1. HOME
  2. World Now
  3. 日ハム「日サロ」問題でよみがえる「悪意なき差別」の記憶 母が中国の私、怒りと後悔

日ハム「日サロ」問題でよみがえる「悪意なき差別」の記憶 母が中国の私、怒りと後悔

World Now
「日サロ行きすぎだろ」と言われた直後の万波中正選手(中央)。苦笑したような表情を浮かべている。球団がTwitterに投稿した動画に一部始終が映っていた(現在は削除)=@FightersPR/Twitter
「日サロ行きすぎだろ」と言われた直後の万波中正選手(中央)。苦笑したような表情を浮かべている。球団がTwitterに投稿した動画に一部始終が映っていた(現在は削除)=@FightersPR/Twitter

【関連記事】「日サロ行きすぎ」発言、父がコンゴ人の日ハム・万波選手に? 球団「聞こえるが…」

私は日本人の父と中国人の母の間に生まれた。子どもの頃から「悪意なき差別」にさらされてきた。

Twitterで問題の動画を見たとき、私が最もつらかったのは、発言直後に万波選手が見せた苦笑と凍り付いたような表情だ。まるで過去の自分を見ているようだった。

「小川くん、天然だよね。お母さんが中国人だから?」

小学校高学年のころ、同級生からそう言われたことがあった。当時は、差別という概念も知らず、「よく意味が分からない」と思う程度だった。「そうかな?」。何度かやり取りをして終わった。

その何カ月か後。「ハーフなの?」。同級生にそう聞かれ、とっさに否定してしまったことがあった。小学生とはいえ、「ハーフ」の意味はおおよそ分かっていたし、隠さなければいけないと強く意識していたわけでもない。ただ、今振り返ると、「自分が日本人ではない何かを持っている」と確認されている気がして、怖かったのだと思う。

中学、高校と進んでも、偏見に基づいた発言は続いた。おのずと自分のルーツについては積極的に話さなくなった。

「ハーフだから自由人だね」「中国人って空気読めないよね」

私は、多くの場合、苦笑いをしてやり過ごした。「この人たちは悪気があるわけじゃないんだ」と自分に言い聞かせながら。何より言い返すことで雰囲気が悪くなったり、変な噂が広まったりするのが怖かった。

反論どころか雰囲気に流されて偏見に同調してしまうことすらあった。自分の立場を100%「日本人側」だと見せかける「自衛」の術だったのかもしれない。だが、それは差別への加担だった。そう気づいたのは大学進学後のことだ。

入った学部は、留学生が全体の3割を占め、それ以外の日本人学生も海外にルーツを持つ人が多かった。「純ジャパ」(帰国子女ではなく、海外経験がない日本人)、「半ジャパ」(片方の親が外国人or帰国子女)、「ノンジャパ」(外国人)。それぞれの定義には諸説あるが、そんな差別的な呼び方をする人もいた。

様々なバックグラウンドを持つ友人と議論する中で、知らず知らずのうちに誰かを傷つけてしまう差別表現が多くあることを知った。

そして、かつて自分がスルーしたり、同調したりした差別発言は、彼らに向けられた「刃」でもあったのだと考えるようになった。

「自分だけの問題。自分が少し我慢すればいい」などと許してはいけなかったと気づき、後悔した。

悪気がなかったとしても差別発言にNOを言い続けなければ、自分だけでなく別の誰かも傷つけてしまう。私は自身の過ちから、そう学んでいる。

だからこそ、取材に対して日ハムが回答した内容には心底がっかりした。コメントはこうだ。

「該当の動画を確認し、該当の発言が微かに聞こえることは確認しました。発言している選手の口元の動きまでは分からず、4カ月が経過し、誰が誰に対して、どのような意図で発言しているのかは確認できませんでした。発言が差別を目的とした悪意あるものであったならば看過できませんが、誰がどのような意図をもって発言したものか、確認が取れておりません。しかし、憶測や誤解を招く可能性のある内容でもあり、動画を視聴し不快に思われる方もいらっしゃると判断し、本日削除しました」

発言が差別であることすら認めない。発言者の意図はどうであれ、発言の内容自体が差別であることに異論があるはずがない。

これまでも、差別発言が問題になる度に、関係者たちは「誤解」という言葉で逃げ、「受け取り側の問題」にすり替えてきた。

受け取り側への責任転嫁とも言えるすり替えがなぜ繰り返されるのか。人種問題に詳しい日本在住の黒人作家バイエ・マクニールさんは取材に対し、「多数派という強者が、少数派に沈黙を強いる社会構造」と指摘した。彼は言う。

