだ」などと玄武選手を非難するコメントが相次いだ。

その後、Twitterなどにも動画が転載され、日本の関係者やネットユーザーからも怒りの声が次々と上がった。世界ボクシング協会(WBA)ライトフライ級スーパー王者の京口紘人選手は試合の翌日、Twitterで「最後の抱え込んでマットに叩き落としたやつなんなの。事故が起きても不思議じゃないぞ」と、技の危険性を指摘した。

一連の反応を受け、木村選手はTwitterで「この度は中国でのエキシビジョンマッチ(ボクシングルール)の件でファンの方々ボクシング関係者の方々にご心配、ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。反則行為を繰り返され試合を中止してもらいました」などと投稿した。

この「反則」をめぐっては、玄武選手との間で話が食い違い、争点となっている。

中国のネットメディア「捜狐体育」などの報道によると、対戦相手の玄武選手は「木村選手はプロボクサーだから、純粋なボクシングルールでは絶対に勝てない」「試合前に木村選手と話し合い、ボクシングルールから別のルールに変更が決まった」などと、SNS上で主張している。

一方、木村選手は、23日にYouTube番組に出演し、「ルール変更」について「こっち側は全く知らなかったし、知らされてなかった」と否定した。

そして、この番組内で試合の様子を振り返り、「ふたを開けてみれば、大会があっち(玄武選手)側の興業。あっちのスポンサーがたくさんいて、あっちの仲間しかいないような大会だったから、入場した時からすごいアウェーだなっていう感じだったし、始まっても、ああいう攻撃を仕掛けられる。おかしいなっていう風に思っていた」と語った。

木村選手は、2017年のWBOフライ級タイトル戦で、中国の五輪2連覇王者、鄒市明(ゾウ・シミン)選手に勝利したことがきっかけで、中国国内で人気に火がついた。中国のSNSウェイボー(微博)では、4.3万フォロワーを持つ。近年は、中国に練習の一拠点を置き、度々訪れていた。

一方で、Twitterなどでは、玄武選手個人に対してだけでなく、中国人全般へのバッシングも激化していた。木村選手は、こうした状況を見かねたのか、20日になって次のように呼びかけた。

「中国でのエキシビジョンご心配おかけしました。幸い怪我もなく、身体に異常はありません。ただ世界中どんな国でも悪い人もいれば、いい人もいる。誠実な人もいれば、ずるい人もいる。この件で中国人を嫌いにならないで欲しい」

この投稿は、中国のSNS上で翻訳されて転載。中国人のネットユーザーの間では、木村選手の体調を案じる言葉とともに、「中国人への優しい言葉をありがとう」などと感謝の声が広がった。

今回の試合のチラシには、主催者として、世界空手連盟(WKF)と世界ボクシング連合(WBU)などが掲載されているが、両団体の中国支部は、試合当日に関与を否定する声明を出した。

「2021年12月18日に武漢で行われた日本のプロボクサー木村翔と中国のインフルエンサー玄武の茶番劇は、WKFとWBUが口頭や正式な書面で許可したものではなく、WKFとWBUの役員、選手、コーチ、審判は一切関与していません。WKFとWBUは弁護士チームを任命し、この違法かつ侵害的なイベントの主催者に対して法的措置を取る検討をしています」

また、日本のプロボクサーのライセンス管理などをしている日本ボクシングコミッション(JBC)の担当者は、GLOBE+編集部の取材に対して「今回の試合に関して海外遠征届けが出ておらず、選手や試合の状況を把握していないため、コメントできない。調査の上、対応を検討する」と回答した。

一方、木村選手が所属する花形ボクシングジムのマネージャーは「今後の対応は、木村翔本人の帰国後の隔離が終わった後、前向きな方向で、本人と話し合って検討したいと思います」と述べた。ただ、ジムは公式サイトで28日、木村選手の名前で経緯を説明する文書を公表した。その中で、木村選手は「今回の反則行為は許しがたい」と改めて非難した。

試合の多くは公式団体関与せず

中国では最近、格闘技の人気が高まっている。中国と日本でボクシングのコーチをしてきた中国人の男性によると、ここ10年ほどで急激に起きた現象で、中国の総合格闘家、李景亮(リー・ジンリャン)らの活躍による影響が大きいという。

「元々、格闘技のジムは大都市に集中していたが、人気が高まり、各地に広がった」。男性はそう指摘する。

ただ、男性は今回の試合については厳しい見方を示す。「中国の格闘技業界に関わって15年ほどだが、こんな酷い試合は初めて見た。危険技に対して歓声が上がっていたが、本当の格闘技ファンなら、喜ぶはずがない。『中国vs.日本』という構図を知って興味本位で訪れた観客だったのでは」

また、格闘技を10年以上観戦し続ける中国人の男性も「昔からの格闘技ファンは、選手の安全第一を願っているが、残念ながら、新しいファンの中には『刺激』を求める人もいる。今回の件は、主催者が観客を呼び込むために、『刺激』を優先した結果だと思う」と話す。

その上で、ずさんなルールや運営のあり方に対し、こう懸念を示した。

「格闘技の試合は、中国各地で様々なルールで無数に開催されている。公式団体が関わっていない試合がほとんどで、管理する『プロ』がいない状態だ。多くは最低限の配慮はあると思うが、今回のような事件を起こさない環境を整えるべきだろう」