「アフリカなど海外のルーツを持つ日本人の多くは、こうした発言が当たり前に感じてしまうほど、子どものころから嘲笑され、差別されて生きてきました。新人の彼は、言い返すことで『クレーマー』のレッテルを貼られ、キャリアに響くことを恐れていたのでしょう。野球選手に限らず、ほとんどの人は抑圧され、声を上げられずにいます。多数派が支配するこの状況が続く限り、受け取り手の問題だと決めつけられ、差別はなくならないのです」

日ハム広報がコメントを出した日、くしくも海の向こうにある米メジャーリーグでは対照的な事例があった。それはかつて日ハムでプレーしていた大谷翔平選手をめぐる騒動だ。

打席に入る準備をする大谷翔平選手=5月16日、USAトゥデー・ロイター

テレビ解説者のジャック・モリス氏が大谷選手に対して人種差別的な発言をしたところ、テレビ局「バリー・スポーツ・デトロイト」は彼を無期限の出演停止処分にしたのだ。

モリス氏はタイガース―エンゼルス戦の実況中、大谷選手が打席に立った際、アジア人なまりをまねた英語で「Be very, very careful(とても、とても注意して)」と言った。

ゲーム終盤で「特にアジア系の方々に不快な思いをさせてしまったのであれば、心よりお詫び申し上げます」と謝罪したが、同局は「非常に失望」「深くお詫び申し上げる」とした。その上で、「発言の影響力や、多様性のあるコミュニティの中で良い影響を与える方法について学び直してもらう」とモリス氏の偏見を正す講習を行うと発表した。

モリス氏が選手時代に所属していた対戦相手のタイガースも「とても失望している」とし、同局の対応を支持した。

メジャーリーグでの差別的言動の事例を見ると、基本的に処分と講習はセットになっている。

2017年のワールドシリーズでは、ドジャースのダルビッシュ有投手に対する差別行為が問題になった。複数の地元メディアによると、アストロズのユリエスキ・グリエル選手が、ダルビッシュ投手から本塁打を放った後、アジア系の人を侮辱する「つり目」ポーズをした。

グリエル選手は「弁解の余地はない」と謝罪する一方、「攻撃的な意図はなかった」とも語ったが、メジャーリーグ機構(MLB)は差別行為のあった翌日、グリエル選手に対し、翌シーズン開幕5試合の出場停止処分を科し、人種差別について学ぶトレーニングを受講させると発表した。

こうした対応は、当然とも言えるが、日本の野球界として見習うべきポイントは多いはずだ。それは以下の二つに集約できる。

① いずれも発言・行為者が明らかだったケースだが、本人の「意図」に関わらず「差別」と認定した
② 問題が起きた翌日に処分を示した上で、具体的な再教育の方針を示した

日ハムは「今後も必要な教育と指導を徹底していく」とコメントしているものの、そもそも発言者を特定していないため、表面的な言葉にしか思えない。

もちろん、発言者個人の糾弾が目的であってはならないが、発言者を明らかにしなければ、スタート地点にも立てないだろう。

調査や処分を徹底せず、受け取り手の問題に矮小化した日ハムの責任は重い。日ハムには、発言者や経緯を明らかにする調査をした上で、具体的な再発防止策を打ち出すことを強く求めたい。

場合によっては、日本野球機構(NPB)のコミッショナーが解決に向けてリーダーシップをとるべきだろう。

今回の差別発言は、万波選手だけでなく、私たち一人ひとりに向けられた「刃」だと受け止めるべきだと考える。

私は尖閣諸島問題が過熱した2011~12年、上海に留学し、ごく一部ではあったが、通行人などから日本人に対する蔑称を浴びせられたこともあった。中国人に限らず、欧米人からの侮辱もあった。子どもの頃は中国にルーツがあるが故に差別され、今度は日本にルーツがあるが故に差別されたわけだ。立場が変われば、どのようなルーツであれ差別される可能性があるという、問題の根深さを表している。

差別は悪いことだからやめよう。そう言うのは簡単だ。だが、実際、自分が差別される側になった時、心折れずにNOと言い続けられるか。私は、今までの体験や取材から、それがどんなに難しいことか痛感している。「考えすぎだよ」「メンタル弱くない?」。残念ながら、「受け取り側の問題」と決めつけ、追い打ちをかける人も多い。

差別と闘う時、「一番の強敵」として立ちはだかるのは、組織の偉い人でも国の権力者でもない。それは、差別され苦笑する人が隣にいるのに、通り過ぎようとしている「あなた」なのだ。

母の故郷・中国に留学していた時の筆者。チベット自治区に向かう青蔵鉄道の寝台列車内で、チベットの子どもたちと日本アニメを見た=2012年2月
母の故郷・中国に留学していた時の筆者。チベット自治区に向かう青蔵鉄道の寝台列車内で、チベットの子どもたちと日本アニメを見た=2012年2月